066.帰宅-Home-

1991年6月2日(日)PM:13:39 中央区米里行啓通


 翠 双菜(スイ フタナ)の運転する車。

 後部座席には瀬賀澤 万里江(セガサワ マリエ)、夕凪 舞花(ユウナギ マイカ)の二人。

 助手席には近藤 勇実(コンドウ イサミ)が座っていた。


 米里行啓通を進む車。

 信号で右折し、直進する。

 しばらくして、万里江の指示で停車した。


「お二人さん、それじゃな」


「万里江ちゃん、舞花ちゃん、よければまた遊びに来てくださいね」


 近藤と双菜は、後部座席の二人と別れの挨拶を交わす。


「双菜さん、お世話になりました。是非また遊びにいきますね。近藤さんまたそのうち」


「ひでーな。顔見せてくれよ」


 少しおどけて返す言葉に、双菜も舞花も苦笑している。


「双菜さん、伊都亜ちゃんにまた遊ぼうって伝えてくださいねー」


「わかったわ」


 車を降りて歩いていく万里江と舞花。

 門の前に立つと、内側にいた男達が門を開けた。

 頭を下げて二人を迎える、四人の黒いスーツの男達。


「「「「万里江お嬢様、舞花お嬢様、お帰りなさいませ」」」」


 二人に道をつくるように並んだ男達。

 同時にそう口を開いた。


「頭下げなくてもいいって」


 ため息混じりの万里江。

 当たり前の光景なのか舞花は平然としている。


「それはいくらお嬢様のお言葉でも従う事は出来ません。お荷物お持ち致します」


「いいわよ自分で持てるし。全くあいかわらずなんだから」


「まり姉、所長に電話しないとだし皆にお話しもあるし行こうよ」


「そうね。行きましょうか」


「お嬢様、お話しとは一体?」


「皆にまとめて話すから後でね」


 質問に答えることもなくあしらった万里江。

 舞花の手を引いて歩いていく。


「何度か見てるけど、やっぱすげー家だわ」


 噛み殺すような笑いの近藤。

 運転席の双菜は、呆然としている。


「――これは一体?」


「見た通り。瀬賀澤家のお嬢様と夕凪家のお嬢様。さて緑鬼邸に帰ろうぜ」


「あっ、はい」


 その言葉に我に返った双菜。

 ウインカーをあげつつ、後ろから車が来てない事を確認。

 ゆっくりとアクセルを踏み、車を発進させた。


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1991年6月2日(日)PM:13:47 中央区石山通


 白紙 元魏(シラカミ モトギ)の運転する車。

 助手席には相模 健一(サガミ ケンイチ)が座っている。

 後部座席の三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)。

 真ん中に座っている為、少し窮屈そうだ。


 義彦の左側の銀斉 吹雪(ギンザイ フブキ)が道案内をしている。

 右側の十二紋 柚香(ジュウニモン ユズカ)は、外の景色を眺めていた。


 石山通を左折した車。

 細い道を進んでいく。

 突き当りを右折し、少し走ると左折した。


 しばらく直進して、車は停止する。

 元魏は少し心配そうに吹雪を見た。

 表情から、健一も同様に心配しているのが感じられる。


「三人とも、また明日」


「いろいろあったし、今日はゆっくり休みなよ」


 元魏も健一も、相変わらず心配そうな表情。


「元魏さん、健一さん、ご迷惑おかけしました」


 心なしかいつもより声のトーンが低い吹雪。

 車を降りた吹雪は、そのまま待っている。

 まるで何かに耐えているかのような表情だ。


「元魏さんと健一もな」


 車を降りた義彦はリュックサックを背負い直した。

 その上で、吹雪の手を軽く握る。

 もう片方の手は、車を降りようとしている柚香に差し出した。


「元魏さん、健一さんまた明日」


 義彦の手を取り、車を降りた柚香。

 柚香が降りた後三人。

 吹雪を先頭に、玄関を開けて家に入っていく。


「お邪魔します」


 おずおずといった感じの柚香。


「そう言えば、柚香ちゃんはうちに来るのはじめてだものね。誰もいないから気にしないで」


 柚香に微笑んだ吹雪。


「ところで吹雪、本当に行くのか?」


「もう三井兄様、心配しすぎだよ。その気持ちは嬉しいけど」


 最後の方は呟きになり、義彦の耳には入らなかった。

 柚香は聞こえていたが何も言わない。


「大丈夫ならいいけど。その後の柚香の料理教室は?」


「柚香ちゃんさえ大丈夫なら」


「私は大丈夫だよ」


「柚香ちゃん、ありがとう。それじゃ準備してくるからくつろいでて」


「電話借りるぞ。所長に連絡する」


「わかったー。勝手に使っていいよ」


 居間に移動しながら、話しをしていた三人。

 吹雪は一人、居間を出て階段を上がり、自分の部屋向かう。

 義彦は、吹雪に教えてもらい、廊下にある電話の所に急いだ。


「あいかわらずどちらも極力平等に扱ってるな。ありゃ将来、天然の女殺しになったりするのかね」


 元魏の車で幌見峠に向かっている二人。


 健一は、冗談めかして言った。


「そうかもね」


「二人の娘もその毒牙にかかるかもよ?」


 未成年の本人を差し置いて酷い言い様である。


「健二みたいな物言いだな。何だかんだでさすが兄弟か」


 心外だとでも言うような表情の健一。

 しばし二人の間に流れる静寂。


「伽耶ちゃんと沙耶ちゃん、彩耶さんとの修練に真面目に取り組むようになったみたいだな」


 そう言った健一に、微かに微笑む元魏。


「何で微笑むだけなんだよ。それだけだと怖いんですけど、元魏さん」


 健一の言葉にも、何処吹く風という感じだ。

 元魏は微笑んでいるだけだった。


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1991年6月2日(日)PM:13:55 中央区藻岩山麓通


 運転席の相模 健二(サガミ ケンジ)。

 ウインカーを上げて右折。


 助手席の中里 愛菜(ナカサト マナ)。

 彼女は後部座席の桐原 悠斗(キリハラ ユウト)。

 更に二人の猫耳少女に視線を向けた。


 直ぐに前に向き直った愛菜。

 途中で止めた道順の説明を、再開する。


 車に最初は怯えていた猫耳少女二人。

 やがて好奇心が勝ったのだろう。

 少し喧しく騒いでいた。


「車がそんなに珍しいのかね?」


「どうなんでしょう? 聞き様がないですけど」


「そうなんだけどな。しかしこれから大変だな」


「本当ゆーと君、後先考えないんだから」


「でも何でか僕になついてるみたいだしさ」


 苦笑している愛菜と健二。

 しばらくして、健二は車を路上に駐車。


「「健二さん、ありがとうございました」」


 車を降りた愛菜と悠斗。

 同時に言うと、頭を下げた。

 それを見た猫耳少女二人も頭を下げる。


「気にすんな」


 車の中で、手をひらひらさせた健二。


「しかし、そこの二人は、愛菜ちゃんと悠斗が頭を下げた意味理解してんのか?」


「どうでしょう?」


「大丈夫だよ。きっとわかってる」


 そう言うと三人は笑い合う。

 それを見た猫耳少女二人も微笑む。


「そんじゃなー」


 車を発進させた健二。


「とりあえずここが君達二人の当面の家だよ」


 悠斗が、二人の手を引き玄関前から家を見上げる。

 愛菜が先に歩き、玄関の鍵を開けた。

 一度旅行鞄を地面に置き、鍵が開いた扉を両手で開けた愛菜。

 それを見た悠斗が、猫耳少女二人の手を引いて玄関の中に連れて行く。


 足で玄関の扉を押さえつつ、悠斗が靴を脱ぐようにジェスチャー。

 旅行鞄を拾い上げながら、愛菜はその光景を笑いながら見ている。

 何とか靴を脱がせて、居間まで二人を連れてきた悠斗と愛菜。


「言葉が通じないのがなぁ。帰宅の報告してくるよ」


「はーい、二人を見てるね」


 居間の電話の受話器を持った悠斗。


「猫耳少女。何処の言葉かすらもわからないとかね」


 車の中で独り言を呟いた健二。

 しかしその場には答えてくれる相手はいない。

 わかっていても、つい呟いた健二だった。


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1991年6月2日(日)PM:14:40 豊平区白石中の島通


 白紙 彩耶(シラカミ アヤ)の運転する車。

 助手席の白紙 伽耶(シラカミ カヤ)は珍しく大人しい。

 後部座席の極 伊麻奈(キワ イマナ)が道を指示している。


 轍 学亞(ワダチ ガクア)と口川 優菜(クチカワ ユウナ)。

 二人も後部座席で、静かに座っていた。


 助手席の白紙 沙耶(シラカミ サヤ)は後部座席を向いている。

 後部座席の桃鬼族(トウキゾク)の子供三人と雑談をしていた。

 三井 龍人(ミツイ タツヒト)は、彩耶の車を見失わないように運転。


 三台目の車、運転席の極 秦斜(キワ シンシャ)は微笑んでいる。

 助手席に座る朝霧 紗那(アサギリ サナ)。

 彼女が後部座席の桃鬼族(トウキゾク)の子供三人と、楽しく話しているからだ。


 右折した後、しばらく進んでから停車した三台の車。

 全員一度降りて、それぞれ挨拶を交わした。

 秦斜も彩耶に龍人、伽耶や沙耶、紗那に頭を下げて感謝を告げている。


「ほんに、警護までして下さってありがとうございました」


 彼に習うように伊麻奈、学亜、他の子達六人。

 そして今日から一緒に住む事になった優菜も頭を下げた。


「「「「「「「「「ありがとうございました」」」」」」」」」


 重なる感謝の言葉。

 一同が頭を上げた後、微笑みながら手を上げた龍人。

 車に乗り込むと、アクセルを踏んで直ぐに発進させた。


「皆様、優菜ちゃんをよろしくお願いしますね」


 優菜の頭を撫でてから車に乗り込んだ彩耶。


「また遊ぼうね」


 伽耶も優菜の頭を撫でる。


「今後こそ、ここに泊まりに来るからね」


 後部座席に乗り込んだ沙耶。

 皆に手を振っている。


「皆様お元気で。また会いましょう」


 紗那はにっこりと微笑んだ。

 その上で後部座席に乗車。


 彩耶の車が発進、見えなくなるまで眺めていた。

 見えなくなってしばらくたってから、秦斜を先頭に家の中に入る。


 事前に事のあらましを聞いていた桃鬼族(トウキゾク)の出迎え。

 子供達を、他の者にまかせた秦斜。

 廊下にある電話の受話器を取る。

 古川 美咲(フルカワ ミサキ)に報告の為に電話をかけ始めた。

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