第十四章 黒霊異人編

221.寝衣-Nightwear-

1991年6月23日(日)AM:0:12 中央区精霊学園札幌校第二学生寮男子棟四階四○四号


 ベッドで眠っている少年。

 スポーツ刈りに、浅黒い肌。

 静かな寝息を立てて、眠っている。


 隣のもう一つのベッド。

 少女が一人、寂しそうな瞳。

 眠っている少年を見ていた。

 まるで親に捨てられた仔猫のようだ。


 おもむろに立ち上がった少女。

 向日葵色のストレートの髪。

 立ち上がった勢いにつられて、サラサラと揺れる。


 彼女のパジャマは前開きのボタンで留めるタイプ。

 上着だけ羽織っていた。

 サイズが大きいようだ。

 太腿の半分ぐらいまで丈がある。


 黄色の花柄のパジャマ。

 前開きのボタンは一つも留めていない。

 白い肌の彼女は、パジャマの上着だけ。

 下着を一切纏っていなかった。


 ふとテーブルの上に視線を向ける彼女。

 そこには、小さいヘアピンが二つと眼鏡が一つ。

 ヘアピンには何か文字が描かれているようだ。

 だが、角度の関係で内容は読み取れなかった。


 少女は静かに少年に近づいていく。

 少年の眠っているベッド。

 の側で屈んで、彼の顔をじっと見つめ始めた。


 そんな事も知らずに、眠っている少年。

 彼、三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)。

 顔を真っ直ぐ天井に向けて眠っている。

 時折微かに震える瞼。

 何か夢を見ているのかもしれない。


「ずっと独り占めしてたんだ。ずるいな」


 彼女は囁くように呟いた。

 静かにタオルケットを掴む。

 そっと潜り込んでいく少女。

 義彦の隣に寄り添うようだ。

 にぴったりとくっ付いた。


 彼女の体温を感じた義彦。

 少し震える。

 たが、目覚める事はなかった。


 しばらくして、義彦の隣の少女。

 微かな寝息を立て始めている。

 安堵したような表情で、義彦に寄り添う少女。


 義彦の手を彼女の太腿が挟む形になっている。

 時折、もぞもぞと動く義彦の手。

 知らず知らずに仄かな吐息を漏らすことになるのだった。


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1991年6月23日(日)AM:0:19 中央区桐原邸二階


 パジャマ姿の桐原 悠斗(キリハラ ユウト)。

 ベッドの上で考え事をしていた。

 静かにすやすやと寝息を立てている。

 眠ってしまっていたのだ。


 電気は消されている。

 微かな月明かりに照らされている室内。

 彼の隣で寝転がっている中里 愛菜(ナカサト マナ)。

 悠斗の寝顔を見つめていた。

 赤みがかった黒髪をおろしている。

 幽かに風呂上りの薫りを漂わせていた。


 ベッドの隣に敷かれている布団。

 濃い桃色の髪のミオ・ステシャン=ペワク。

 濃い水色の髪のマテア・パルニャン=オクオ。

 二人が眠っている。


 ミオは時折、小刻みに猫耳を震わせていた。

 マテアはパタンパタンとさせている。

 猫耳を開いたり閉じたりしていた。

 楽しい夢でも見ているのだろう。

 二人は眠りながら微笑んでいる。


 色違いのお揃いのネグリジェを着ている三人。

 愛菜は赤、ミオは青、マテアは橙。

 半袖スカートタイプの一体型。

 ところどころ苺の模様だ。


 悠斗の寝顔を見つめている愛菜。

 嬉しそうで、愛おしそうだ。

 寝返りを打った悠斗の手。

 彼女の体に被さる。


 悠斗の手が辿り着いたのは愛菜の胸。

 柔らかい感触。

 時折、優しく揉む様に動く悠斗の指。

 無意識の悠斗。

 残念ながら揉んでいる自覚はない。


 ミオとマテアが隣で眠っている。

 その為、一人悶えている愛菜。

 声も出せずに耐えていた。

 彼女の顔は恥ずかしさで、赧(アカ)らんでいる。


 時折、微かに零れる吐息。

 徐々に覚醒し始めた悠斗。

 彼が気付くまで、そのまま愛菜は耐えていた。


「あ ?ん? ま・・な? あれ? なん・・だろ? 柔らかい・・? 柔らかい?」


 指を動かして、再び感触を確かめた悠斗。

 すぐ横で羞恥の顔で、悠斗を見つめる愛菜。

 少し恨みがましい眼差しだ。

 しかし、直ぐに状況を飲み込めない悠斗。


「ゆ・ゆーと君、おはよ。あ・あのね。あ・あの・・・」


 羞恥一杯の顔で悠斗を見つめる愛菜。

 もう一度柔らかい感触を楽しんだ。

 そこで、やっと状況を把握した悠斗。


 薄手のパジャマの愛菜。

 ブラジャーを着けていない。

 ほぼダイレクトに悠斗に感触が伝わるのだ。

 悠斗は慌てて手を引っ込めた。

 彼の顔も程よく赤面している。


「ご・ごめん。愛菜、ほ・ほんとごめん」


「う・ううん。眠っていたんだしね。しょ・しょうがないと思うよ。な・何度も揉まれるとは思わなかったけど・・」


 後半は羞恥の為か、尻すぼみの声になった。


「え? ほんとう、うわ?ごめん、ほんとごめんなさい。怒ってる? そりゃ、怒ってるよね」


 赤面しながら、何度も謝る悠斗。


 それでもマテアとミオを起こさないように注意。

 二人は小声で囁くような会話だった。


「それで。あの・・どうだったかな?」


「え? ど・どうって? 感触!? こ・小振りだけど凄い柔らかかったよ」


「そ・それならよ・良かった」


「え? 良かった?」


「な・なんでもないよ。ゆーと君、ちゃ・ちゃんとベッドに入らないと風邪引くよ」


「あ、え? あ、はい。うん、そうだね。あ・ありがと」


 赤面している悠斗。

 もぞもぞとタオルケットを被る。

 潜り込んだ後、愛菜にもタオルケットを半分掛けた。


「ゆ・ゆーと君、ありがと」


 恥ずかしそうな声の愛菜。

 お互いに、ドキドキしていた。

 心臓が高鳴っているのを自覚している。


 直前の出来事の影響。

 二人は赤面したままだ。

 すぐに眠りに入る事が出来なかった。


 布団で眠っているはずの、ミオとマテア。

 二人の耳がぴーんと立っている。

 悠斗と愛菜は、その事実に気付く事はなかった。


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1991年6月23日(日)AM:0:32 中央区精霊学園札幌校第二学生寮男子棟四階四○四号


 腕に触れるほんのり柔らかい感触。

 耳元に聞こえる声。

 重い瞼を抉じ開けた義彦。

 隣で吐息を漏らしている少女の存在に気付いた。


 ほんのり柔らかい感触。

 彼女の小さな胸だという事を理解する。

 少しだけ顔を赤らめる義彦。

 しかし、無碍に振り解く事も出来ない。

 かといって再び夢の世界に旅立つ事も出来なかった。


 そのまま十分程経過。

 突然少女が、上半身を勢いよく起こした。

 肌蹴ているのを気に掛ける様子もない。

 彼女の突然の行動に、義彦は素で驚く。

 彼は赤と黒のストライプのパジャマを着ていた。


「Bad!! Come something?」


「何か? って意味でいいのか? で何かって何だ?」


「Sorry! 正面ForestからComeなの。Giganticナノ!!」


「何か? 確かに微かに霊力を感じる」


 扉を開けて入室してきた土御門 鬼那(ツチミカド キナ)。

 薄いピンクのパジャマ。

 梓弓型二級妖装器、緑嵐牙(リョクランガ)を握っている。

 頭にはヘッドセットを装着していた。


「義彦様」


「鬼那も気付いたか」


「はい」


「学園のSite到達Timeは、推定About eleven minutes!?」


 動揺している少女。

 日本語と英語が入り混じっていた。

 素の言葉になっている。

 一応普通の日本語はある程度習熟していた。

 義彦や鬼那もいろいろと教えてるところなのだ。


「巨大な何かが向かっていて、学園の敷地への到達時間は大体五分後ぐらいって事であってるか?」


 義彦の言葉に、何度も頷く少女。


「俺は正面入口に向かう。鬼那、時計塔地下の制御室に向かえ。何が来てるのかわからんが、最悪篭城も出来るだろう」


「畏まりました」


「着いたら解析させて、連絡くれ」


 義彦は、テーブルの側まで歩く。

 ヘッドセットと自分の眼鏡を手に取った。

 眼鏡を即座にかける。

 立て掛けてある炎纏五号丸(ホノオマトイゴゴウマル)を手に取った。


 ヘッドセットは左手。

 右手には炎纏五号丸(ホノオマトイゴゴウマル)。

 ベッドの上の少女の側に歩いた。

 屈んで目線を合わせた義彦。

 優しい声で語りかけるように囁く。


「怖いかもしれないが、皆で明日も一緒に朝ご飯食う為に力を貸してくれ」


 少女がゆっくりと頷いたのを確認した義彦。


「鬼那、後は頼んだ」


 パジャマのまま、義彦は廊下に駆け出しす。

 風の霊力で加速して階段を上に向かった。

 第二学生寮の屋上に出る。

 そこから第一学生寮の方へ、風の力で空を飛ぶ。


 風をうまく操作している義彦。

 第一学生寮の屋上に着地。

 彼の瞳は薄っすらと赤黒く輝いている。


 屋上を走り、更に飛翔した義彦。

 晴れた夜空、月明かりだけの暗闇。

 その中、ほんの微かに遠くで蠢く何かが視認出来た。

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