△▼△▼「物」語り△▼△▼

異端者

第1話『ゲーム機』

 彼がそうなったきっかけは、とあるゲーム屋で中古の据え置き型ゲーム機本体を購入したことでした。

 彼はゲーム自体は好きでしたが、金銭的に新品を買うのを躊躇してしまったのです。

 まあ、新品を諦めて中古にしておけば、その差額分の幾らかをゲームソフトの購入に使えますからね。ゲーム好きなら分からなくはないかと。

 彼は自宅に帰るとすぐにテレビに接続し、ゲームを始めました。


 ところで、最近のゲーム機はインターネット接続環境がほぼ必須なので、面倒といえば面倒で……常時接続前提とか、どこの監視社会だと思いますね。

 いえ、他意はないんです……本題、戻りましょうかね?


 彼が始めたゲームはRPGで、主人公の名前が選択できるものでした。

 彼は夢中になってゲームをプレイしました。それも寝食を忘れる程に。


 数日後、ようやく落ち着いてきたので、外に出ると友人に会いました。

 彼は新しくゲーム機を購入したことを喜々として友人に話します。

 そして、今プレイしているゲームと、そのゲームの主人公の名前を言った時、友人の様子が変わりました。

 友人は何か考え込むような顔をしましたが、それ以上何も言いませんでした。

 彼が返答を待ち続けていると、ようやく「これ以上ゲームをするな」とだけ絞り出すように言いました。

 「なぜ?」彼は当然反論しましたが、それに答えてはくれませんでした。

 それで気まずい空気となり、彼と友人は半ば喧嘩別れのような形で別れました。


 その後、彼が自宅に戻りゲームを再開しようとすると、携帯の方にメールが届きました。さっきまで会っていた友人からです。

 メールには題名もなく、本文にはどこかのサイトへのリンクと「これを見ろ」の一文だけ。

 彼は無視しようかとも思いましたが、さっきの様子の理由がわかるかもしれないと、リンクを開きました。

 そのリンクは、動画サイトに投稿されたゲーム実況動画の物でした。

 それも彼がプレイしていたものと同じゲームのようです。

 最初のうち、話題として送ってきただけかと思いましたが、動画を再生してみると彼の顔色が変わりました。

 そのプレイ内容は、自分が操作した物と全く同じだったからです。主人公の名前すらも。

 違うのは、聞いたこともない男の声でそれに対する解説がされているということだけでした。

 彼は慌てて友人に電話しました。

 「まさか知人がそうなるとは思っていなかったが――」と、友人は話を切り出しました。


 動画投稿サイトでは、昔は有名なゲームの実況というだけで大量にアクセス数を稼げましたが、最近ではそれは飽きられてきています。

 その中で、無理にアクセス数を稼ごうとして考えられたのが、この手法です。

 ゲーム機を改造し、インターネット経由でプレイ動画を無許可で自分に送信するようにして、それをわざと中古屋に売ります。

 それを見ず知らずの他人に買わせ、プレイ動画を集めて、解説を付けるなどの加工をしてアップロードするのです。

 一見すると馬鹿げていますが、意外性が強いから飽きられにくいとか。


 それを聞いて、彼は呆然としました。

 単なる個人の趣味が、不特定多数の玩具にされていることに憤りを感じたのでしょうね。

 そして、彼は本体をバラバラに破壊して捨てました。

 手放すには中古屋に売るという方法もありましたが、それは「被害者」を増やすことに繋がるのでしたくなかったのでしょうね。

 それ以来、彼はゲームをしていない、いやできなくなったそうです。ゲームをしようとすると嫌悪感がこみ上げてくるそうで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る