第12話『ロボット』
彼は思い切って、通信販売でロボットを購入することに決めました。
2足歩行で身長は30センチ程度、しかも簡単な会話ができるロボットです。
余談ですが、近年では2足歩行ロボットを手に入れやすくなりました。
一昔前は企業や大学の研究室でしかありえなかった物が、高価ではありますが普通の人でも扱えるようになりました。
今では、専門知識がなくとも組み立てられる2足歩行ロボットのキットさえもあります。
彼は2足歩行ロボットを手に入れるのが長年の夢でした。
漫画やアニメのロボットにあこがれ続け、それがとうとう手に入ることになったのです。
頼んでおいたそれが届くと、早速動かしてみました。
滑らかな動きでの歩行。彼を認識してあとについて歩きます。それは昔アニメで見たロボットよりも自然な動きでした。
そして、会話の方も……彼は緊張した面持ちで話しかけます。
「今日は、晴れるかな?」
「ハレルヨ、キット」
「明日は、晴れるかな?」
「サア、ワカラナイ」
たったこれだけの会話ですが、彼にとっては劇的なファースト・コンタクトでした。
簡単な会話を何度も何度も繰り返します。
さすがに人間と同じような会話をしようとは思いませんでしたが、彼にとってそれでも十分でした。
その後、どこへ行くにもロボットと一緒。すっかりロボットに夢中です。
ペタペタと歩く愛らしい動き。どこかぎこちないが愛嬌のある受け答え……それら全てが彼にとっては満足でした。
知人から「ロボットが恋人みたい」と言われましたが、悪い気はしませんでした。
そのうち、彼はロボットが自分が思っているよりもずっと高度な物だと気付きました。
難しい質問でも、それなりの受け答えが返せるのです。
例えば、環境問題や紛争、さらには政治といったものまで……。
彼は分解して中身を見てみたい衝動に駆られました。
しかし、いつもあと少しのところで思いとどまります。
なぜなら、本体の裏面に「いかなる理由でも分解した場合サポート対象外となります」という旨のシールが貼られていたからです。
もし壊れた時に修理することを考えると、その規約を破るのはためらわれました。
しかし、その機会はすぐに訪れました。
ある日突然「タ……」と言いかけて、動かなくなってしまったのです。
サポートに修理に出そうかとも思ったそうですが、分解して修理することができるのではという考えを捨てることができません。あれほどまでに抑えてきた衝動が一気に迫ってきます。
そして、彼はその衝動を抑えることができませんでした。
シールを剥がし、ネジを外して、外装を取り外します。
こうして内部を見て、唖然としたそうです。
スピーカー、マイク、カメラ、通信機など…………高度な会話ができるような部品は、どこにも無かったのです。
後で分かったことですが、そのロボットには携帯電話の基地局を無断で使用して通信する機能があったそうです。
彼が話していたのは、いったい「誰」だったのでしょうか?
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