第4話 あと少しで
今日の会社は慌ただしかった。早朝だっていうのに電話が鳴り止まない。デスクに座ってる人などいないほどに皆あちこち動き回っていた。
すると青木が俺の前を横切ろうとした。
「おい、これどーなってんの?」
「やっと来たか!お前の出番みたいだぜ?」
青木がチラッと目線を泳がす、その先には赤塚さんがいた。こちらに気づいたのか手招きしている。
その手に誘われるかのように赤塚さんのデスクへ向かった。
「おはよう、実はな……荒木さんが発注ミスと製造申請ミスダブルでやってしまってな。発注数も商品自体もおかしいから、てんやわんやで仕事が回らないんだよ。」
莉帆のデスクを見ると血相を変えて電話対応をしている。かなり責任感を感じてるんだろう……これは何とかしてあげなければ。
「僕に任せてください。何とかしてみます!」
デスクへ戻ると製造申請ミスとなったA社の資料に目を通す。社内でデスクに座っているのは僕だけだろう、何だよあいつって目線で背中が痛い。
10分は過ぎただろうか……俺は1つの解決策を思いついた。すぐにA社へ電話をかける。
「もしもし…はい、荒木です。」
ーー 荒木さんですか。何か解決策でも見つかりましたか?ーー
「それなんですけど、今出来上がっている商品のここの部分を変更してこの部品に取り替える事ってできますか?」
ーーはい、できます……あぁ、なるほど分かりました。取り替えると荒木さんが本当に注文したかった商品とさほど変わらない性能を出せますねーー
「話しが早くて助かります。ではお願いします。」
電話を切ってデスクへ戻る。次は箱詰めしてくれる会社か…発注ミスをどうするかだな。
僕はまた座り込んだ。そして程なくして良い案を思いつく、今日はなかなか頭が冴える。
僕は莉帆を呼びつけた。怒られると思ったんのだろうかビクビクしながら近づいてくる。
「なにビクビクしてるんだよ!僕に良い案があるんだ乗らないか?」
「この状況を無くせるならなんだってやります!!」
「そうこなくっちゃな!」
莉帆の頭をポンポンと叩くと、良い案の内容を話した。
「そんなところ本当にあるんですか?」
「まあね、僕の昔ながらの友人がやってるとこなんだよ、内容は頭に入ったな?後は任せたよ」
それだけ言うと莉帆を行かせた。
俺は涼しい顔でデスクへ戻ると今日のノルマをこなしはじめる。
10分、30分、1時間、時間が刻一刻と流れるにつれて、あれだけ鳴り止まなかった電話が徐々になくなっていく。
莉帆がうまくやってくれたみたいだ。
製造ミスは代理の部品で、発注ミスは僕の友人に頼んで箱詰めと配達を請負ってもらった。
後は赤塚さんにこれを報告するだけだ。莉帆が帰ってこないか見ながら赤塚さんの所へ向かった。
「すいません…僕じゃ力不足で。出来ることはありませんでした。ほんと、すいません。」
赤塚さんが不思議そうな顔でこちらを見ている。
「何言ってるんだ?電話鳴り止んでるじゃないか!」
「多分、新人の荒木さんがどうにかしたんだと思います。A社とへ電話すればわかるかと」
赤塚さんは受話器を取ると電話をかける。
「あの、お聞きしたいのですがミスの方はどうなりましたか?」
ーーあぁ、それなら荒木さんが対応してくれて何とかなりましたよ!ーー
「そうですか、分かりました。失礼します」
赤塚さんは顔を上げる、表情は穏やかに戻っていた。
「荒木さんなかなかやるね」
「そうですね!」
二人で微笑んでいると莉帆が帰ってきた。赤塚さんの前に飛んでいく、謝るつもりなんだろう。
それを制するかのように赤塚さんが一足早く声をかけていた。
「荒木さん良くやってくれた!何とか無事終わったよ新人にしては頭一つ飛び抜けてるなぁ……。」
莉帆はキョトンとしている。赤塚さんの褒め言葉など頭に入っていない様子だった。ただじっと僕の方を見て、え?なんで?って顔をしている。
「よく頑張った」
僕はそれだけ言うとデスクへ戻っていく。
残った仕事を片付け、定時を少し過ぎた頃だろうか仕事が片付いた。
「おつかれさまでーす。」
帰宅途中に今日の僕の活躍を自分で褒めた。
莉帆と苗字が同じでよかったなぁ……。そんなことを思いながら歩いていると後ろから駆けてくる足音がする。
振り向くと莉帆が息を切らしてそこにいた。
「どうしたんだ?」
「あ、あの!今日は、ありがとうございました。ちゃんとお礼言えてなかったから……あと、今度食事でもどうですか?お礼したいし奢らせてください!」
「そんなのいいのに……」
「いいえ、私がダメなんです。貸しがあるとムズムズしちゃう性格なんです!」
これはどうも引き下がりそうにない。ズルいかもしれないがこの手を使うか。
「でも、ほら……彼氏いるだろう。男と二人で食事ってのは彼氏もいい気分しないと思うよ?」
「別れました……昨日ふりました。」
一瞬空気が重くなるのを感じた。完璧に地雷を踏んだようだった。
「なんかごめん……じゃあ行こうか。お言葉に甘えることにするよ!」
「約束ですよ!!」
「うん、約束!」
その日の帰り道はいつもより夕焼けが明るかった。僕の未来もあれだけ明るければなぁ……そんな願望を抱きながら帰宅した。
習慣になったようにカレンダーを見る。気づけばもう6月後半だった。あと少しだ……何か沸るような感覚が僕を襲う。彼女が残したものを探しにいく準備はもう出来ていた。
お金的な面もそうだけど、気持ちの面でも受け入れる覚悟が出来たんだと思う。
「あと少し」ぐっと拳を握ると今日に終わりを告げた。
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