第十二章 学園制服編

191.寂寞-Forlorn-

1991年7月7日(日)AM:5:33 中央区精霊学園札幌校第一学生寮女子棟屋上


 屋上で一人、空を眺めている少女。

 空には雲はほとんど存在しない。

 太陽の明かりが強くなっていく。


 輝く星々の煌きが徐々に遮られてきていた。

 甦りはじめている陽の光。

 心の闇まで引き裂いていきそうだ。


 ただ一人佇んでいる彼女。

 その瞳は、ほんの少し寂しそう。


 膝まである黒髪。

 黒のフリルまみれのドレスの姿。

 腰に差している一振りの刀。

 刀とフリルドレスという組み合わせ。

 不思議だと思う人もいるかもしれない。


「黒恋ちゃん、やっぱここにいた」


 突如静寂を破って現れた少女。

 彼女は向日葵色のストレートヘア。

 彼女の顔は明らかに眠そうだ。


「ツヴァイ?」


「こんな時間にここにいる事が風紀委員にばれたら怒られるよ? それともそれが目的なのかな?」


「ち・違うわよ。目が覚めちゃって、ふと空を見たくなっただけ」


「そういいながら、毎日見に来てるでしょ?」


「え? な・何の事かな?」


「黒恋お姉様、嘘は駄目です。でも、そんなに悩んでるなら、お兄様とちゃんと話しすればいいと思うんですよ」


「な・悩んでなんて・・。そもそもお兄様って・・」


「あんなに熱い視線を送っていればわかりますです。いいから、戻るんです。私は眠いのです」


「わ・私の事は構わないで寝てていい」


「駄目です」


 リアツヴァイ・ヴォン・レーヴェンガルト。

 彼女は問答無用だ。

 陸霊刀 黒恋(リクレイトウ コクレン)の手を握り引っ張る。


 寂しい目をしたままの黒恋。

 そのまま連れて行かれる。

 身長差がある二人。

 振り解こうと思えば振り解けるはずの黒恋。

 しかし彼女は、一切抵抗はしなかった。


「何故そこまで気にする?」


「ルームメイトだからです。二人の間に過去に何があったかは私は知らない。でも黒恋はお姉ちゃんだから。私達は二人が仲直り出来ればいいと思ってるんですよ」


 ツヴァイの素直な思い。  唇を噛む事しか出来なかった黒恋。

 囁くように言った言葉。

 ツヴァイには聞こえていなかった。


「仲直りなんて無理だよ・・。だって私はもういらないみたいだし」


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1991年7月7日(日)AM:6:35 中央区精霊学園札幌校第一学生寮男子棟四階四○一号


 僕が学園に入学してから、今日で七日目。

 学園全体の構造もそれなりに把握はした。


 東にある出入口の正面に高等部。

 右に小等部が存在し、左が中等部だ。

 高等部の裏には競技場。

 更にその後ろにエレメンタリ札幌やアリアベーカリー。

 そして時計塔がある。


 時計塔の両隣には職員寮があった。

 その奥には、第一から第六までの研究室。

 そして研究室に囲まれるように白神霊園。

 白神霊園には入った事はない。

 けど、和風建築の建物やお墓があるそうだ。


 小等部の裏側にある寮。

 そこには第一から第四まであった。

 僕達はそこに居住している。


 中等部の裏には、第五から第八まで寮ある。

 けど、生徒数がそこまで多くはない。

 なので現在は未使用になっている。


 でもこれだけの施設だ。

 電気はどうしているのだろうか?

 学園は何とかなるのかもしれない。

 けど、研究所とかは莫大な電気を使用してそうだ。

 何らかの方法で賄ってはいるんだろうけど。


「ふぁわぁ。悠斗さん、おはようごじゃいます」


「おはよう。嚇、今噛んでた?」


「か・噛んでなんて・・御免なさい。嘘です。噛みました」


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1991年7月7日(日)AM:9:35 中央区精霊学園札幌校北通


 三人で並んで歩いている少女。

 髪型はそれぞれ違う結び方だ。

 だが、全員黒髪で、どことなく顔と雰囲気は似通っている。

 彼女達の視線の先に見えた三人の人物。


「あ、桐原さんと中里さん、義彦さんもいますね」


 一番右を歩いている土御門 乙夏(ツチミカド オトカ)。

 ストレートの髪にしている彼女。

 最初に彼ら三人の存在に気付いた。


「普段の深春姉様なら、義彦さんに飛び掛ると思うのに、今日はおかしいんです」


「茅秋、私だっていつもそんなんじゃないよ。あいつ怪我しているらしいでしょ? そんなんで勝っても全然嬉しくない。義彦が万全の状態で私が勝たなきゃ意味ない」


「問答無用で襲い掛かっているのかと思いました。だからそんな事言うとは予想外です」


「茅秋、私は猛獣なんですか?」


「ごめんなさい。深春姉様、私も茅秋と同じに思ってました」


「乙夏まで。私ってそんな風に思われてたんだ。ちょっとショック」


 がっくりと肩を落とす土御門 深春(ツチミカド ミハル)。

 そんな会話をしている三人。

 義彦達は彼女達に気付く事もない。

 視界からいなくなっていた。


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1991年7月7日(日)AM:10:00 中央区精霊学園札幌校第四学生寮男子棟二階二○二号


「三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)さん、何度かお会いしてますけど。改めまして、沢谷 有紀(サワヤ ユキ)です」


 僕と愛菜はベッドに座っている。

 椅子に座っているのは有紀。

 義彦とマサは向かい合うように立っている。

 マサと有紀に、義彦の参加を伝えた。

 特に反対される事もない。

 二人は快くOKを出してくれた。


「俺は河村 正嗣(カワムラ マサツグ)。よろしくな先輩」


「二人ともよろしく頼む。しかし、これからチームを組むのに先輩も後輩もいらないんじゃないか? 悠斗も愛菜ちゃんもそう思うだろ?」


 義彦に突然話しを振られた愛菜。

 どう答えようか迷っているみたいだ。

 ここは僕が答えようか。


「そうですね。余り気にしなくていいと思います」


「悠斗から話しは一応聞いているけど、実際どんな者なのかは、俺はわからないからな」


 突如義彦に殴りかかったマサ。

 僕は彼の突然の行動を止める事が出来なかった。

 しかし、マサは簡単にあしらわれる。

 一瞬で背後に回った義彦。

 彼に床に押さえ付けられていた。


 余りにも一瞬の出来事。

 その為、僕は何が起きたのかを瞬時に把握出来ない。

 正嗣も、何が起きたのかわからないままのようだった。


「何やってんの?」


 小気味良い音が部屋に響く。

 最初に我に返った有紀。

 彼女がマサの頭を叩いた音だった。

 予想外の人物からの攻撃。

 思いっきり顔を顰めるマサ。


「いやだってよ・・・」


「相手の実力を知りたいと思うのも当然だろうからな。気にしなくていいんじゃないか?」


「でも義彦さん、いきなり殴りかかるのはやっぱり」


「それでもあしらわれたんだからな。もう挑もうなんて思わないよ」


 まるで降参ですと言うかのようだ。

 両手を上げて苦笑いするマサ。


「義彦、一瞬とは言えそんな激しく動いて大丈夫なんですか?」


「そうだよ。怪我人なんですよ?」


「え? 悠斗、愛菜ちゃん、それまじで?」


「本当だよ」


「正嗣君、馬鹿」


「義彦さん、本当ごめんなさい。怪我人なんて知らなかったとは言え、この馬鹿が殴りかかるなんて」


「すいません」


 馬鹿馬鹿と言われてるマサ。

 殴りかかったのは事実だ。

 彼は何も反論出来ない。

 ただただ縮こまっているみたいだ。


「まぁ、気にするな。とりあえずこれで認めてくれたと考えていいのかな?」


「も・もちろんです。本当すんませんでした」


 有紀に説教され始めたマサ。

 二人の遣り取りを聞いている義彦。

 苦笑しているみたいだ。


「そう言えば、義彦。集まるなら義彦の部屋の方が良かったんじゃないんですか? 怪我の事もあるし」


「いや、俺の部屋にすると柚香や吹雪が来るかもしれないだろ? 六人目をどうするかも決めてないからな。そこらへんも話しをした上じゃないとな。先に聞かれると色々と面倒な事になるかもしれないし」


「なるほど。一理あるかもしれませんね」


 少しだけ、首を傾げた愛菜。


「考えすぎだと思いますよ」


「そうだといいけどな。こないだの一件もあるし。それでとりあえずリーダーは悠斗でいいんじゃないか? 俺達は悠斗を介して接点を持ったわけだしな」


「私は賛成です」


 最初にそう言ったのは愛菜だった。


「正嗣君と有紀はどう思う?」


「俺も賛成だ」


「馬鹿正嗣が賛成するなら、私も異存はありません」


 突然話しを振られた二人。

 僕の予想に反して、まさかの即答。


「馬鹿馬鹿言うなよ」


「怪我人に殴りかかったし、実際馬鹿でしょ?」


 有紀の言葉に、マサはぐうの音もでないようだ。


「え? 僕? なんで僕?」


 賛成する皆に、僕は戸惑ってしまう。


「たぶん一番全員の性格とか把握してるだろう」


「え? いや、そうですけど」


「ゆーと君、よろしくね」


 愛菜、そんな風に見つめないでくれ。

 断るという選択肢。

 選ぶ事が出来なくなるじゃないか。


「わかったよ。リーダーなんて出来るかわからないけど、そもそもリーダーが何するのかもわかんないけど。やってみるよ」


「うん」


 結局引き受けた僕。

 愛菜がとても愛らしい笑顔をしてくれている。

 だから、僕はリーダーでもいいかと思ってしまった。

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