209.素描-Drawing-

1991年7月9日(火)PM:20:44 中央区精霊学園札幌校第三学生寮女子棟四階四○四号


 ピンク色のパジャマの愛屡駄 莉早南(アイルダ リサナ)。

 キャンディーの柄が散りばめられている。

 無地のノートに絵を描いていた。


 時折、赤褐色の垂れ耳をパタパタさせている。

 彼女が描いているのは、学園のセーラー姿だ。

 鉛筆でセーラー服を描き終わった。

 色鉛筆を取り出しながら何かに迷っている。


 しばらく迷っている莉早南。

 玄関の鍵が回る音が聞こえてきた。

 扉が開く音の後、鍵がロックされる音がかすかに聞こえる。

 制服姿で歩いてくるリアフィーア・ヴォン・レーヴェンガルト。

 向日葵色の髪の毛が、静かに揺れている。


「フィーアちゃん、おかえりー」


「ただいまなのです。何しているのです?」


「セーラー服描いてたのです」


 無地のノートを広げた。

 フィーアの前に突き出す莉早南。

 描かれたセーラー服を見るフィーア。


「やっぱり、莉早南ちゃん絵うまいのです」


「そ・そうかな?」


「私にはこんなに綺麗には描けないと思います」


「あれ? そう言えば、鬼都さんは?」


「部屋に戻りましたのです」


「そうなんだ」


 莉早南の質問に答えているフィーア。

 セーラー服とティーシャツを脱いだ。

 パンティー一枚で脱いだセーラー服をハンガーにかける。

 ティーシャツを洗濯籠に入れてから戻ってきた。


「鬼都さんってクナさんと同室だっけ?」


「確かそうです。二○四号室です」


 タンスから水色のパジャマを取り出したフィーア。


「いろんな種族の人がいるのに不思議と違和感ないよね」


「言われてみればそうかもしれません。そう言えば、戻る途中に一羽の鳥が羽ばたいてました」


「山の中だし、いろんな鳥がいるんじゃないかな?」


 パジャマに着替えながら、フィーアは莉早南に返答する。


「そうかもしれませんね」


「気になるなら、先生の誰かに聞いてみればいいんじゃないかな?」


「そうですね。はい、そうします」


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1991年7月10日(水)PM:18:12 中央区精霊学園札幌校第三学生寮女子棟四階四○五号


 楓柳 瑠璃(カエデヤナギ ルリ)は、毛布に包まっている。

 お尻だけを出して不貞腐れていた。

 花柄のパンティーに覆われたお尻だけが見えている。


 同室の小等部二年の褐 桃花(カツ トウカ)。

 もうどうしていいかわからない。

 ベッドの側で彼女のお尻を眺めているだけだ。

 紅梅の髪のショートボブの毛先をいじっている。

 少し泣きそうになっていた。


 しばらくそのまま、膠着の状態の二人。

 インターホンの音に、桃花は渋々立ち上がった。

 受話器を取り、通話ボタンを押す。


「はい」


「あぁ、その声は桃花ちゃんか? 白だけど」


「あぁ、白さん。瑠璃さんがいじけて困ってました。今開けますね」


 泣きそうな声で、なんとか受け答えする桃花。

 玄関の鍵を開けて白を招き入れた。

 靴を脱いだ冬鬼眼 白(トウキガン ハク)。

 彼女に手を握られ引っ張られていく。

 それでも、お尻をだしたままの瑠璃は反応しない。


「昨日の夜からこの有様なんです」


「おい、瑠璃。何不貞腐れてやがる?」


「ほっといてよ」


「ただかだ一回負けたぐらいで何いじけてやがんだ?」


 毛布に手を掛けて無理やり引っ張った白。


「いや、やめて。やめなさっ」


 あっさりと布団を引き剥がされた瑠璃。

 花柄のパンティー一枚しか纏っていなかった。

 涙目になりっている。

 反射的に白の左頬に右拳をお見舞いした瑠璃。

 しかし彼女の一撃を受けても白は微動だにしない。

 近くで二人の行動を見ていた桃花。

 瑠璃の行動に唖然としている。


「不貞腐れる気持ちもわかるけどよ。負けたなら強くなればいいんじゃねぇのか? 忌々しいが、あの女は俺達は妖力とは何か理解してないと言いやがった。ならばあの糞女に強くなって認めさせてやろうじゃないか? こんなところで不貞腐れてないでよ」


 白は瑠璃を抱き締めてキスをした。

 突然のキスに瑠璃は虚を衝かれて抵抗出来ない。

 その光景を一部始終見ていた桃花。

 視線を逸らす事も出来ない。

 ただただ顔を赤らめるだけだった。

 長い長いキスを終えた二人。


「白、でも強くなるって言ってもどうするの?」


 自分がパンティー一枚だった。

 その事も忘れて上目遣いに白を見る瑠璃。


「本当は余り会いたくはねぇが、白絶季を訪ねてみるつもりだ」


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1991年7月11日(木)PM:13:01 中央区精霊学園札幌校第一商業棟一階


「おいしそうだね。にぃに」


「おう。そうだな、海蘊」


「にぃに、筆頭菜は、これもおいしそうだと思うのです」


 青黒い髪の毛の三人。

 長男の高等部二年、茶簾 浜木綿(チャス ハマユウ)。

 彼の二人の妹、中等部三年、ツインテールの茶簾 海蘊(チャス モズク)。

 小等部二年、サイドテールの茶簾 筆頭菜(チャス ツクシ)だ。


「じじぃがいないだけで、こんなにも平和だなんてな」


「にぃに、確かに嫌な人なのは同感だけど」


「筆頭菜も嫌い。でも折角のおいしいパンがおいしくなくなるから、あんなののお話しはやめようよ」


「あぁ、そうだな。食べたいのあればどんどん取っていいからな」


 二人の頭を撫でる浜木綿。


「筆頭菜は、俺達と別れたらクラスの皆と遊びにいくんだっけ?」


「うん。朝霧先生が、人形劇見せてくれるんだぁ!」


「そっか。それじゃ、どんな人形劇だったのか俺と海蘊にも聞かせてくれよな」


「うん!!」


 満面の笑みで答える筆頭菜。

 中睦まじい三人。

 ありあベーカリーの店長。

 シャルロート・ 愛里星(アリア)・リュステンベーグ。

 彼女が微笑ましく見ていた。


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1991年7月11日(木)PM:16:54 中央区精霊学園札幌校時計塔五階


 セーラー服姿で廊下を歩く少女達。

 中等部一年一組に在籍している三人。

 少しだけ落ち着かない銀斉 吹雪(ギンザイ フブキ)。

 白紙 伽耶(シラカミ カヤ)はいつも通り。

 訝しげな表情の白紙 沙耶(シラカミ サヤ)。


 終礼で、山中 惠理香(ヤマナカ エリカ)に言われた。

 十七時に理事長室へ行くようにと。

 理事長である古川 美咲(フルカワ ミサキ)。

 彼女に呼び出される理由がわからない。


「私達って何か悪い事したっけ?」


 言葉の割にはあっけらかんとしている伽耶。


「沙耶も、思い当たる事は特にないよ?」


 一人考え込んでいる吹雪。


「あの件なら呼ばれるのは私だけだよね?」


「高等部一年のヴラドだっけ? あれは吹雪ちゃんが悪いわけじゃないでしょ?」


「伽耶の言うとおりだよ。吹雪ちゃんに非はないと思う」


「それじゃあ、何だろう?」


 そうこうしているうちに、理事長室前に到着した三人。

 即座に入る事が出来ない。

 しばらく無言のまま、時間が過ぎる。


「ノックするよ?」


 意を決した吹雪が二人を交互に見た。

 一拍置いてから頷く伽耶と沙耶。

 二人が頷いたのを確認。

 一呼吸置いて、ノックする吹雪。


「どうぞ」


 聞こえてきた古川の声。

 伽耶がドアノブに手を掛ける。

 一気に扉を開けた。


 緊張の面持ちで中に入る三人。

 先程まであっけらかんとしていた伽耶。

 彼女でさえも、さすがに理由不明の呼び出し。

 緊張し始めているようだ。


「何だ? 三人とも何でそんなに緊張してる?」


 ソファに座っている古川と赤石 麻耶(アカイシ マヤ)。

 テーブルに置かれている武器。

 何故か三本の打刀に三本の小太刀があった。

 そんな三人を見て、少し顔をほころばせた古川。

 その様子に顔を見合わせる三人。


「理由不明で呼び出されたので。知らない間に何かしてしまったのかと思いまして」


 代表して答えた沙耶。


「え? あぁ、そうか。そうゆう事か。すまんすまん」


 何とか吹き出すのを堪えている古川。

 しかし、言い放った後、堪えきれずに笑い出す。

 その光景を見ていた三人。

 しばらく唖然とした後、少しむくれた表情になった。

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