256.加勢-Reinforcements-

1991年7月14日(日)PM:12:39 中央区精霊学園札幌校北中通


 陸霊刀 黒恋(リクレイトウ コクレン)を背負っている桐原 悠斗(キリハラ ユウト)。

 彼は疲弊した表情ながらも、ひたすら走り続ける。

 即席で自身の霊力で作り上げた、コンクリート製の背凭れ付きの椅子。

 黒恋が落ちないように座らせていた。


 椅子から伸びるコンクリート。

 黒恋は椅子に固定されている。

 その上で、椅子と悠斗自身を繋いでいるのだ。


 椅子を背負う形にもなっている接続部分。

 腰と肩の二箇所存在する。

 更に、椅子の底面からは足が二本伸びていた。

 その先は車輪状になっている。


 隣を一緒に走っている中里 愛菜(ナカサト マナ)。

 彼女が、時折悠斗に指示を出している。

 その指示は蔓の攻撃回避の為だ。


 椅子の背面を盾状に大きく展開している。

 その為、悠斗は背後にかなりの死角が存在した。

 蔓の攻撃そのものは防げる。

 だが、攻撃による衝撃までは吸収しきれない。

 その為、愛菜が指示しているのだ。


 もちろん反応しきれない時もある。

 その時は、愛菜が光の盾を生成し、攻撃を逸らしていた。

 一体や二体ならば、それでも何とかなるだろう。

 しかし、三人を追いかけているのはそんな生易しい数ではない。


「くそ、澪唖ちゃんが助けてくれたのに、まさか別方向からも来てるなんて・・」


「ゆーと君、どうしよう? まだ距離はあるけど、正面にも」


 愛菜の言葉に、正面に顔を戻す悠斗。


「強行突破しかないか・・。問題はどうやってするかだけど・・」


「ゆーと君、右に」


 愛菜の言葉に、右に回避する悠斗。

 更に別の蔓の集合体が、彼を追撃する。

 その攻撃は、愛菜が光の盾で弾く。


 右後ろに注意を向けている愛菜。

 左後ろからの蔓の攻撃に気付くのが遅れる。

 即座に反応出来なかった。


「間に合わ・・」


 光の盾で防ぐ事は出来た。

 だが、威力を逸らす事は出来ない。

 彼女はそのまま、悠斗の前方に吹き飛ばされる。


「愛菜!?」


 悠斗を飛び越えて振るわれる蔓。

 吹き飛ばされた愛菜を狙う。

 しかし、なんとか愛菜の側まで飛び込んだ悠斗。

 衝撃により、椅子毎揺さぶられる。

 それでも黒恋は、一向に目覚める気配はなかった。


 愛菜を狙った蔓を弾く悠斗。

 コンクリートで篭手を生成して装備していたのだ。

 しかし、椅子状のコンクリートを装着し、黒恋を背負っている。

 どうしても、動くには限界があった。


 時には篭手の形状を変化させる。

 蔓を防いだり、弾いたりする悠斗。

 徐々に数が増え追いきれなくなる。


 気付けば、周囲を蔓の集合したような植物体に囲まれていた。

 意識を失っている愛菜。

 なんとか目覚めさせたい悠斗。

 しかし、蔓による攻撃を防ぐのに手一杯。

 声を掛ける余裕さえなかった。


 左からきた無数の蔓の打撃。

 捌ききれず、弾き飛ばされた悠斗。

 意識を失っている愛菜に、近づいていく蔓。

 何とかしないととは思い焦り始める悠斗。

 しかし、吹き飛ばされた彼は、すぐに立ち上がる事が出来ない。


 愛菜が目覚めた時、すぐには状況を把握出来なかった。

 立ち上がる事も出来ないままでいる。

 何とか蔓による攻撃を防いでる悠斗に気付く。


 背後の攻撃は防ぐ事が出来ない状態だ。

 衝撃に前のめりにされながらも、必死に立て直そうとする姿。

 おぼろげな意識が、一気に覚醒した愛菜。

 自身の体を這い上がってくる感触に顔を顰める。


「離して!? 離してよ!?」


 暴れる愛菜だが、蔓達による拘束には然程効果はなかった。


「いや!? やめて? 離して!? 今度は私がゆーと君を助けなきゃ? ん、ううん」


 両手の動きを塞がれた。

 足元を太腿まで這い上がってくるいくつもの蔓。

 不快感に顔を顰め、光の盾を生成し蔓を弾く。

 しかし、数が多すぎた。


 徐々に蔓に体を埋めていく愛菜。

 必死に愛菜を助けようと動こうとする悠斗。

 しかし、彼目掛けて今までにない数の蔓が振り下ろされる。


「間一髪って所かな?」


 突如、切断され燃え上がる数多の蔓。

 散らばる炎の中の白紙 伽耶(シラカミ カヤ)。

 浮遊感を感じる愛菜。


「いたっ!?」


 拘束が突然なくなり愛菜はお尻から落ちた。


「愛菜ちゃん、大丈夫?」


 愛菜に群がっていた蔓達は、散らばっている。


「沙耶ちゃんに伽耶ちゃん!?」


「大丈夫そうだね」


 愛菜ににっこり微笑む白紙 沙耶(シラカミ サヤ)。

 間一髪だったが、伽耶と沙耶が間に合ったのだ。


「助かった。伽耶さん、ありがとう」


「無事で何より」


「でも何でここに?」


「詳しい話は後。悠斗君と愛菜ちゃんは休んでて」


「ここは私達がやるから」


「いくよ!! 沙耶」


「うん」


 突如、何かの炸裂音が轟く。

 少し離れていた植物体が一体。

 圧縮されたかのように拉げた。


 一瞬何が起きたのか把握出来ない四人。

 何となく音がしただろう方角を見た伽耶。

 そこに見えたのは極 伊麻奈(キワ イマナ)らしき少女。

 隣の少女は小銃を構えている。


 伊麻奈が何か身振りで動いているのがわかった。

 しかし、伽耶には彼女が何を伝えたいのかわからない。

 その為、思わず首を傾げてしまった。


「伊麻奈ちゃん、伝わってない見たいだね」


 構えたまま、眼下を見ている色名 砂(シキナ スナ)。

 彼女は、伽耶達に近付こうとしている植物体を銃撃していく。

 伽耶と沙耶の、火と水の競演。

 悠斗と愛菜を守るように立ち回っている。


 その姿を見ている伊麻奈。

 彼女は突如、自身の妖力を全開にさせた。

 溢れ出る妖力を文字の形状に変形させ始める。

 下にいる彼女達も、気付いたようだ。

 時折視線を伊麻奈に向けている。


 何度か失敗を繰り返した伊麻奈。

 桃色の妖力で、空中にでかでかと文字を作り上げた。

 砂と伊麻奈でエンゴするよ、と。


「砂と伊麻奈でエンゴにするよ!? エンゴって何だろ?」


 伽耶の発言に、刀を振るいながら苦笑する沙耶。


「伽耶、カタカナで見ちゃ駄目だよ。たぶん漢字だと画数多くてわかりにくいから、片仮名なんだと思うよ?」


 植物体を斬り燃やしながら、それでも首を傾げた伽耶。


「お手伝いするよって事じゃないかな?」


 悠斗に寄り添い、いつでも対応出来るようにしている愛菜。

 少しだけ控えめな声で溢した。


「あ? あぁぁぁ!!」


 植物体を二体、斬り伏せた伽耶。

 愛菜の言葉により、やっと理解する。


「伊麻奈ちゃん、次のマガジン準備お願い」


「うん」


「動くもの? 違う? 音に反応なのかな?」


 砂達がいる第二学生寮に登り始める植物体。

 銃撃で叩き落としながら、悠斗達の方への援護射撃も続ける。

 ふと、伊麻奈が後ろで動き回っている事に気付いた。


 彼女は銃撃に集中し過ぎていたようだ。

 背後を振り返ると、予想外の状況におどろく砂。

 複数の植物体と伊麻奈が近接戦闘を繰り広げている。

 彼女は手足に妖力を集中させ、殴り倒し、蹴り砕いていた。


「す・砂ちゃんは、援護を続けて!」


 伊麻奈の言葉に、背後に注意を向けていた砂。

 再び前方に銃撃を開始する。

 しかし、その銃撃速度は明らかに遅くなっていた。


 多数相手に立ち回っている伊麻奈。

 しかし、彼女が余り戦闘が得意ではないのは砂も知っている。

 それに多勢に無勢だ。

 彼女一人では耐え切れないかもしれない。

 どうするか迷いながら銃撃を続ける砂。


 伊麻奈は何とか複数の植物体の蔓の攻撃を躱している。

 倒す事には専念はしていない。

 建物の屋上から弾き出すようにしていた。

 彼女の攻撃力では、一撃で倒す事が出来ないからだ。


 しかし、徐々に数が増えていく。

 その為、対処が追いつかない。

 蔓に足を取られた伊麻奈。

 体勢を崩し、転倒した。

 そこに追撃の蔓が振り下ろされる。


 刹那、蔓を振り下ろそうとした植物体は拉げた。

 銃撃した砂に振り下ろされる別の植物体の蔓。

 横を向いた伊麻奈の視界に飛び込む。


「砂ちゃぁぁん!?」


 伊麻奈に微笑んでいる砂。

 彼女は、方向を変えて銃撃を試みる。

 だが、どう見ても間に合わない。

 しかし、蔓が振り下ろされる事はなかった。


 それどころか、周囲の植物体が次々に斬り裂かれて行く。

 屋上に上っていた植物体がほぼ活動を停止した。

 その中心、紫のドレスとベールに身を包むアンナ・ポールプゥラ・エルフィディキア。

 彼女が、逆手で両手にナイフらしきものを握り立っていた。


「二人無茶駄目」


 砂と伊麻奈に、アンナが加勢していた。

 その頃、眼下でも同様に加勢者が現れ始める。

 悠斗と愛菜、そして伽耶と沙耶。

 四人は眼前の光景に驚いている。


 紫のドレスとベールに身を包んだハンナ・ポールプゥラ・ドルヒュ=ヴゥン・エルフィディキア。

 彼女を先頭に、ブリット=マリー・エクやブリジット・ランバサンド。

 その他第二学生寮の生徒達が植物体を攻撃していくのだ。

 攻撃部隊と支援部隊に分かれているようにも見える。


「悠斗さんに愛菜さんだったかしら? ここは私達がお相手しますの。何処かに向かっているようでしたわね? 行きなさいな。伽耶さん、沙耶さん、二人の護衛を任せますわ」


「ハンナさん、ありがと」


「ありがとうございます」


 伽耶と沙耶の言葉に、微笑みを返したようだ。

 躊躇する悠斗を伽耶が、愛菜を沙耶が立ち上がらせた。


「悠斗君、愛菜ちゃん、後ろの娘が何かやばいんでしょ? 行くよ」


「そうだった。ハンナさん、ありがとうございます」


 悠斗と愛菜は、その言葉を同時に言った後に一礼。

 重い体に活をいれ走り出した。

 伽耶と沙耶も二人を追従する。


 通過した第一学生寮。

 そこでも同様に生徒達が植物体と交戦していた。

 事情を理解していないはずだ。

 なのに偶然か必然か悠斗達を援護する形になっていた。

 悠斗と愛菜は、一瞬顔を見合わせる。

 そして、それ以降植物体とは遭遇する事は無かった。

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