220.固有-Inherent-

1991年7月13日(土)AM:1:00 留萌市沖見町沖見海洋特殊研究所地下四階


「アラシレマさん、凄い! いろいろな事出来て凄いですね!!」


「うーん? これはーねー、僕が出来るのとはちょっとー違うかーな? 僕の固有能力のひーとつーに魔術咀嚼吸収(マジックイートドレイン)っとか言うのーがあってねー。この名称はだーいぶまーえに、調べてもらったーんだけどー」


 そこで一度会話を止めたアラシレマ・シスポルエナゼム。


「何て説明しーたらいいーのかなー? うーんとねー、事前に相手の魔術を見るとかーいくつーか条件がーあるんだーけど。そのうーえで相手を食べるのー。そーしたら相手のを見て記憶した魔術をーつかえーるようになーる。咀嚼吸収しーても、僕自身が存在をわーすれちゃったらー使えなーいけーどね。詠唱が必要だからー、忘れちゃったーらー詠唱わかんないもん」


 会話をしながら歩いていく二人。

 辿り着いた別のエレベーターホール。

 そこには左目に縦に斬り傷のある男が座っていた。


 腰に刀を差している。

 髪をポニーテール状に後ろで結んでいた。

 前髪もかなり長く、鼻にかかってる。

 着流しで青い着物を着ている姿はまるで浪人だ。


「拙者は和口 七兵衛(ワグチ シチベエ)と申す。黒狼殿、お主は何故このような海の底に参られた?」


「あーらら? 問答無用で攻撃しーてくるかーと思ったのーに。ここの地下に収監されてーるっていう八人をあわよくば仲間にしたーいからかーな?」


「そうでござるか。今この施設は大混乱でござる。応援を呼んでいると思われるが、黒狼殿のお望みの八人とここの魔力源に、拙者の背後のエレベーターで向かえるでござるよ」


「拙者をたおせたーらとか言うんだーよねー?」


「その通りでござる。いざ尋常に勝負」


 言葉と同時に和口から放たれた剣気。

 刀をいつでも抜けるように、右手で柄を握っている。

 アラシレマも真剣な眼差しで相手を見た。


 しばしの睨み合い、唾を呑んだ綿烏 雅(ワタガラス ミヤビ)。

 まるでその音が聞こえたかのようだ。

 同時に動いた二人。


 雅には何が起きたのかわからなかった。

 首から血を噴き出している和口。

 にやりと笑っているアラシレマ。

 彼の左手に握られているのは和口の頭。


「たぶん一級魔刀師なんだろーねー。一回斬られただーけで、障壁が消えちゃったやー」


 アラシレマの腹部からは血が垂れている。

 右手も肘から先が縦に裂かれて半分がなかった。

 和口の一撃は反射の障壁を破壊。

 刀を止めようとしたアラシレマ。

 彼の右手を斬り裂く。


 しかし、アラシレマの左手による攻撃。

 和口は回避出来なかった。

 もしかしたら、一刀で斬り伏せる自信があったのかもしれない。


 アラシレマが何かを囁く。

 時間が逆戻りしているかのようだ。

 床に落ちていた右手の肘の先。

 その半分が宙を舞う。

 本来あった場所へ帰還した右手の肘の先、その半分。

 回復を確認するかのように、右手を動かすアラシレマ。

 彼をじっと見ていた雅。


「さーて、雅ちゃん、いこーかね」


 一つしかないエレベーター。

 ボタンを押したアラシレマ。

 すぐに開いた重厚な扉。

 躊躇せず乗り込んだアラシレマ。

 雅もゆっくりとエレベーターに乗り込んだ。


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1991年7月13日(土)AM:1:24 留萌市沖見町沖見海洋特殊研究所地下七階


 監視カメラの映像。

 全面のディスプレイに表示されている。

 投獄されている八人それぞれの部屋。

 施設内を映している模様。

 八人は全員就寝しているようだ。

 それぞれの部屋は真っ暗。


 しかし、アラシレマが見ているのは全く別の映像だった。

 紫色の液体が満たされている巨大な球体。

 その中には、橙髪のロングヘアーで赤眼の全裸の少女。


「魔力源がどーたらはこーれーか?」


「どう見ても女の子ですよね」


「そーだーねー。なんだーかよーくわからなーいけど、出してあげよーか」


「はい」


「でもどーすればいいーんだろー? 壊せばいーかーなー? 雅ちゃーん、ここの機械の操作わかーる?」


「少し待って下さいね」


 棚に置かれている本を一つ一つ確認していく雅。


「ありました。操作マニュアルです。あって良かった」


 操作マニュアルのページを捲り、操作方法を調べる雅。

 その間、アラシレマはぼんやりしている。


「あ、雅ちゃん、このマイクでおーやすみ中なーかーれらーに話しかけーれるーかーな? そっちさーきに調べてくーれるー?」


「あ、はい。それなら」


 マニュアルを見ながらスイッチを一つ押した雅。


「これで大丈夫なはずです」


「あーりがとー」


 しばし、何と話しかけるか考えるアラシレマ。

 マイクに向かってしゃべりはじめた。


「あーあー、マイクのテースト中。お、ちゃんときーこえてーるよーね。外部おーんせいかー。あー、収監されてーるみなさーま、こんな時間だーけど、おはよーございまーす。僕達のなーかまになーってくれるーなら、そーこから出してあげちゃいまーすよー。まぁならなーいなら殺すだけなーんだけどね。とーりあえず、いまかーら出れるよーにするねー」


 映像で何人かが動いたのを確認したアラシレマ。


「雅ちゃん、開ける方法わーかったー?」


「はい。今操作してます」


 操作しながら答える雅。


「アラシレマさん、あの少女も助けるんですよね?」


「うーん、一応そーのつーもりー」


「わかりました」


 雅が再びいくつか操作する。

 球体の中の液体。

 徐々に放出され始めたのがわかった。


「これで皆様出れるはずです」


「そーれじゃ、僕達もいこーかー」


 コントロールルームを後に廊下を進む二人。

 辿り着いた先では、左右の十個の重厚な扉。

 徐々にせり上がっている。


 完全に扉が競りあがった。

 手錠足錠をされている八人が出てくる。

 そのうち一人は、目元が完全に隠されていた。

 一人は球体に生手足が生えてる謎の姿だ。


 奥の方にある合金製の扉が開き、歩いてくる少女。

 巨大な球体の中に閉じ込められていた少女だ。

 橙髪のロングヘアーに赤眼。

 赤と黒のボンデージドレスに身を包んでいる。

 アラシレマの前まで歩いてきた少女。


「妾を助けてくれたのは、そなた達じゃな? 妾はアズキャルート・ヘブネン・タローマティ。お主は何者じゃ? 狼人??」


「狼化族(ロウカゾク)だよー」


 投獄されていた八人。

 それぞれ扉の前で事の成り行きを見守っている。


「ふむ。妾は恩を返すまで、お主に着いて行こうと思うのじゃが、構わぬかの?」


「いーいんじゃないかーな?」


 八人の一人、赤い着物を着流している男。

 会話に割り込んできた。


「俺達を解放して仲間にして何をするつもりだ?」


「するーのは、僕の知り合いなーんだけど。権力がつよーいものが支配すーる世界じゃなーくて、本当の弱肉強食にしたーいんじゃないかーな?」


「力が強大な者が支配する世界ってことか?」


「そーじゃないかーな?」


「面白そうじゃないか。俺はあんた達に同行しよう。お前らもどうだ? こんなところで燻ってるぐらいなら、花火を打ち上げてみようじゃないか! いろいろ鬱憤もたまってるだろうしよ」


「よくわからんのじゃ。だが決めるなら早くした方がいいぞ。妾という要を失った以上、ここの機能はそう長くは持たないじゃろうしな」


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1991年7月13日(土)AM:2:16 留萌市沖見町国道二三一号線


「潮の香りじゃ」


 暗がりの海を眺めている十一名。


「それで俺らは何処に向かうのだ?」


 黒髪白眼の偉丈夫がアラシレマに問う。


「目指せ札幌だーよ」


「どーやって向かうつもりだ?」


 赤紫髪の偉丈夫はアラシレマを見た。


「自衛隊のトラックだよー。隠れ家に迎えに来るかーらー。それまーで隠れ家でたーいきー」

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