208.黒鴎-Seagull-
1991年7月9日(火)AM:11:11 白石区ドラゴンフライ技術研究所五階
No.200と記されているプレート。
紫の液体が満たされたカプセルの中。
がたいのいい筋肉質に茶髪の男が浮いている。
カプセルを見ているのは二人。
形藁 伝二(ナリワラ デンジ)と石井 火災(イシイ カサイ)だ。
「藤村 畳(フジムラ チョウ)か。陸霊刀 黒恋(リクレイトウ コクレン)に執着。No.201が弟で藤村 間(フジムラ ケン)、稲済 禮那(イナズミ レナ)に執心か。遊びにいかせるには丁度良いかもしれんな」
「こいつらどんな異能なんだっけ?」
火災の疑問に、少し考える形藁。
「二人とも水の霊力だな。弟の方は酸。兄の方は鎧とでも言えばいいのだろうか?」
「酸は溶かすって事だろうけどよ? 鎧ってなんだ?」
「鎧は鎧だよ。火災君」
「んだよ? それ? 説明になってねぇぞ」
不満そうな顔になる火災。
しかし、形藁は彼のそんな様子を意に介さない。
「んで、この二人にすんのか?」
「あぁ、この二人にしよう」
「了解した」
カプセルの前にあるパネルを操作する火災。
彼の操作が完了すると、徐々に水位が下がっていく。
紫の液体が排出されているのがわかった。
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1991年7月9日(火)PM:20:11 中央区精霊学園札幌校北通
風紀委員ではなくなった土御門 鬼都(ツチミカド キト)。
にも関わらず巡回を兼ねて歩いている。
何となく一緒に来たリアフィーア・ヴォン・レーヴェンガルト。
二人は支給されたセーラー服姿だ。
よほどセーラー服が気に入っているのだろう。
時折くるくると回るフィーア。
「そんなに気に入ったのですか?」
「うん、かわいいもの。どんな色合いに変えようか考えるとすごいわくわくするよ」
「そんなもんですか?」
「鬼都ちゃんももっと服装に興味持とうよ?」
「興味ですか。確かに悪くないとは思いますけど」
「色変えてみたらいいと思うよ。自分の好みの色にさ」
満面の笑みで微笑みながらくるくる回るフィーア。
「そうゆうフィーアは、どんな色合いを考えているのですか?」
「うーん? 紫とかもいいし、水色も捨てがたいんだよね」
ふと何かの鳴き声が聞こえた二人。
同時に空を見上げた。
鳥が一羽、羽ばたいて空を飛んでいる。
体毛は白で、翼の先の方が黒っぽい鳥だった。
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1991年7月10日(水)AM:9:41 中央区精霊学園札幌校小等部三階
授業が終わった。
教室から立ち去ろうとする先生。
呼び止める声に振り向く。
教壇に近づいて呼び止めたのは、フィーアだ。
側には愛屡駄 莉早南(アイルダ リサナ)もいる。
じっと見ているリアツヴァイ・ヴォン・レーヴェンガルト。
リアドライ・ヴォン・レーヴェンガルトは首を傾げいてる。
微笑んでいるリアヒュント・ヴォン・レーヴェンガルト。
「フィーアちゃん、どうしたのかな?」
優しい声で答える温和な雰囲気の先生。
彼の名前は浅村 有(アサムラ タモツ)。
小等部の理科担当の先生だ。
「先生は鳥について詳しいですか?」
「鳥? そうだな。それなりには知識はあると思うけど」
「あのですね。昨日の夜に、体毛は白で翼の先の方が黒い鳥を見たんです。何の鳥かわかりますか?」
しばし考え込む浅村。
「他に何か特徴とか気付いた事とかはあるかな?」
聞いた鳴き声や、羽ばたいている姿等。
鳥の特徴を説明するフィーア。
彼女の説明に頷く浅村。
顎に手を当てて考える。
「僕は実際見たわけじゃないから、断言は出来ないけど。大背黒鴎かもしれないね? こんなところまで来るのはちょっと意外なんだけど」
「オオセグロカモメ?」
「うん、大きい背に黒い鴎で大背黒鴎」
黒板の隅っこにも同じように記す浅村。
「最近札幌市内でも目撃されているんだよね。本来は海岸とかに住む鳥さんなんだけど。もしかしたら違う鳥かもしれないけど、特徴からパッと思いついたから。写真とかでもあればわかると思うけど」
少し思案する素振りを見せたフィーア。
「そうですか。浅村先生ありがとうございました」
一応納得したようだ。
彼女はそれ以上、浅村に質問する事はなかった。
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1991年7月10日(水)PM:18:11 中央区精霊学園札幌校第二学生寮男子棟三階三○二号
ベッドの上に、上半身裸で寝転がっている。
不貞腐れているグレーの髪の青年。
頭の後ろで腕を組んでいる冬鬼眼 白(トウキガン ハク)。
彼の表情は、悔しさに塗れていた。
古川 美咲(フルカワ ミサキ)。
彼女の最後の一撃。
思い出す度に、奥歯を噛み締める。
玄関を開けて入ってきたリーゼントの少年。
利休色のリーゼントの髪型の轡 許雨(クツワ モトウ)。
彼も昨日、ファビオ・ベナビデス・クルスの肩に担がれてきた白。
その姿を見ている。
何があったのか彼は知らない。
だが、白がショックを受けている。
その事だけは理解していた。
慰めの言葉も掛けれないでいる。
下手な慰めは、逆に相手を侮辱してる事にしかならい。
そう判断したのだ。
「白さん、楓柳さんも体調不良で、今日は欠席してました」
「・・・そうか」
その後に掛ける言葉を見つけられない許雨。
「なぁ、許雨」
「はい」
「昨日の夜、古川に喧嘩吹っ掛けたんだわ」
白から放たれた言葉に、驚く許雨。
「そりゃ。驚くわな。だけどよ。ぐうの音も出ない程、コテンパンにやられたんだわ。特に精神的によ。実力の違いって奴を見せ付けられたわけだ。これでもそこそこ強いつもりだったんだけどよ。瑠璃もたぶん同じ気持ちなんだと思うぜ」
黙って白の言葉を聞いている許雨。
「僕は理事長の強さは聞きかじりでしか知りません。だから白さんのショックがどれぐらいのものかわかりませんけど。どうしても勝ちたいのであれば強くなるしかないんじゃないんですか? どっちも面識が無いので、事実なのかどうかはわかりませんけど、【白王鬼】や【黒王鬼】と呼ばれている彼等も、子供の頃は凄く弱かったと聞きました。もしかしたら悔しさをバネにしたんじゃないんでしょうか?」
「悔しさをバネに・・・か」
「とりあえず、楓柳さんに会って話しをして来たらどうです?」
「話しか。あぁ、そうだな。そうだよな。ここで腐っててもどうしようもねぇよな」
立ち上がった白。
放り投げてあったティーシャツを着る。
少しだけすっきりした顔で部屋を出て行った。
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1991年7月11日(木)PM:12:58 中央区精霊学園札幌校中等部二階
親子丼を食べている桐原 悠斗(キリハラ ユウト)。
中里 愛菜(ナカサト マナ)はBLTサンド。
テーブルを挟んで反対側の二人。
三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)は塩ラーメン。
野菜炒め定食の銀斉 吹雪(ギンザイ フブキ)。
「それで悠斗、聞きたい事って何だ?」
「はい、こないだありあベーカリーに言ったら、私は拳を預けるもの。あなたなら拳を纏うものになれるかもねって聞き覚えの無い声で言われたんですよ。混雑していたのもあって誰が言ったかわからないんですけどね。何か心当たりとかないかなと」
悠斗の言葉を聞いて、思案する義彦。
「日曜日だよね? そんな事言われてたんだ?」
「うん、あ、そうか。愛菜は丁度側にいなかったからね」
「ゆーと君が、会計してた時ってこと?」
「うん、そうだよ」
咀嚼し終わり、飲み込んだ吹雪が話しに入ってくる。
「拳を預けるものに纏うものかぁ? なんだろう?」
「それだけだと、さすがに何の事だかわからなんな」
「そうですよね? 変な事聞いてすいません」
「いや、気にするな」
そう言った後、義彦は麺を啜った。
「ところで、吹雪さん、最近、義彦も含めて皆にべったりなのは何か遭ったんですか?」
悠斗の質問は、予想外にも愛菜から返ってきた。
吹雪が豚肉と人参を口に入れて咀嚼していた。
その為、直ぐに答えれなかったのもある。
「うんとね。高等部の人にしつこく言い寄られてるみたいだよ。入学式からずっと。私も一緒にいた時に遭遇したんだけど。こっちの話しが全く通じないんだよね」
飲み込み終わった吹雪が更に続ける。
「告白されたんですが、きっぱりお断りしたんです」
「それでもしつこく言い寄って来るから、皆で極力吹雪ちゃんを一人にしないように協力してるんだ」
「俺もそれで借り出されたんだわ。俺を彼氏だと思い込ませて諦めさせようって魂胆もあるらしいが」
「なるほど」
「喧嘩でも吹っ掛けられたら、ぶちのめして終わりにするんだけどな」
「義彦兄様は、まだ怪我全然回復してないんですから、駄目ですよ」
吹雪には珍しい。
義彦に強い口調で咎める。
彼女の言葉に、義彦は苦笑するしかなかった。
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