002.参加-Participation-

1991年5月21日(火)PM:22:44 中央区桐原邸二階


「エレメンター・・・か」


 僕は自室のベッドの上で、タオルケットに包まっている。

 誰もいない部屋で僕一人。

 由香さんの話しと今日の出来事について考えていた。


 僕が殴った男は長谷部 和成(ハセベ カズナリ)という名前らしい。

 指名手配中の犯罪者だそうだ。

 そう、由香さんが教えてくれた。


 あの後到着した装甲車みたいなのに彼は乗せられた。

 三井さんも同乗して、何処かに連れて行かれたようだ。

 確かにあんなのに暴れられたら危険極まりないからな。

 でも三井さんはどうやってあの爆弾の球に対処していたんだろう?


 忌避してる力なのに、思わず人前に晒してしまった。

 あの時から今までなるべく使用しないようにしてたんだけどな。

 どっちにしても明日次第か。


 由香さんが、色々と説明をしたい事があるそうだ。

 なおで、明日学校が終わったら由香さんと会う事にはなった。

 説明したい色々な事ってなんだろうか?

 そうこう考えているうちに僕は眠ってしまったようだ。


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1991年5月22日(水)PM:17:35 中央区特殊能力研究所二階


 学校が終わった後に一度帰宅。

 家の電話から、昨日教えてもらった番号に電話。

 直通で由香さんに繋がるとは思わなかった。

 少し話をした後、家まで迎えに来てくれた由香さん。

 彼女の車に乗せられて、到着したのが特殊能力研究所という建物。


 僕は学校教室のような所に案内される。

 由香さんはちょっと待っててと言って、この教室を出て行った。

 それっきり音沙汰は無い。


 室内の掛け時計をみると、既に二十分ほど経過していた。

 廊下からはたまに足音は聞こえる。

 でも、どの足音も教室は通り過ぎていった。


 また足音が聞こえて来た。

 たぶん人数は二人。

 近づいて来た足音。

 通り過ぎると思ったけど、扉の前で止まった。

 正面側の扉が開いて入って来たのは由香さん。


「遅くなってごめんねぇ」


「待たせてしまって申し訳ない」


 由香さんの背後に、もう一人女性が立っていた。

 ウェーブのかかった茶色い髪のスレンダーな女性。

 由香さんは可愛いという言葉で表現出来る。

 逆にこの女性は綺麗という言葉が当てはまる感じだ。

 大人の雰囲気って奴を感じた。


「桐原君、はじめまして。私は古川 美咲(フルカワ ミサキ)、ここ特殊能力研究所の所長をしてる」


「あ・え? はじめまして」


 二人は僕の座っている席のひとつ前の席に座った。

 椅子は逆向きにしているので、こっちを向いている。

 俺の前に古川さん、その左側に由香さんだ。


「由香から君の事は聞いている。能力者、エレメンターだそうだね」


「あぁ、はい。どうやらそのようです」


「色々と説明しなければならない事はあるが、まずここが何なのか説明させてもらいたいがいいかな?」


「はい、お願いします」


 なんか偉い人のようだ。

 所長って言ってたしな。

 って事は、一番偉いのかもしれない。


「世界には様々な常識を超えた能力の研究をしている機関があり、ここ特殊能力研究所はおもにエレメンターの研究をしている」


 エレメンターの研究?


「また公的機関よりの依頼で、主にエレメンター絡みの事件への協力をしてる組織だ」


「あ・・はい」


「またここでは、エレメンターの能力についての研究協力を依頼をする変わりに、協力者には情報を提供している。君が見た三井君とかだな」


 あの時の、スポーツ刈りっぽい眼鏡の少年か。


「ここでは基本的には毎週水曜日と土曜日、十八時から一時間程度、エレメンタルについての知識を深めてもらう為、勉強会のようなものも行っている」


 古川さんが僕に話している間、由香さんは一言も言葉を発さない。

 優しい眼差しで僕をずっと見ているだけだ。

 昨日会ったばかりの赤の他人にも等しい。

 なのに、なんでそんなに優しい眼差しなんだろう?


「もちろん強制ではない。だが出来れば君にも勉強会への参加と研究への協力をお願いしたい」


 そこで由香さんが初めて口を開いた。


「ゆーと君、もちろん今すぐ答えてとは言わないから安心してね。よければ一度勉強会に参加してみて、それから考えてみたらどうかな?」


「うーん、わかりました。そうします」


 確かに百聞は一見にしかずか。


「開始まではまだ時間がある。それまで私の仕事部屋で、続きの話しでもしてようか」


「古川さんの仕事部屋?」


「所長室の事だ」


「それでは私は仕事に戻りますね」


 由香さんが先に教室を出て行く。

 僕は古川さんとその後に続いた。


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1991年5月22日(水)PM:17:47 中央区特殊能力研究所五階


 所長室で、僕は古川さんとテーブルを挟んで対面している。

 テーブルの上には古川さんが入れてくれたコーヒー。

 ブラックで飲んでるらしいけど、苦くないのかな?

 僕は砂糖とミルクをいれなきゃ正直苦くて飲めない。


「とりあえず、昨日の事件の状況は理解した」


「はい」


「さて勉強会に行く前に、知っておいた方がいい事をいくつか説明する」


「はい、お願いします」


「まだ推論の段階ではあるが、エレメントの力は大雑把に分けると水、火、土、風の四種類に分けられると考えられている。属性だな」


 それであの時、三井さんは土と行ったのか。


「実際にどんなエレメントになるかは個人の資質、知識など様々な要因によって分かれていくと考えられているが、その法則性や因果関係などは不明。現時点では解明されてないだけかもしれない。ただ、物理法則を無視している側面もあるようだ。また同属性だとしても資質によって得意な方向は変わるようだ」


「得意なもの?」


「操作だったり強化だったりだな。そうは言っても、境界は非常に曖昧だったりする」


 判明している事はそんなに無いのかもしれないな。


「ようするに良くわからない事だらけなんですかね?」


「そう言われると身も蓋もないけどな」


「失礼します」


 扉がノックされる音。

 その後に、由香さんが入ってきた。


「そろそろ時間です」


「わかった。それじゃ桐原君」


「はい、それでは」


「それじゃゆーと君、いこっか」


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1991年5月22日(水)PM:18:02 中央区特殊能力研究所二階


「今日はゲスト生徒さんがいらっしゃいますよ。ゆーと君自己紹介よろしく」


 僕は最初に案内された教室に戻ってきた。

 でも今は僕と由香さん以外にも人がいる。

 そして何故か、僕は転校生の自己紹介の如く皆の前に立たされていた。

 隣には由香さん、そして広い教室の椅子には五人が座っている。


「桐原 悠斗(キリハラ ユウト)です。中学一年です。よろしく」


「私達と同じ学年だぁ」


 六人に拍手をされるのは、人数が少ない分、何だかむず痒い。

 一番左側の向日葵の絵っぽいヘアピンの女の子も中学一年のようだ。

 正直、独り言とは言い難い声量だった。


「それじゃ、皆を紹介するね。左から白紙 伽耶(シラカミ カヤ)さん、隣が双子の妹の白紙 沙耶(シラカミ サヤ)さん」


 二人は双子というだけあってそっくりだ。

 伽耶さんは、黒髪のシンプルなポニーテール。

 前髪に向日葵の絵っぽいヘアピン。

 僕に手を振ってくれている。


 隣の黒髪のシンプルなポニーテールが沙耶さん。

 前髪に菊の絵っぽいヘアピンを挿している。

 彼女は目礼をしてくれた。

 とりあえず今日はヘアピンで判断は出来そうだ。


「桐原君、よろしくねー」


「桐原君、よろしくお願いしますね」


「真ん中の眼鏡かけてるのが山本 雄也(ヤマモト ユウヤ)君」


 少し長めで、わずかに茶がかった黒髪。

 何となく頭が良さそうな雰囲気だな。

 眼鏡のせいかもしれない。


「よろしく」


「一番後ろが瀬賀澤 万里江(セガサワ マリエ)さん」


「よろしくお願いします」


 ショートヘアの、ボーイッシュな黒髪の女性。

 彼女が僕の方を向いて一礼をした。

 僕も軽く一礼する。


「瀬賀澤さんの隣が夕凪 舞花(ユウナギ マイカ)さん」


「夕凪 舞花(ユウナギ マイカ)です。よろしくお願いします」


 僕の方を向いてにっこりと微笑む少女。

 黒髪の短めのツインテールだ。

 僕も彼女に微笑みで返した。

 何か嬉しそうにしてるな。


「それじゃ、ゆーと君。空いてる席に適当に座ってね」


「はい、わかりました。ところで由香さん、ここの生徒って全部で何人位なんですか?」


「ん? そうね、そう言えば言ってなかったな。ゆーと君いれて六人だよ」


「そ・・そうなんだ」


 まぁ僕も今までで同じような力を使える人は、余り会った事ないしな。


「という事で今日はゆーと君が来た事だし。最初の十分位は、皆で友好を深めるためにお話しタイムにしよっか。その後にここの案内でどうかな? 賛成の人は挙手」


 まるで一致団結したかのようだ。

 僕以外の全員が挙手。

 これじゃ、学生のノリだ。


 まあ皆、学生なんだろうけどさ。

 学校のノリとあまり雰囲気が変わらない感じだ。

 こうして、僕と皆との関わりが始まった。

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