第5話『カーナビ』
彼がそのカーナビを購入したのは、デートの4日前でした。
少し古い機種でしたが、その分値段が安いのが決め手となりました。
念のため、近所で運転して2度試しましたが、その時には特に異常はありませんでした。
そしてデート当日。彼女を乗せて意気揚々とドライブに出かけました。
行先は景色が良いと評判の湖で、デートスポットとしては有名な場所です。
山奥で少し遠いですが、ナビがあるから大丈夫だろうということで思い切って行ってみることにしたのです。
幸い迷うこともなく、目的地にたどり着きました。
景色を見ながら談笑して、さて帰ろうとカーナビに帰路のルートを設定します。
車が動き出してしばらくして、彼女が言いました。――「行きと道が違う」と。
もともと見覚えのない山中ですのではっきりとは分かりませんが、確かに違うルートのようです。
しかし、ナビが決めたルートだから間違いではないだろうと、彼は聞き流しました。
さらに進むと、妙なことに気付きました。
山中から市街地に出る道のはずなのに、どんどん市街地から遠ざかっていくのです。
ここにきてようやく、彼の方も何かおかしいと気付きました。
車を止め、ナビの指定したルートを確認します。
そのルートは山中でぷっつりと途切れています。
彼女が不安がっているのに気付いた彼は、大丈夫だと何度も言い聞かせました。彼女だけでなく自分自身にも。
しかし、道が分かる訳ではありません。
迷った挙句、とりあえずナビのルートの終点まで行ってみることにしました。
「戻ろうよ。戻ろう」――助手席からはそう聞こえてきます。
その声を無視するように車は突き進みます。
いつの間にか、舗装道路から土道へと変わっていました。車1台通るのがやっとという道幅です。
日もかなり西に傾いてきています。
車は進み続けます。
終点――ナビのルート表示が途絶えた所です。
そこは少し開けた広場のような場所でした。
夕闇が辺りを包み込み、虫の鳴き声があちこちから聞こえてきます。
彼はどうしたものかと途方に暮れていましたが、とりあえず彼女の機嫌を取ろうと話しかけました。
その時、彼女は顔をあげて「何か……聞こえない?」と、つぶやいたのです。
シャ…………シャン……シャンシャン…………。
虫の鳴き声に混じって、金属音、鈴の音のような音が聞こえてきます。
彼はパニックになり、慌てて車をUターンさせると来た道を引き返し始めました。
そこに居てはいけない、と感じたそうです。
数十分後、名も知らぬ街のコンビニに車を止めるとそこで一息つきました。
何気なくもう一度ナビを設定し直すと、今度は正常に動きました。違う道を示していたり、途中でルートが途絶えていたりは無かったそうです。
さて、彼が購入したこのカーナビ。いったいどういった仕掛けだったのでしょうか?
ナビにとりついた亡霊が……ならまだ良いのですが、これにはとある新興宗教団体が絡んでいるとの噂です。
ナビの発売は大手企業の名義ですが、その開発者の誰か、あるいは下請けの企業自体がその宗教団体の関連でした。
完成したナビには、ある場所の近くを通る時ごく低確率でそこへ誘導するプログラムが仕掛けられているそうです。
その場所に行ったらどうなるのか……それは分かりません。
少なくとも言えるのは、「何か」あった場合に帰ってきた人は居ないということです。
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