第9話『日本人形』
彼女がそれに気付いたのは、和室の掃除をしている時でした。
その部屋には、小さな女の子を模した日本人形が飾ってありました。おかっぱ頭をした着物姿の人形です。
その人形の位置が、前と変わっていたのです。変わっていたと言っても、ほんの少しずれていた程度でしたが。
その時は単なる気のせいだと思ったそうです。
数日後、何気なく人形を見ると、また少しずれている気がしました。
それも以前と同じでほんの少し、気にしなければ気にならない程度でしたが、一度気付くと無視できません。
家族に確認しましたが、人形に触ってはいませんでした。
泥棒でも入ったのかとも思いましたが、同じ所に2度も入るとも思えません。
念のため貴重品を確認しましたが、盗られた物もありませんでした。
彼女はストーカーでも居るのかと疑い出しました。
もっとも、家族と一緒に暮らしているのに誰一人気付かないことはありうるのでしょうか?
それとも、人形が勝手に動いたとでもいうのでしょうか?
皆が寝静まった真夜中、人形がカタカタと音を立てて動いている――そんな想像をして、背筋が寒くなったそうです。
とにかく、正体をつかまないと安心できないと、彼女は寝る前に人形のそばにビデオカメラをセットするようになりました。
1日目、何もありませんでした。
2日目も、何もありません。
効果なしか――彼女がそう思い始めた3日目に、ようやく捉えました。
深夜、電灯は消されているので画面は暗く、シルエットだけを映し出しています。
その中には、あの人形のシルエットもあります。微動だにしません。
時間を進めると、動きがありました。
部屋の電灯が点けられたのです。
電灯のスイッチのところに居るのは……彼女でした。
彼女は信じられないという様子でそれを見ました。
全く記憶になかったのです。
画面の中の彼女は人形に近寄っていきます。
おもむろに人形を抱き上げると、それをあやし始めました。
我が子をあやすように、大切そうに抱いて、ゆっくりと前後に揺らしています。何度も何度も。
よく見ると、口が動いています。
彼女は人形を抱きながら、小声で子守唄を歌っていたのです。
その映像が20分ぐらい続きました。
そして、満足したかのように人形を置くと電灯を消しました。
それ以降、人形の位置が変わっていることはありませんでした。
ただ、なぜそうなったのかという原因はどうしても分からなかったそうです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます