Element Eyes

zephy1024

第一章 狂気爆炎編

001.能力-Element-

1991年5月21日(火)PM:21:14 中央区環状通


 僕は今、環状通を歩いている。

 もちろん家に帰るためだ。

 予定外の事で、大分遅くなってしまった。


 普段は通らない道。

 左に曲がった。

 深い意味は特に無い。

 ただ、近道だと思っただけだ。


 そのまま前に足を踏み出す。

 視線の先、左側の打ち捨てられたマンションに、僕は気付いた。

 不気味に思いながらも前に進む。


 僕の今日の服装は、上は黒のティーシャツ。

 半袖のオレンジのボタンダウンシャツを、上に重ねて着ている。

 下は普通のジーパンだ。


 短めのツンツンとした髪型。

 実際の身長より、少し高めに見られた事があった。

 そんな僕の髪色は、青みがかった黒だ。


「ガス爆発・・なわけないか。人が住んでないって話だしガスがきてるわけがないよな。じゃあなんだ?」


 僕は、不気味なマンションの前を横切る。

 そこで何かが爆発するような音が聞こえてきた。

 不良がたむろってて、何かしてるのかと一瞬考える。

 でもさすがに爆発は有り得ないだろと直ぐに思い直した。


 無視して進むべきか思案する。

 迷っていると、轟いた爆音。

 二回目の音は、さっきよりも音が近かった。


 音がした方向は二回とも、不気味なマンション。

 マンションの一階、入口に僕は視線を向けた。

 半開きの扉の隙間から、煙が立ち上り始めていた。

 二回目の音は、おそらくその奥からだとわかる。


 濛々としたその煙の中。

 人らしきものの輪郭が徐々に近づいてくる。

 煙を抜けて出てきたのは一人の男だった。


 暗がりなので髪色ははっきりとはわからない。

 だが、目にかかるぐらい長い髪の毛。

 灰色っぽいヨレヨレのスーツ姿。

 ネクタイはしておらず、胸元のボタンもかけられてはいない。


 男は一歩また一歩と僕に近づいてくる。

 最初は距離があった為わからなかった。

 だけど、男の目は血走ってる様なカッと開かれていた。

 男の瞳は、怒りに満ち溢れているようにも見える。

 たぶん気のせいではない。


「またガキかよ、くそが。さっきのガキの死に様は見れなかったからてめぇで勘弁してやらぁ」


 男は意味のわからない事を口走った。

 その上で僕に向かって走ってくる。

 勘弁って何に勘弁なんだよ?

 言ってる事が全く呑み込めない。

 だけど、何かやばいと直感した。

 思考より先に本能で体が動いていた。


「爆ぜて飛び散れやぁ!」


 男の手の平がまじかに迫っている。

 僕は体を深く沈みこませ、地面に拳を突き立てた。

 同時に、男の突き出した手を躱す。

 地面のコンクリートを変化させて拳に纏った。


 がら空きの男の腹部に一撃を放つ。

 拳をコンクリートで強化補強した上での拳の一撃だ。

 無様にも男は派手に吹っ飛んでいった。


 殴ったとほぼ同時に背後の方で何かが弾ける音が轟く。

 僕は音に思わず、後ろを振り向いた。

 足元、地面を覆っているコンクリートの先。

 車道部分に拳大にぽっかりと穴が開いていた。


 この男は一体何をした?

 何で背後のコンクリートの地面に穴が開いたんだ?

 疑問が頭の中を物凄い速度で駆け巡る。


「糞ガキ、てめえも能力持ちかよ・・・」


 能力って何だ?

 僕のこの力の事か?

 子供の頃から持っている不思議な力の事か?


「痛いじゃねぇか、くそ、もう頭きた、死ね」


 男は振り上げ手の平を、こちらに向けた。

 赤と黒が無節操に絡みあった小さい球体が現れた。

 驚いてる僕の足元目掛けて飛んで来る。

 咄嗟に横に飛ぶ。

 僕の足があった場所に着弾したようだ。

 爆発の余波に巻き込まれ吹き飛ばされた。


「爆ぜて散れやぁ!」


 まるで狙ったかのようだ。

 吹き飛ばされた僕の着地点に、球体が飛んでくる。

 転がりながら、頭をフル回転させるも、僕はパニック寸前。

 無意識に目を瞑っていた。

 だけども、いくら待っても、爆発音がしただけで衝撃はこなかった。

 ゆっくりと瞼を開けると、目の前に同い年位の少年。

 彼は眼鏡にスポーツ刈りっぽい頭をしていた。


「馬鹿な・・・生きてるわけが・・・」


「そうだな」


「ふざけんなぁぁぁぁ・・・」


 再び球体が飛んでくる。

 僕は混乱でどうしていいかわからない。

 だがその球体は到達する前に、小さな爆発を起こして消えた。


「ば・・馬鹿な・・・。ありえねぇ・・」


 男が何度も球体を飛ばす。

 だけど、全て到達する前に、小さな爆発を起こして消える。

 何が起こっているのかさっぱりわからなかった。

 男の目は驚愕に見開かれている。

 たぶん僕の目も同じようになっているだろう。


「ありえねぇ・・・そんな馬鹿な事・・・」


「諦めろ」


 僕が瞬きをした一瞬の出来事。

 何がどうなってたのかはわからない。

 ただ、男はマンション側に吹っ飛んでいた。


「土か」


 最初その言葉の意味は分からなかった。

 しかし自分の体をみると、無意識にやったのだろう。

 あの男の方を向いている体の正面部分。

 鎧のように、僕は不完全ながら土の鎧を纏っている。


 こちらを振り向いた少年の顔。

 眼鏡の奥の瞳。

 その瞳がとても綺麗に、赤黒く輝いていた。


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1991年5月21日(火)PM:21:27 中央区環状通


 小柄でロングヘアー。

 可愛いという言葉がぴったりの女性。

 高校生、いや中学生と言われても、信じてしまいそうな程の童顔。


 それが彼女への僕の第一印象だった。

 余り膨らみの感じられない胸元。

 それが、何だか幼さを更に強調しているように感じる。


「はい、これで手当ては終了」


「ありがとうございます」


 僕は一度爆風に吹き飛ばされた。

 飛んできたコンクリートの破片に曝されている。

 その時に、左頬に一箇所、左手二箇所が切れていた。

 対した傷ではないので、一度は断ったのが、彼女に説得されて手当てを受けるに至る。

 真摯な眼差しで切なげに言われて、断れ切れなかったってのが本音だ。


「ううん、こちらこそ巻き込んじゃってごめんね。あぁ、そういえば自己紹介がまだだったわね。私は間桐 由香(マギリ ユカ)。由香でいいよ。さっきの無愛想な少年は、三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)って言うの」


「は・・はぁ。由香さん・・と三井さん?」


「うんうん、ところで君の名前はなんて言うのかな?」


「ぼ・・僕は桐原 悠斗(キリハラ ユウト)・・といいます」


「ふーん、かっこいい名前だね。じゃあ、ゆーと君って呼んでいいかな?」


 初対面で行き成り名前呼び?

 普段なら馴れ馴れしいとか、思いそうなものなんだけど。

 醸し出す雰囲気の影響だろうなんだろうか?

 嫌な気は別段しなかった。


「え・・えっと・・は・・はい」


「うんと、ゆーと君きっと聞きたい事いろいろあるよね?」


「は・・はい、ありますけど、何が何やら」


「そうだよね、だからまずは私の話を聞いてくれるかな?」


「はい」


「私達は簡単に言うと、警察の手に負えないような特殊な事件の時に対処する組織なの。三井君は組織の人間じゃないけど協力者の一人かな?」


「協力者・・ですか」


「そうは言っても公に認められている組織、と言うわけじゃないんだけどね」


「公じゃない? 秘密組織みたいな感じですか?」


「うーん、秘密組織ってわけじゃないけど、あまり他言はして欲しくないかな?」


「わかりました。そもそもこんな話し、人には出来ませんけど」


 たぶん話しても誰も信じてはくれないと思う。

 もし僕が聞かされる側だとしても信じないだろうな。


「そうだよね出来ないよね。でね、ゆーと君に説明をしてるのは、君も能力持ってるみたいだからね」


「あ・・・見られてたんですね・・」


「見てたのは私じゃなくて三井君だけど」


「三井・・さん、あの人は一体何者なんですか?」


「何者なんだろうね? わかんないけど、凄いエレメンターってのは確かかな。あ、エレメンターってのは能力を持ってる人の事で、能力の事はエレメントって呼んでるの」


「エレメンター・・・ですか」


「うん、エレメンター」


「由香さんも能力・・エレメンターなんですか?」


「そうそう、私も一応エレメンターだよ。あ、もうこんな時間だね。本当は全部説明したい所だけども時間も時間だし。それに口で説明するよりも、実際に会ってもらった方がいいかな。家まで送るから助手席に乗ってもらえるかな? 話の続きは車で移動しながらしましょうか」


「はい。わかりました」


 そうして僕は何かに巻き込まれた。

 何が起きたのか何に巻き込まれたのかは判然としない。

 間桐と名乗った女性の車に乗車する事になった。


 今日は誰もいないだろう家まで送ってもらう。

 もし幼馴染にばれたらいろいろ面倒になるからだ。

 こんな出来事、説明するわけにもいかないし。


 帰宅しても彼女はいなかったのは救いだ。

 事前に遅くなると伝えてあったのが幸いしたようだ。

 自室でおとなしくしているのだろう。

 そう考えていた僕だった。


 次の日の朝、そんなには甘くない事を知る。

 部屋の窓から見られていたらしい。

 幼馴染が面識のない女性と、僕が話しをしているのを見られるといつもこうなる。


 自分の力は幼馴染にも隠していた。

 だから尚更、由香さんの事を話すわけにはいかない。

 だけど現実は非情。

 翌日の朝僕は、幼馴染に由香さんの事も含めて、説明するのに四苦八苦する事となった。

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