第2話『仏像』

 彼がその仏像を見つけたのは、ネットオークションでした。

 20センチ程度の小さな像でしたが、精巧な木彫りに見入られて即座に入札したそうです。

 幸い他の入札者も少なく、無事落札できました。


 彼の元には、厚めのビニールでしっかりと密閉されてその仏像が届きました。

 彼は几帳面な出品者だと思っただけで、それ以上気にしませんでした。欲しかった物が手に入ったということで、気が緩んでいたのです。

 ビニールを破ると早速ベッドのそばに飾りました。

 これは出品者の「枕元に置くと守ってくれる」という言葉からでした。

 その晩、彼は満足してぐっすりと眠り込みました。


 翌朝、何か体が重い気がしましたが、それ以上気にしませんでした。

 単に昨日の疲れが残っているだけだろうと思っていたのです。

 その翌朝、また体が重くなりました。その上、かすかに目まいもする気がします。

 さらにその翌朝……と、体調不良が続きました。

 そして、ようやく何かおかしいと彼は気付きました。

 何がおかしいというのははっきりと分かりませんでしたが、問題はその仏像を飾った翌日から起こっています。

 それが原因という確証はありませんが、他には何も思いつきませんでした。

 彼はその仏像をベランダに置いて寝てみることにしました。

 すると、その翌朝には体の不調はありませんでした。

 彼は仏像が原因だと確信しました。


 実はその仏像には揮発性の高い毒物が染み込ませてあったのです。

 密閉してあったのも、目的地に着くまでその毒性を保つためでした。

 即死するようなものではありませんが、大事にならない程度の毒性なので、原因に気付きにくいという悪質なものでした。


 もっとも、彼がこれらのことを知ったのはずっと後のこと。

 細かな原因の追求は後回しにして、さっさと仏像を処分してしまったそうです。

 その結果、彼はすぐに回復しましたので、選択としてはそれで良かったのかもしれません。


 しかし、この話には続きがあります。

 この「毒仏」を作った人間は捕まりましたが、奇妙な点がありました。

 分かっただけで犯人の供述の何倍もの数が出回っていたのです。誰かに教えた訳でもなく、よく知られている手口でもないにも関わらず。

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