192.訪問-Visit-

1991年7月7日(日)AM:10:06 中央区精霊学園札幌校時計塔五階


「古川理事長、稲済 禮愛(イナズミ レア)様をお連れしました」


 ファビオ・ベナビデス・クルス。

 彼と一緒に現れたのは黒髪の女性。

 車椅子をファビオが押してきたようだ。


 禮愛の左手と左足の先が見えない。

 彼女の顔の左側には、髪に一部隠れてはいる。

 だが、広範囲に爛れたような痕があった。


 歓迎するように微笑む古川 美咲(フルカワ ミサキ)。

 彼女は椅子から立ち上がった。

 出迎えるように、禮愛の前に歩いていく。


「禮愛、久しぶりだな」


「美咲は忙しそうね」


 顔を見合わせて微笑む二人。

 古川は、一度視線をファビオに向ける。


「ファビオ、すまないな。案内ありがとう。帰りは私が押すから戻ってもらって大丈夫だ」


「畏まりました。それでは失礼します」


「ファビオさん、お手数おかけしました」


「いえ、お気にならず」


 一礼して、退出したファビオ。


「禮那も学園生活を楽しんでいるみたいで良かったわ」


「そうか。しかしいつ退院したんだ?」


「四日前よ」


「そうか。一時期は生命すら危なかったらしいからな。退院出来るまで回復したのは良かったのかな? そう言えば、禮那ちゃんは一緒じゃないんだな」


「さっきまでは一緒だったわ。セセリアちゃんやリアさん達に遊んでもらっているわ」


「あぁ、そうか。セセリアちゃんと同室だったものな」


「えぇ。黒恋ちゃんはどうしてる?」


「そうだな。一応ちゃんと授業にも参加はしているみたいだけどな。担任の話しでは、余り同級生と会話する事もないらしい」


 古川のその言葉に、少し重苦しい顔になる禮愛。


「禮愛が来るから、呼んでみたんだけどな。私に会う資格はないって言ってね。頑なに来る事を拒んだよ」


「そう・・・。あの娘が悪いわけじゃないのに」


「いろいろと思う所があるのだろう。たぶん自分自身を許せないでいるのだろうな。義彦のあの時の行動含めて」


 古川の言葉に表情を曇らせる禮愛。

 少し思い詰めたような顔になった。


「今でもあの時の決断は正しかったのかって思うの」


「でもそうしなければ、たぶん黒恋はあの時に」


「そうね。消滅していたでしょう。会いに行くべきなのかしらね?」


「難しい質問だな。会って蟠りが無くなればいいのだろうけど。禮愛の姿を見れば嫌でも思い出してしまうだろうし」


「そうよね」


「禮愛、話は変わるが魔力で動く義手や義足があればいいと思うか?」


 その言葉に、一瞬驚いた表情になった禮愛。


「え? それはもちろん。動けるようになればいいとは思うわ」


「そうか、それじゃ是非会わせたい人がいる」


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1991年7月7日(日)AM:10:07 中央区精霊学園札幌校第四学生寮男子棟二階二○二号


「それでそもそもリーダーは何するんですかね?」


 僕の言葉に、義彦を除く三人は首を傾げる。

 首を傾げない義彦は、ある程度の事を知っている。

 そう考えていいんだろうか?

 そんな事は僕が問う必要もなかった。


「ぶっちゃけ事務仕事だな。チーム登録やらメンバー加入、脱退、仕事を請ける時の手続き。仕事を請ける時や仕事を終った時の報告と報酬の受け取り。ちなみに仕事を受けるにはチーム登録が必要だが、仕事によって人数は一人から六人以上まで様々らしい。俺も実際の仕事の内容までは確認してないがな」


「え? それじゃ自分が受ける仕事じゃなくても、メンバーの誰かが受ける仕事ならば、僕が手続きしないと駄目という事ですか?」


「その場合は手続きはいらないらしいが、承認は必要らしいぞ」


「なんか大変そうだけど、ゆーと君、頑張ってね」


 満面の笑みで、愛菜にそう言われた。

 僕は苦笑いを返すしかない。


「組み合わせ的には俺と有紀、悠斗と愛菜ちゃんだろうから、六人目は先輩が決めていいんじゃねぇの?」


 何の前置きもなく、言い出したマサ。

 愛菜も有紀もどうやら賛成のようだ。


「皆がそれでいいならいいと思うよ。愛菜と有紀もそれでいい?」


「うん」


「私もいいよ」


「俺が決めるのか。誰がいいか? うーん?」


 ずっと立って壁に寄りかかっていた義彦。

 顎に手を当てて考え始めた。


「吹雪ちゃんじゃ駄目なの?」


「確かに戦力というかそうゆう意味では、愛菜ちゃんの言うとおり吹雪が適任だけど。だけどなぁ?」


 歯切れの悪い義彦というのも珍しい気がする。


「義彦さん、吹雪ちゃんの事嫌いなんですか?」


「そんな事はないが」


「それじゃいいですよね?」


「あぁ、うん? うーん? うん、そうだな」


 若干歯切れの悪い言葉になりながら悩む義彦。

 そんな彼も拒否するだけの絶対的な理由はないのだろう。

 結局、愛菜に押し切られるような形で了承した義彦。

 僕達は吹雪さんに声を掛けてみる事にする。

 義彦が一人で、彼女を訪ねる形になった。


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1991年7月7日(日)AM:10:32 中央区精霊学園札幌校第一学生寮女子棟三階三○二号


「義彦兄様から来てもらえるなんて珍しいですね!?」


 誰が見ても綺麗だと思うサラサラな銀髪。

 今日はツインテールにしている銀斉 吹雪(ギンザイ フブキ)。

 訪ねてきた三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)に微笑んだ。

 心の底から嬉しそうだ。


 玄関で立っていた義彦。

 彼は吹雪に手を握られる。

 そしていきなり強く引っ張られた。


「吹雪!? ちょっ!? 待て待てって!? 靴まだ脱いでねぇ!?」


 彼の言葉に、不満そうに彼女は渋々手を離す。

 手を離され、安堵した義彦。

 屈んでスニーカーの紐を解いて靴を脱ぎ始める。


 彼が靴を脱ぎ終わったのを確認した吹雪。

 直ぐ側に立った義彦。

 一度離した彼の手を再び握る。

 引っ張って歩き始めた。


「今日はルームメイトはいないのか?」


 彼の言葉に一瞬思案した彼女。


「朱菜ちゃんですか? 友達に会いに行くって少し前に出ていきました」


「そうか」


「いると困ります?」


 意地悪く微笑む吹雪。


「いや、そうじゃないが、初対面があれだしな。何か顔を会わせ難い」


 義彦の言葉に、苦笑いの吹雪。


「椅子に座ってて下さい。紅茶でいいですか?」


 彼女の言葉に、素直に椅子に座る義彦。

 答えるように吹雪に顔を向けた。


「いや、いらないかな。それよりも先に話しを聞いてもらいたいな」


「はーい」


 義彦の言葉に、吹雪もテーブルを挟んで反対側椅子に座った。

 対面して顔を付き合わせる形になった二人。


「それで、なんでしょうか?」


「あぁ、なんだ? 吹雪は何処かチームに入る予定はあるのか?」


 彼女は、少し首を傾げてから答えた。


「いえ、今の所はまだですね」


「そうか。悠斗をリーダーにチームを組むのだが、吹雪も来るか? 現状五人なんだが」


「私ですか? もちろんです。私でよければ」


 これでもかというぐらいの満面の笑み。

 少し引き気味になってしまう義彦。


「俺以外のメンバーも吹雪が参加する事に賛成している。誰がいるとか聞かないのか?」


「言われてみればそうですね。義彦兄様がいるなら、正直誰でもいいですけど」


「あ、そう?」


「義彦兄様、反応それだけですか? あいかわらず冷たいです」


 そう言いながらも、何処か嬉しそうな吹雪。

 義彦は、苦笑するしかない。


「それで他には誰が?」


「俺の他に、リーダーの悠斗、愛菜ちゃん。後は沢谷 有紀(サワヤ ユキ)、河村 正嗣(カワムラ マサツグ)だな」


 義彦の言葉に、顎に指を当てて彼女は少し考えた。


「沢谷さんと河村さんって悠斗君のお友達の?」


「そうだ。お前と同じ一年だったか? そーいえば」


「そうですね。義彦兄様以外は同じ学年で同じクラスになりますね」


「そうなるのか。あぁいいさ。それで、四人は俺の部屋で戻るのを待ってる。時間あるなら吹雪も俺の部屋に来てくれるか?」


「わかりました。行きましょうか」


 こうして吹雪をチームに招待した義彦。

 彼女を伴って自室に移動する事にした。

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