096.手紙-Letter-

1991年5月12日(日)PM:22:21 ベネチア マンドリカルド通


 赤毛の男、アグワット・カンタルス=メルダー。

 金髪の少女、アリアット・カンタルス=メルダーは、アグワと手を繋いでいる。

 二人の後ろを歩いているファーミア・メルトクスル。

 隣のカルヴァット・マドロコシーと、微笑ましげにアリアを見ていた。


 四人は、通り沿いに並んでいる家。

 その一つに入っていった。

 中では、八名の男女が歓談している。

 八名の中、一人の女性が、屈託ない笑顔で話しかけてきた。


「団長達だけで呑んできたんですか? ずるい」


「おまえらだって、いつもここで呑んでるだろ?」


「たまには外で呑みたいです」


 他の七名も頷く仕草で、同意をしているようだ。


「別に行ってもいいけどよ。たぶんもれなく襲撃つきだぜ」


「また襲われたんですか?」


 女性とは別の男性が、そう疑問の声で問う。

 するとアグワは豪快に笑った。


「あいつらも、どーせ挑んでくるなら、もうちょい倒しがいのある奴連れて来いってな」


 その後しばらくは、それぞれの骨のあった相手。

 勝負と結果の自慢大会になる。

 中々終わらない話しに、業を煮やして切り出したカルバ。


「そろそろ仕事の話しをしても良いですか?」


 カルバがそう言うと、その場にいる全員が、彼の方を向く。


「あぁ、そうだな。今日いるのは、ここの八名で全員か?」


「はーい、他は別件で外出してますよ。明日には戻ると思いますけどね」


「そうか。わかった。それじゃカルバ説明よろしく」


「わかりました。まず標的は今の所は十二名。それと雑魚多数って所ですね」


 カルバが懐から出した、何処かからの手紙。

 それを見ながら話しをしてゆく。


「ちなみにその標的のうちの一人は【殺戮の言霊乙女】と言われたあの女です」


 その名前を聞いた途端、アグワを含めた数名。

 その表情が一瞬で、狂喜と狂気に彩られる。


「他十一名と雑魚の説明はとりあえず追いときまして。標的十二名の殺害と派手に暴れる事が条件だそうです。その他の雑魚は状況次第と書かれてますね」


 カルバはそこで一度会話を止め、全員を見渡した上で続けた。


「ちなみに標的のうち、数名はかなりの強さだそうです。最後に依頼主はイーノム」


「イーノムってあのイーノムか?」


 驚きの表情のアグワ。

 同じように驚きの表情の者がいた。


「あのイーノムですよ。今は何でしたっけ? 何か違う名前でしたよね」


「あぁ、そうだな」


「アグワ、細かい事はこの手紙を」


 カルバは手紙をアグワに渡し、近くの開いている椅子に座った。

 手紙をゆっくりと読み始めたアグワ。

 他の皆は、彼が読み終わるのを無言で待つ。

 そして読み終わったアグワは顔を上げた。


「この仕事請けるぞ。反対する奴はいるか?」


 しばらく他のメンバーの反応待つアグワ。

 誰一人として、反対する者はいなかった。


「おし、詳しい割り振りは明日全員が揃ってからだな。ファー、カルバ明日は景気付けに騒ぐぞ。準備しとけ」


「そう言うと思いましたよ」


「やれやれだね」


 呆れ顔のファーに苦笑いのカルバ。

 他のメンバーは、苦笑しているものと喜んでいるものに分かれている。

 その中でも、金髪の少女アリア。

 彼女が、一番嬉しそうに微笑んでいた。


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1991年6月1日(土)PM:21:14 ベネチア マンドリカルド通


 お揃いに見える、刺繍のされた高級そうなローブ。

 二人は、そのローブをを着て歩いている。


 身の丈に似合わない巨大な片刃の剣。

 その剣を背中に背負っている金髪の少女。

 隣を歩く、顔がフードに隠れている、同じ位の背丈の人物。


「・・・大丈夫でしょうか?」


「大丈夫よ。主力メンバーはたぶんもういないわ」


「だといいのですが」


「あなたが報告に行った後、私一人で見張っていたけど、二週間位前に出て行って、戻ってないわよ。空港を通ったという情報も入ってるしね。何でそこで止めなかったのかしら?」


「それは刺激すれば、そのあの」


「そうよね。ごめん愚問だったわ。それにしても、これだけあなたが戻るのに時間かかったって事は、どうするか随分揉めたみたいね」


「・・・そうですね。我々も残念ながら一枚岩になれてないですからね」


「そうね。さておしゃべりは終わり。いくわよ」


「はい」


 背負っている巨大な片刃の剣。

 片手で軽々と握った少女。

 扉を剣撃で破壊し、中に入っていく。


 その中には男二人、女二人の計四名。

 後片付けをしていた。

 突然の侵入者。

 四人とも一瞬驚くが、すぐに身構える。


 少女の殺気に瞬時に飛び掛った四人。

 振るわれた巨大な片刃の剣。

 少女の体躯からは考えられない速度と威力。

 四人は瞬く間に斬り伏せられて、その場に崩れた。


 全ての部屋を見て周る。

 残っていたのは、先程の四名だけだと確認。


 再び最初の部屋に戻った少女。

 その場では少女の連れが、斬り伏せられた四人の生死を確認している。

 その姿を、彼女はただじっと、見ているだけだった。


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1991年6月2日(日)PM:21:16 中央区特殊能力研究所五階


 休憩室、そこに集まっているのは五人。

 ホールのショートケーキ。

 その上には、バースデーキャンドルが十八本。


 一人立ち上がった少女。

 彼女が、バースデーキャンドルの火を吹き消してゆく。

 そして最後の一本が消えた。


「一日過ぎてしまったけども、紗那、十八歳の誕生日おめでとう」


 車椅子の青年の言葉。

 その後に、他の三名も、誕生日のお祝いの言葉をかけていく。


「拓兄、火伊那、中さん、ホッシーありがとう!」


「さあ、ケーキ食べましょうか」


 黒髪ショートヘアーの女性。

 ケーキを切り分けていった。

 朝霧 紗那(アサギリ サナ)から順番に、紙皿にのせて時計回りに渡していく。

 短髪の黒髪の青年が、車椅子の青年に顔を向けた。


「そーいえばさ、拓。いろいろと聞きたいんだけど」


「中、何だい?」


「俺達の体の事なんだけどさ」


「ごめん。本当ごめん」


「いや、別段気にしてないぞ。どっちかというと感謝してるんだぞ」


「そうだよ。また会うことが出来たんだから」


 茶髪の女性が、朝霧 拓真(アサギリ タクマ)に顔を向けた。


「そうだよ。拓、感謝こそすれ恨んだりなんかしないよ」


 ケーキを渡しながら、堤 火伊那(ツツミ カイナ)も賛同の意見を述べる。


「私達は一度死んだ命を拓兄のおかげで拾ったんだから」


 一口ケーキを食べてから、紗那も自分の意見を述べた。


「そうか。それなら言いんだけど」


「いろいろとあってちゃんと聞けてなかったけど、今後の為に質問だ」


「あぁ、中なんだい? わかる事なら答えるよ」


「俺達の体って成長するのか?」


「成長は残念ながらしないかな。怪我をしたりしても今の状態を基準に魔力で再生される形かな」


「ふむ。それじゃ魔力とかの最大値とかってどうなんだ?」


「うーん、たぶんだけど。鍛えれば個人差はあれど上昇すると思うし、技術や効率も上げる事が出来ると思うよ。魔力の効率が上がれば再生速度とかも変わってくると思う」


 友星 中(トモボシ アタル)の質問に答えていく拓真。

 他の三人は口を挟む事はない。

 その遣り取りを、ケーキを食べながら聞いている。


「それじゃあ、寿命に関してはどうなんだ?」


「正確な年数については断言は出来ないけども、人間と同じくらいは生きれると思うよ。人間ベースなわけだしね」


「なるほどね。そんで持って食事とかは普通にしてるけど、これも問題ないって解釈でいいんだよな?」


「問題ないよ。基本的に人間と同じように栄養は必要だから。魔力保護の影響で普通の人間と違う所もあるけど、壊れた心臓を魔力で再構築した形だから。わかってる通り生理現象も普通にあるしね」


「なるほどね。とりあえずはこんなものかな」


「そうか。紗那、火伊那、ホッシーは何かある?」


「子供って身籠れるのかな?」


 少し照れた表情で、質問したのは火伊那だ。


「たぶん、問題ないと思う」


 その答えを聞いた女性陣三人。

 凄く嬉しそうな表情だ。


「難しい話しはいいじゃないの。もっと楽しい話しをしようよ」


 駒方 星絵(コマガタ ホシエ)の言葉に皆頷く。

 こうして、紗那の一日遅れの誕生会は過ぎていった。

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