058.色男-Swain-

1991年6月1日(土)PM:17:57 中央区緑鬼邸二階


 銀髪の少女、吹雪ちゃんに話しかけようとして、私は躊躇している。

 何が起きたのかはっきりとはわからなかった。

 でもたぶん、ゆーと君と同じような不思議な力を持っているんだ。


 おぼろげながらも覚えている記憶。

 記憶の中のゆーと君は、私をかばって立っている。

 あの時も、何をどうして守ってくれていたのかは、良くわからなかった。


 時間が経過している事もあって、さっきよりは皆落ち着いて見える。

 学校も学年も違うのに集まった皆、不思議な能力を持っているからなのかも。

 だから、ゆーと君も何処かできっかけがあって知り合った。


 今聞かないと、きっと有耶無耶のままになっちゃう。

 聞いたからといって、何かが変わるわけでもないのに。

 何でこんなに聞くのが怖いのかな。


「――吹雪ちゃん、あ・・・あの・・・」


 私は意を決して、彼女に声をかけた。

 こっちを振り向いた銀髪の少女。

 同姓から見ても綺麗だと思う。


「愛菜ちゃん、なーにー?」


 吹雪ちゃんは、微笑んでいる。


「えっと・・あの、さっきのってゆーと君とは違うけど、何ていうか・・・あの・・・」


 何度も何て言うか考えてたのに。

 いざ言う段階になったら、何でこんなにもうまく言葉に出来ないんだろ。


「――桐原君からは、何も聞いてないんだよね?」


「――はい。何も」


「そうなんだ」


 吹雪ちゃんは、言葉を続けるのを躊躇してるみたい。

 私が何か言葉を続けるべきなのかな?

 でも何て続ければいいかな?


「そうね。簡単に言うと私は冷気を操る事が出来るの。桐原君の力は、詳しくは知らないけど、私みたいな力は持っているかな」


 吹雪さんは一度そこで言葉を切った。

 少し思案している感じを受ける。


「――桐原君は、愛菜ちゃんには隠して置きたい見たいなんだよね。だから正直、さっきも使うかどうか迷ったんだけどね」


 そういえば、さっき伽耶ちゃんと沙耶ちゃんに、何か問い詰められてたな。

 もしかしてこの事だったのかな?


「桐原君がどうするつもりなのかは正直、私はわからない。でも、彼から言い出すまでは、知らない振りをしてくれると嬉しいかな。たぶん彼も、自分からちゃんと説明したいだろうし」


 ゆーと君は私に隠しておきたいんだ。

 何でだろう?


「もちろんどうするかは、愛菜ちゃん次第になるけどね」


 申し訳無さそうな表情になっている吹雪ちゃん。


「そんな顔しないで下さい。もしさっきそうしてなかったら、きっと酷い事になってたし、吹雪ちゃんの判断は正しいと思う」


「そう言ってくれると嬉しいかな」


「私自身が、どんな判断を取るか正直わからないけど、それは吹雪ちゃんは関係無いと思う。だから気にしないで」


「うん、わかった」


 そうして、私と吹雪ちゃんはどちらからとも無く微笑みあった。


「何とか話しはまとまったね」


 伽耶ちゃんが私の隣に来た。


「本当、どうしようかと」


 沙耶ちゃんが、吹雪ちゃんの隣に並ぶ。


「いろいろあるんですね」


 柚香ちゃんが、心配するような表情で沙耶ちゃんの隣に立った。


「さっきは本当びっくりしたけど」


 伽耶ちゃんの隣に来た舞花ちゃん。


「退屈はしないですね」


 舞花ちゃんの隣の、万里江さんは微笑んでいる。


「今考えると怖いですけどね」


 沙耶ちゃんの後ろにいる紗那ちゃんが、はにかんでいた。


「おにぃも凄いけど、吹雪さんも紗那さんも凄いよねぇ」


 柚香ちゃんの隣の茉祐子ちゃん。

 嬉しそうに微笑んでいる。


「よ・よく触れましたね」


 茉祐子ちゃんの後ろに隠れた優菜ちゃん。


「とりあえず、皆無事で良かったよね」


 優菜ちゃんの隣にいた伊麻奈ちゃんの言葉。

 私達は皆同時に頷く。

 その後で、不思議と皆で微笑みあった。


 誰も、ここにいない二人、ゆーと君と三井さんの事を話さない。

 何故だろう?

 心配する必要がないって事なのか?

 心配しているけど、言葉に出さないだけなのだろうか?


 ゆーと君も三井さんも、何事もなく無事に戻ってきてくれるといいな。

 私は今、そんな事を思っている。

 近藤と名乗っていた金髪の怖そうな人が戻ってきた。


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1991年6月1日(土)PM:19:03 中央区緑鬼邸二階


 大広間に四人が戻ってきた。

 手を繋いでいた桐原 悠斗(キリハラ ユウト)と碧 伊都亜(ヘキ イトア)。

 今更ながら、手を離して少し紅潮している。

 三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)と三井 龍人(ミツイ タツヒト)は、そんな二人に苦笑いだ。


 相模 健一(サガミ ケンイチ)と相模 健二(サガミ ケンジ)はここにはいない。

 裏口前に置いてきた、黒いローブの長耳男と吹 颪金(フキ オロシガネ)を監視している。

 室内に入れないのは、暴れたら困るからだ。


 途中、何度か目を覚ました黒いローブの長耳男と颪金。

 その都度、少し面倒くさい事にはなった。

 しかし義彦と龍人の容赦無き攻撃により、再び昏倒させられる。


 安堵の表情の碧 市菜(ヘキ イチナ)と翠 双菜(スイ フタナ)。

 小走りに来て伊都亜を抱きしめた。

 他の緑鬼族(ロクキゾク)達も、三人の周囲に集まりだす。


 龍人は吹 山金(フキ ヤマガネ)と吹 嵐金(フキ アラシガネ)の二人に声をかける。

 何度かやり取りをした後に、三人で裏口のほうへ向かった。

 おそらく、颪金の所へ案内したのだろう。


 義彦はまず、近藤 勇実(コンドウ イサミ)の所に向かった。

 状況を詳しく説明する為だ。

 その行動に不満げな銀斉 吹雪(ギンザイ フブキ)。

 彼女を諌めている白紙 沙耶(シラカミ サヤ)。


 竹原 茉祐子(タケハラ マユコ)、口川 優菜(クチカワ ユウナ)、極 伊麻奈(キワ イマナ)の三人。

 義彦に何か声をかけたそうだった。

 おとなしく、説明が終わるのを待っている様子。


 悠斗の前に来た中里 愛菜(ナカサト マナ)と白紙 伽耶(シラカミ カヤ)。

 しかし愛菜は躊躇して何も言えない。

 その雰囲気を察してしまった悠斗も動けなかった。


 愛菜の背後に回った伽耶と吹雪。

 二人の意図を察した沙耶と茉祐子も移動する。

 優菜、伊麻奈はわからないまま、茉祐子に付き従う。

 左と右に分かれて、全員で愛菜の手を掴んで悠斗の胸に押し出した。


 突然の事に反応出来ない愛菜。

 それを受け止めた悠斗は、軽く愛菜を抱きしめる形になった。

 順番に、彼女の肩を軽く叩いていく一同。

 きょとんした顔の愛菜。

 しばらくして、悠斗を向いた。


「ゆーと君、おかえり」


 悠斗の背中に手を回し軽く抱きしめる愛菜。

 その言葉に悠斗も答える。


「ただいま、愛菜」


 義彦と近藤の話しは終わったのだろう。

 近藤が一人で裏口の方へ走っていった。

 見送る義彦は、振り向いた所で、驚いた顔をする。


「三井兄様、おかえりなさーい」


 吹雪が飛び込んできたのだ。

 彼女を抱きしめたが、勢いでバランスを崩す。

 しかしなんとか、倒れることだけは免れて踏み止まった。


「ただいま。吹雪」


「私達も、もっと積極的に行かなきゃ駄目かもね、沙耶」


 突然の伽耶の言葉にきょとんとする沙耶。

 伽耶はそのまま悠斗と愛菜を抱きしめる。


「悠斗君、おかえりー! ほら沙耶も行くの」


 赤い顔になった沙耶は、義彦と吹雪を抱きしめた。


「三井さん、無事で何よりです」


「ずるいずるいー」


 そう言って茉祐子が義彦達にに抱きつく。


「わ・私も」


 優菜は、一瞬どっちにいくか迷ったが、悠斗達に抱きついた。


「えへへー」


 義彦達に抱きついた、満面の笑みの伊麻奈。


「も・もう皆して」


 赤い顔をした朝霧 紗那(アサギリ サナ)は、悠斗達に抱きつく。

 その光景を見ながら戸惑っていた十二紋 柚香(ジュウニモン ユズカ)。

 少し躊躇した後、義彦達に抱きついた。


「おかえりなさい」


「じゃー私もー」


 夕凪 舞花(ユウナギ マイカ)も、悠斗達に抱きつく。

 やれやれと言った表情で、舞花を見ている瀬賀澤 万里江(セガサワ マリエ)。

 その光景を見ていた伊都亜も、よくわからないまま悠斗達に抱きついた。


 さすがに他の緑鬼族(ロクキゾク)達や桃鬼族(トウキゾク)達は抱きつきはしなかった。

 しかし、悠斗と義彦の周囲に集まり出す。

 それぞれ感謝の言葉や、労いの言葉を掛けていく。


 市菜や双菜も微笑ましい表情でその光景を見ている。

 そこに戻ってきた近藤と龍人。

 その場の光景に一瞬ぎょっとする。


「何やってんだ、この色男二人は? 両手に花どころじゃねぇな」


 そう言ってにやけている近藤。

 逆に龍人は、その光景に軽口も叩かず微妙な表情で見ていた。


「市菜さん、電話を借りたいんだがいいかね?」


「畏まりました。こちらへどうぞ」


 近藤を案内する為に、彼女はその場を離れた。

 龍人は、双菜に外の二人の事の説明を始める。

 説明が終わった後に、双菜に連れられて龍人もその場を離れた。


 しばらくして、抱きつくのをやめた皆。

 悠斗と義彦が、適当に座る。

 一人また一人と、二人を囲むようにその場に座りだした。

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