3 七つの大罪

暗い部屋で一人本を読む者がいる。

 何やらぶつぶつと呟きながら。

「人間の持つ七つの大罪。奴らを許さない。奴らは断罪されるべき」

 その者は次に一言だけ、

「彩りは彼方へ」

 と呟く。



 違法ドラッグ事件から二日後。

 いつものように蘇芳さんは遅刻して御堂係長に説教され、小梅は報告書のデータを消して再度作成など、相変わらず騒ぎの絶えない一係。

 家に帰ってきた私は、この前友人であるキルアから借りた本を読んでいた。『彩りは彼方へ』。主人公は刑事として日々、事件解決に努めている男性。

 そんな中、ある事件が起こる。

 “七つの大罪”事件。被害者は様々で、殺され方もそれぞれ違う。

 毎回犯人が残したであろうメッセージとして、人間の持つ七つの大罪。

 傲慢、怠惰、嫉妬、強欲、暴食、色欲、憤怒の単語が壁に書かれる。

 それぞれ、その罪の一つに該当するであろう、世間に知られる有名人が殺されていった。

 そして、七人目の被害者の自宅を訪れたところ、犯人は死体の横に立っていた。至って普通の中年男性で、自ら犯人であると語り、警察に捕まった。

 その時に犯人が口にした言葉こそが、『彩りは彼方へ』だったのだ。

 これは本の話で、実際に起きた訳ではない。

 最後は中々良かった。次に彼女に会った時に返そう。

 私はその本を枕元に置き、眠りにつく。


 翌日。一係に着くと、鑑識課の川内課長がいた。内容はこの前の違法ドラッグ事件に関するもの。

「鑑識の結果が出たよ。少し信じられん事で時間がかかってしまった」

 課長は鑑識の結果をプロジェクターに表示する。

「これが、今回の犯人として扱われていた人形の画像だ」

 人形、私の頭の中でその単語が反芻される。

「これは本物の人間の体を使って作られた“死体人形”さ」

 死体人形。近年、医療技術者達が挑む課題の一つ。死者の復活を研究する際に出来上がったもの。しかし、これは完全でなく、生き返った死体は、頭にプログラムを埋め込まれた人形でしかなかった。生体反応がなかったのも今回の相手が死体であったためであろう。

「作り方に関しては公にされていない。こんな未完全な物、いやそもそも死者を蘇らせるなんて技術を悪用されたら困るからだ」

「しかし、もう悪用されてしまった」

 私の言葉に課長は何故か、うっすらと笑みを浮かべて頷く。

「どこから情報が漏れたかは分からんが、この人形を作った者こそが真の犯人ということだ」

 まだ裏で操っている人物がいるのか。それを聞くだけでも少し疲れが出てくる。しかし、相手はただ者ではなさそうだ。私は心の奥底で、どのような人物なのか、自分がその人間を逮捕できるか試してみたくなる気持ちがあった。

「当面はその人形を操っていた人物を追う必要がありそうだな。全員、捜査にあたるぞ」

 係長の言葉に一係が仕事に戻ろうとした時だ。

 端末に連絡が入る。

『十三区で不審死体を発見。治安維持課は直ちに急行せよ』

「また新しい事件か。秋月、小梅、弓月の三人で向ってくれ」

 私達はパトカーに外装ホロを被せた乗用車に乗り込み、現場に向かう。

「まったく、今度は何だってんだ」

 面倒そうに呟くアレンの気持ちは痛いほど分かる。

 この時はまだ誰も知る事はなかった。これが新たなる事件、新しい事件の始まりだという事を。


 十三区に着き、早速現場であるマンションの一室に来た。

 いつものように現場に入らせないためのホログラムで出来たテープをくぐり、先に来ていた一般刑事達に挨拶する。

 警察内部は分裂している。私達治警は特殊な事件の場合に要請される。だが、それでは人員が足りなくなるのは必然。基本的には“一般刑事課”に所属する人間が事件を受け持っている。

「かなり酷い状況です」

 刑事の一人が青ざめた顔で言うので、ただ事ではないようだ。

 マンションは普通だ。入ってすぐの廊下を歩いていくとリビングになっている。

 そして、そこが現場だった。

 そこにもう一人、今回駆けつけた一般刑事課一係の係長と思しき人物がいた。

「一般刑事課、一係係長の鵜川イスケです」

 五〇手前ぐらいの男性だった。私達は

お互いに挨拶を済まし、現場を見る。

「何だ、これ――」

 アレンが驚きの声をあげる。

 鵜川の横に、顔面をぐちゃぐちゃに潰されている全裸の女性の遺体があった。

 小梅は口元を抑え、遺体に背を向ける。

「アレン、小梅に付き添ってやって」

 私の言葉に分かった、と彼も気分が悪そうに答え、外に出た。

 その遺体を眺めるように私はしゃがむ。

 あまり動じない私に鵜川が感心しているかのような言葉をかける。

「平気なのですか」

 私だって見たくて見ている訳ではないが、仕事上、これらの遺体はよく見てきた。それでも、これはかなり酷いが。

 警察学校時代、選択授業で『心理耐性強化訓練』という名前の授業を受けた。内容はスクリーンに映し出される、昔の凄惨な事件、画像、書籍などを見せられるというもので、大半の受講者は、途中で投げ出した。私を含む数人だけが、その授業を最後まで受け続けたのを、アレンに恐ろしがられた思い出がある。

 仕事上、嫌でも慣れてしまうと答えると、彼は複雑な表情で、嫌なものだと言った。

「害者は織部アマネ。四〇歳。女性です。織部クリニックという美容整形会社の社長です」

 私は彼の読み上げる害者の情報に耳を傾けながら、彼女の体に他に外傷がないかなどを探す。

「なるほど、結構な有名人ね」

 次に遺体から部屋の中を見回す。

「社長にしては、随分と部屋が質素だと思いませんか」

 私の問いに彼は、端末のホロ投影された資料ページをめくる。

「ここは彼女の自宅ではなく、借りているそうです。他にも、借りているマンションの部屋は幾つかあるそうで」

 何故、そんなに幾つも部屋を借りているのか。私が疑問に思った事を訊くと、刑事が少し言い難そうにしているので、私は歩み寄る。

 察したのか、鵜川は私の近くで小声で話す。

「なんでも、害者は結構な男好きで、夫に内緒で様々な男と関係を持っていたそうです。遺体を発見したのも、今日ここで会う約束をしていた男です」

 刑事が小さく指を指す方を見ると、事情を訊かれている最中の若い男性の姿があった。

「すみません、私もお話を伺いたいのですが」

 警察手帳を端末から表示させて見せると、男性は話に応じてくれた。

「あなたは彼女が結婚していることをご存知でしたか」

「はい。僕以外にも何人か愛人がいることも」

 男性のぎこちない答え方がしばらく続く。まずは、出会いのきっかけを問う。

「三ヶ月前に店で飲んでいたら、彼女に声をかけられたんです。とても、綺麗でして、そのまま家に着いていきました」

 他にも幾つか質問をする。

「では、最後の質問です。彼女に一度でも殺意を抱いた事は」

 この問いに彼は今までとは違う、はっきりとした声で答える。

「そんな事ありませんよ。確かにあの人は色々な男と関係を持っていましたが、僕はそれでも彼女に惚れていました。――すみません、取り乱しました」

 私も酷い質問をした事を謝り、再び現場に戻る。

「他に何か手がかりのようなものは」

「我々にわかるのはその程度でして」

 私は現場を邪魔にならないように歩き回る。

 そして、遺体のそばにある壁をほとんど埋めるように貼られた大きなポスターを見る。

 被害者である織部アマネの会社の広告で、彼女自身がモデルとして映っている。

 確かに四〇には見えない、などと考えながらポスターの隅を見る。

 すると、何か色が着いている。

「このポスター、剥がしてみました」

 いいえ、という刑事の返事。

 その色が着いた部分から、私はポスターを剥がしてみた。刑事は現場を荒らさないようにと注意をしようとしたが、ポスターが無くなり、露わになったその壁を見て言葉を失った。

「なるほどね」

 壁に大きく紫色の塗料で書かれていたのは“Luxuria”という文字。

「この被害者にピッタリの言葉ね」

 私の言葉に鵜川がその意味を問うかのような目で見てくる。

「“七つの大罪”ってご存知ですか」

 私の言葉に彼は、首を傾げる。無理もない。そんな事は学校で教えられる訳でもないからだ。

「人間の持つ七つの罪というのがあるんです。傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲という」

 そこで言葉を区切り、壁に書かれた文字に向きって述べる。

「これはその罪をそれぞれ、ラテン語にしたもので。その仲の色欲です」

 整形などで美貌を保ち、男を何人も誘惑する彼女の罪としてはピッタリだろうと私は思った。

 私の言葉に刑事は驚きと感心の混じった返事をする。

 外にいる、二人の元に行く。

「アレン、小梅、本庁に戻るわよ」

 胸の奥に何か引っかかるものがあるが、

 私は現場を他の刑事達に任せ、二人を連れて本庁に戻る。


 私達は、早速残りの一係メンバーにも現場の写真、状況を説明する。

「色欲か。確かに被害女性に適した言葉かもしれませんね」

 柳さんの言葉に係長も頷く。

「まずは害者と関係のあった男を全て探る必要がありそうだな」

「明日から始めたいと思います」

 私の提案に係長は頷く。

「そういえば、こちらも少し進展があってな。あの人形の写真をバーのマスターと薬物を販売していた男に見せたところ、DDという人物ではないそうだ。二人は犯人の顔を見ているということで、似顔絵をプログラムに作成させている」

 違法ドラッグ事件の犯人も見つかっていないまま、次の事件が起こった。

 一係だけでは厳しい状況だ。



 翌日。害者の端末に入っていた連絡先リストから、愛人と思しき男性を訪ねていく。三人で手分けしてもいいのだが、小梅を一人にするのは良くないという思いから、アレンと組むように言った。

 私は一人でリストに乗っていた男性の家を訪ねる。

 一人目は普通のサラリーマンだった。

「彼女が亡くなったのは今朝のニュースで観ました。まさか彼女がこんなことに」「お気の毒さまです。そこで、犯人逮捕のため協力していただきたいのですが」

「私でできることなら」

 まず、昨日の男性と同じ質問を二つ目までする。

そして、最後のあの質問をすると、昨日の男性とは真逆で冷静に否定した。

次は昨日の男性と同じく若い男だった。

私は次の、その次の男性にも同じ質問をしていく。

 そして、今日の分が終わった所で本庁に戻ってきた。

「まったく、何がお気の毒なんだか」

 疲れて愚痴をこぼす私に蘇芳さんが笑顔で寄ってくる。

「大変そうだね。何か分かったの」

「いいえ、とりあえず、今日話を聞けた分では犯人と思われるような人物はいませんでした」

「よく分かるね」

 彼らの部屋を捜索させてもらったが、凶器らしき物なども見つからず、近隣住民に聞き込みをしても特に変わった人物がいなかった。

 何よりも彼らは、答え方はそれぞれ違うにせよ、彼女に本気で惚れていたのが分かる。

「刑事の勘ってやつかな」

 蘇芳さんの言葉に私は、そうかもしれませんと苦笑して返す。


 また次の日も同じように聞き込みに行こうと思った矢先だ。

「秋月、また事件だそうだ。今度は一四区で」

 その場にいたのは、私と係長だけであった。早急に二人で現場に向う。

 十四区のレストランが現場だ。また前の時と同じく鵜川達、一般刑事課が担当だった。

 今回はどのような遺体かという私の質問に、前回と同様。惨い遺体だと言い、第一発見者がセラピー送りになったと付け足した。

 今回の害者は男性。

 春日ギンジ。このレストランのシェフをしていた人物だ。

 現場は発見当時のままだ。腹部に穴が空いており、胃が近くのテーブルに置かれていた。

 胃の中には彼が仕込みをしていたであろう、料理の具材が詰め込まれている。

 係長はその現場を見て、異常だとひと言で思いの全てを言い放つ。

私は第一発見者が誰かを聞く。

「この店のウエートレスです。この光景を目撃してパニックを起こしている所にもう一人この店に勤めているウエートレスが出勤してきて、警察に連絡したそうです」

 鵜川はそこまで話すと、また付け加えたように私に言った。

「それと、ありましたよ。例の文字が」

 調理場に案内された私は壁を見た。

“gula”。“暴食”を意味するその単語が黄色い塗料で大きく書かれていた。

 一昨日の現場での私の胸の奥の何かが、少しすっきりとした気がする。

 害者についての詳細な情報を求める。

「被害者の春日ギンジはこのレストランでシェフを勤めており、海外からも高い人気を誇っています。ただ、この店の料理、実はカロリーや栄養表示が実際と異なっていることを疑われたことがあるんです。つい、二週間前に」

 恐らくこの男の罪状はそれだろう。偽りのカロリー表示をした料理を摂らせることで客の体重を増加させた。

 それにより、逆に自分の胃の中に自分で作ろうとした料理の材料を詰め込まれた。

「“七つの大罪”というやつですね」

 鵜川が私に訊ねた。

「そうです。人間が持つ七つの罪というもの。正確には罪に導くものといった考えで生まれたものです」

 犯人の目的はなんだろうか。

 私は自分の頭の中にある考えをまとめるべく、本庁に戻って治安維持課全員に招集をかけてほしいと局長に頼んだ。



 本庁に戻る最中、係長に頼み、私は家に寄った。私の推測を説明するために必要な物を取りに。

「今回招集をかけたのは、一係が担当している事件についてだ。一係の秋月捜査官から全員に話があるということで集まってもらった」

 和泉局長が会議室に治安維持課の一係から三係までを集めた理由を話したところで、私が前に出る。

「一係の秋月リゼです。今回は貴重な時間を少しお借りして、私個人の事件の推測を話したいと思います」

 スクリーンに一件目と二件目の事件の写真が映し出される。

 まだ現場を見た事の無い二係、三係からは驚きの声が聞こえる。

 事件の概要を説明したところで、例の“七つの大罪”について話した。

 そして、私は家から持ってきた物を取り出す。

「今回の事件、犯人はこの本に書かれている殺人事件を実行しているという考えに私は至りました」

 それは、キルアから借りている例の本、『彩りは彼方へ』だ。

 この本に書かれている、“七つの大罪事件”について説明する。

「殺害方法は本と異なっていますが、現場に残されているメッセージ、ターゲットとなる人物はそれぞれ罪状に有名人という点から推測しました」

 私はそこで話を終える。すると、二係の男性捜査官が手を上げて発言した。

「そこまで、分かったところで次はどう動こうとお考えですか」

 本の中でも“色欲”、“暴食”の順に殺されている。今回の事件と同じ。よって、次の罪に該当するような人物を何人か予想立て、護衛にあたる事が犯人逮捕に繋がる可能性が高いと私は返した。

 私は本を開いて次に標的となるであろう罪状を述べる。

「“avaritia”。“強欲”です」


 和泉局長は一係と二係に今回の事件解決の協力態勢を取るように言い渡した。三係は補助にあたる。

 これ以上の犠牲者を出してはならない。本の中で被害者は全員殺されてしまった。今回は、この本という予備知識のようなものがあったから、犯人がどう動くのか推測できたのだ。

「やっぱり、お前は凄いな」

 アレンがデスクで、ここ最近、あるいは以前に問題を起こしている有名な人物をテミスシステムに検索をかけて探しながら言う。

 私が、何が凄いのか問うと、他の捜査官ならそのような本があることすら分からなかっただろうと言う。

「私はたまたま読んでいただけよ」

 犯人が思う“強欲”にふさわしい人物を探しながら答える。

 一係、二係でリストをつくり、該当した人物は四人。

 一係の六人、二係の六人で一二人。三人一組の班を四つ作る。その際、私達の班は小梅から蘇芳さんへと変更になった。

 私の班は、伊集院シロウという高級ブランド会社を経営する社長に事情を話に行く事にした。

 恐ろしい金の亡者だとネットの裏掲示板などには書かれており、そんなネットの情報を鵜呑みにした訳ではないが、彼の会社の影響で何社もの会社が潰されている。

「あの、秋月先輩」

 伊集院の会社に向おうとデスクを立った私に話しかけてきたのは小梅だった。

 私は何かあったのかと問う。

「すみません、捜査から外れて――最初から全然仕事ができていなくて」

 始めの織部アマネの遺体を目にして、逃げたことをずっと悔やんでいた。

 彼女の肩に手を置いた。

「気にすることじゃない。こんな異常殺人事件を見て、平気でいろなんて無茶は言わないわ。あなたにはあなたの仕事があるのよ」

 これで彼女の気が少しでも晴れればいいと思って言った。

「ありがとうございます。先輩みたいになれるよう頑張ります」

 彼女は一係の部屋を出て走っていった。

「何だか複雑な気分ね」

 私はそう呟いて、待たせているアレン達の元に急いだ。


 高級ブランドを取り扱う、伊集院グループ。社長室に着いた私は,細身で自社のロゴが袖に刺繍されたスーツを着ている彼に事件の事を話した。

「昨日、ニュースで観ましたよ。殺された織部アマネ。彼女とは何度かお会いしたので驚きました」

「私達に護衛をさせてください。犯人が次に狙っているのはあなたかもしれないのです」

 私の言葉に彼は表情を険しくする。

「先程の話を聞いたところ、あなた達は私が裏で不正な金の取引をしていると言いたいようでしたが、それはまったくのでたらめです。そのような噂は流されましたが、私は、裏の取引なんてものはしておりませんし、犯人に狙われる理由はないと思いますが」

 その言葉に返したのは蘇芳さんであった。

「その事に関しては謝罪します。ですが、犯人が何を思って二人もの人物を殺害したのか、その意図は掴めておりません。次の標的は伊集院さん以外かもしれません。しかし、犯人の意図が掴めない以上、私達はできるかぎり動く事しかできないのです」

 その言葉の後、少しの間をおいて、伊集院が護衛を頼むという返答をした。


「金のためなら、犠牲も厭(いと)わないか」

 アレンの誰に言うでもなく呟く。

「彼が裏で取引をしていたかは分からないけど、事実だとすれば、皮肉ね。私達は善良な市民を守り、治安を維持するためにいるのに」

 蘇芳さんが、少しくたびれた表情で答える。

 私達が護衛として、彼の豪邸の駐車場で監視を始めておよそ六時間。深夜一時頃だ。

 怪しい人物どころか、人の出入りが全くない。

「本人ももう眠っているかもね。使用人もほとんど帰っているし」

 私はハンドルに手を置いて退屈そうにしているアレンに仮眠するように言った。

「お前は休まなくていいのか。昨日の二件目の事件から動きっぱなしだろう」

 しばらくしてから交代してくれればそれでいいと言うと、アレンはシートを少し傾け、眠りにつこうとする。

 それから一〇分程経った時だ。

 私の端末に緊急通信が入る。かけてきたのは係長だった。

「秋月、三件目の被害者だ。十七区の川原に来てくれ」

 焦りを感じたその声に私はアレンを起こし、席を変わってもらう。すぐに車を走らせて、一七区に向かった。

 現場にはすでに多数の刑事や鑑識が集まっていた。橋のすぐ下だ。

 立っている係長に呼びかけると、現場に行くように言われた。彼女の表情は悔やんでいた。

「秋月さん。どうぞ、現場はまだ弄ってありません」

 一般刑事課の鵜川が現場を覆うホログラムで出来たテントに私を招き入れる。

 遺体はまた酷いものだった。

 死因はおそらく溺死。しかし、その後で顔を切りつけられた後が無数にあり、手首と足首が切り落とされていた。

 害者の情報を求めると、彼はいつものように端末に表示された資料のページをめくりながら、読み上げる。

「久我(くが)サトシ。四〇歳。見た事ありませんか。テレビドラマなんかで有名な俳優です」

 テレビなどもう何年も観ていない。

 鵜川はテントから出るように言う。

 例の文字です、と短く言い放った。

 直ぐ側の橋に緑色の塗料で例のメッセージが残されていた。

“invidia”。“嫉妬”だ。

 その文字を見た彼は、その文字の理由となるような、害者の情報を話し始める。

「害者はドラマだけでなく舞台にも出ていました。そこで、自分よりも優れた共演者や若手の俳優に、嫌がらせや舞台に細工をしてケガをさせたりしていたそうです。舞台関係者は彼の行動を知っていて尚、世間には公表しなかった。彼もそれなりのキャリアがあったからです」

 刑事は溜め息をついてテントに戻った。私はその場に膝から崩れ落ち、“嫉妬”を意味するその単語を眺めることしかできなかった。



 翌日、連続殺人事件がまた起きたとニュースで流れていた。

 それを警視庁の休憩室で眺める。正確には頭には何も入ってきていない。ぼーっと眺めているだけだ。

 他の捜査官は私の推測が外れたことに関して何も咎めはしなかった。誰も何も言ってくれなかった。

「観てないなら消すぞ」

 私はその声にようやく意識を取り戻す。アレンが何も言わずに目の前に座る。体も顔も横に向けたまま。

「ひどい顔してるな」

 私はその言葉に、うるさいと返しながら、隠すように机に突っ伏した。

「もう一度、やり直しだな」

 その言葉は責めるようでもなく、慰めるものでもなかった。私は体を起こして机に両手を置く。

「私は、自分が読んだ本の事件を実行する犯人のことを全て分かった気でいた。だから、次の行動もこの本の通りだと思い上がっていた」

 私の言葉に答える事なく、彼は黙って聞いていた。

「まだ何かあるのよ。犯人は何を目的にこの殺人事件を起こすのか。考えないと」

 アレンは私の目を真っ直ぐにみる。

 落ち着け、と言われた私は、深く呼吸する。

 目を閉じ、昨日の事を反芻する。

 思い出すのは伊集院の言葉。織部アマネと何度か会った。

 私は、ゆっくりと目を開ける。

「伊集院とこれまでの害者の関係を洗う」

 私の言葉に彼は不敵な笑みを見せる。そうこなくては、と意気込んで立ち上がる。早速、テミスシステムにかけて詳細な情報検索を行うと、走っていった。

 その後に私も続く。


 しばらくして、私の班は伊集院の社長室に来ていた。 

「昨日は残念でしたね。犯人は先に別の人物を手にかけたようで」

 彼の皮肉めいた言葉を気にする事なく、自分の失態を恥じていることだけ述べる。

 そこで本題に入った。今日は別の要件で来たと告げる。

「あなたと他の被害者の関係です」

 伊集院の眉が少し動く。

「昨日おっしゃいましたよね、始めの殺人事件の被害者、織部アマネと何度か会った事があると」

 彼は何も言わずに頷く。

 私は立ち上がって端末に二人の情報と伊集院の情報を映し出す。

「警視庁のシステムを舐めないでいただきたい。被害者達とあなたは会った事がある程度の関係ではありません。同じ学校に通っていた友人。事件に関与していると私は睨んでいます。」

 織部アマネだけでない。被害者は全員彼と同じ高校に通っていた。もちろん、被害者同士も同じだ。

「確かに私は彼らとまた推測でしょう」

 私は力強く答える。

「いいえ、これはこの事件に大きく関わっています。話してください、あなた達が高校時代の時の話を」

 はっきりとした物言いに伊集院は椅子を後ろに向け、窓から外を眺める。

 少しの沈黙の後、彼は話し始めた。

「私含め全部で七人のグループだった。あの時、私達はMOGシステムの加護がなくなり、荒れていました。特に私のグループはね。そして、ある一人のクラスメイトに手を出すことで鬱憤を晴らしていました」

 彼のいたグループは日頃からある男子生徒に嫌がらせを行い、自分たちの鬱憤を晴らしていた。それも、高校を卒業するまで。

「私は思いました。最初の織部の事件では、まだただの殺人事件であると。ですが、今回の久我の事件で確信しました。彼が私達に復讐を誓っている。断罪を行っているのだと」

 私はその男の名前を問う。すると、彼はある提案をしてきた。

「私が彼に命を狙われるのは当然のことです。殺人犯を生み出した当然の報い。だから彼が捕まった時は、私も逮捕してほしい」

 二〇年近く前の愚かな自分を振り返り、改心したとでも言うのだろうか。

 その願いに言葉を返すことなく、彼らが生み出したという、その殺人犯と思しき男の名前を聞き出す。

 重い口から発せられた名前を聞いた私は、去り際に一言だけ言い放った。

「伊集院さん、あなたは確かに、強欲という罪がお似合いです」

 本庁に戻った私は早速犯人の捜索にあたるように全担当捜査官に伝えた。



 警察は気付いたのだろうか。

俺は何も本の通りに殺しをやっている訳ではない。

これは断罪だ。奴らは俺の人生を狂わせた。全ては復讐のためだ。

 男は隣に置いてある死体を見下ろしながら考えていた。


 昨日、伊集院から教えてもらった名前の男を追う。

 諏訪(すわ)タツミ。現在は一二区のマンションで一人暮らしをしている。運送会社に勤務しているが、彼の職場に電話してみたところ、ここ最近、来ていないという。

「やっぱり、こいつが犯人なのか」

 諏訪の住むマンションに向かっている最中の車内でアレンが疑問に思ったことを述べる。

 今回、蘇芳さんは本庁で情報収集にあたってもらっているため、二人だけだ。

「可能性は高い。これ以上はくい止めないと」

 マンションに着いた私達は、彼の部屋のインターホンを押す。

 しかし、反応がない。管理人に借りてきた鍵を使い、慎重に扉を開ける。

 中は真っ暗だ。短い廊下のはずだが、とても長く感じる。アレンが左右にある部屋の扉をゆっくりと開く。まだ犯人と断定はできないので、ハンターは使えない。スタンバトンを構えて部屋を探る。私は、真っ直ぐに歩いていき、リビングの電灯を点ける。

 そこには、至る所に犯行の計画と思しきものが書かれた紙、ナイフなどの刃物が散乱していた。

「どうやら、ビンゴみたいね」

 私は鑑識課に連絡を入れる。

「川内課長、一係の秋月です。一二区のマンションを調べてほしいので、至急来てもらえますか」

『分かった。何人かそっちに向わせよう――ちょっと待ってくれ』

 川内が通信の向こうで別の電話を受け取ったようだ。

『秋月、残念な知らせだ。新しい被害者が出た。お前の所にも連絡がくるだろう』

 通信が切れると同時に事件の発生を教える通知が入る。

 九区のボクシングジム。

 私はアレンに諏訪の部屋を抑えてもらい、現場へと向った。


 現場には鵜川がいた。

「いつも早いですね」

 私の言葉に彼は、仕事ですからと疲れた笑みを浮かべる。

 そして、遺体の側にくると真剣な表情に戻した。

 場所はボクシングのジムだった。経営者は能美(のうみ)マコト、元は選手として活躍していた。激昂して相手選手に後遺症が残る程の試合をしたことがある。

 MOGシステムがあった頃は、危険なスポーツは全て禁止されていた。

 もちろん、彼が選手だったのはそれが無くなってからの事だ。

 そんな彼が無惨にもリングの上で、両腕を潰され、体にはいくつもの打撲痕がみられる姿を晒している。

 そのすぐ側に赤い塗料で“ira”とメッセージが残されている。

「“憤怒”か、なるほど。しかし、仮にも元ボクシング選手の彼がこうもあっさり殺されますかね」

 私の疑問に彼が、追加の情報を読み上げる。

「まだ簡易チェックですが、一般の鑑識課が調べた所、体から毒物が検出されたそうです。それも、神経を麻痺させる」

 彼の事務所に飲みかけの飲料があり、そこからも同じ成分が検出されたという。彼は体が動かなくなった状態で、抵抗も出来ずに殺された。

 鵜川も私の考えに頷く。

 そこで、彼に例の諏訪の件について離す。犯人と思しき人物が浮かび上がったことと、その理由も。

 彼は大変感心して、もう事件は解決も同然だと喜んでいた。だが、肝心の諏訪が見つからないことには逮捕のしようがない。アレンに通信を入れる。

「四人目の被害者だったわ。そっちは何か分かった事は無い」

「今、鑑識と部屋の中を漁ったんだが、例の本が見つかった。ただ、リゼの持っていたものと違うんだ。写真を送る」

 彼の言葉に疑問を持ったが、写真を送るというので、通信を切ってそれを待つ。アレンから送られてきた写真を見るとそこには、確かに本が映っている。だが、それは私の読んだ物とは違った。

 アレンに諏訪の家にあったその本を持ってくるように再度通信を入れて頼んだ。


 夜、一台の車がある豪邸の近くに停まった。周りにある塀の一部分に前々からここに訪れ、少ない作業時間を費やして穴を開けていた。それをくぐり、今度はこの屋敷の使用人と同じ格好をする。この数週間の間、ここに勤める人間達の格好をよく観察し、同じものをデザイナーに頼んで仕立ててもらった。

 懐にはナイフを一本だけ忍ばせ、使用人用の勝手口から中に入る。この豪邸は以前から建てられていた物を軽く改装した程度だということも把握している。そのため、セキュリティに関しては甘い。

 まだ、本来の使用人の勤務時間のはずだが、誰の姿も見当たらない。

 好都合だ。そう思い、急ぎ足で目的の場所に急ぐ。

 この豪邸の主の寝室。扉の鍵は用意しておいたピッキングツールで開く。この部屋は主しか入れないようにするため、鍵は一つしかない。それにより、誰かが入るであろうという心配をしなくなった主は、鍵にもセキュリティをかけていないという甘さの連続により、侵入を許してしまったということだ。

 音を立てないように鍵を開け、ゆっくりと扉を開ける。

 広い寝室だ。天井も高い。奥にベッドが一つあり、その他には、壁際に机が置いてある程度だ。

 ベッドの毛布は人が入っているのを示すかのように膨らんでいる。

 側まで歩き、そっと懐からナイフを取り出す。一切の迷いなく、そのナイフを思いっきり突き立てようと高らかに上げた瞬間だった。

 突然、毛布が飛んできた。

 それと、同時に持っていたナイフが弾かれ、腹部に強い衝撃が走る。

 腕を後ろに回され、顔を床に叩き付けられた。

 必死に抵抗しながら、その人物を男が見上げる。

「おとなしくしろ」

 黒いスーツに身を包んだ女性が男に叫んだ。照明が点き、他にも同じような格好をした男女が入ってくる。

 ベッドに潜っていたのは、リゼだ。入ってきたアレンが、

「諏訪タツミ、連続殺人の容疑で逮捕だ」

 手錠をかけ、奴を立たせる。

「おいおい、まだまだ終わってねえのによお、こんな若い女に捕まるなんて」

 捕まったというのに、うっすらと笑みを浮かべて言う諏訪。

「おあいにく様、あんたの部屋を調べて見つけたのよ。随分とやってくれたわね」

 リゼは諏訪に例の本を見せて続ける。

「あんたはこの本の通りに殺しを行っていた。私の読みは間違っていなかった」

「あんたも読んでたのか。でも、その割には遅かったな」

 諏訪の言葉に彼女は溜め息をつく。

「そうね。なぜなら、私が読んでいたのは和訳されたもの。あんたのは海外の原作そのものだったからね」

 諏訪の読んでいた『彩りは彼方へ』は、リゼが借りて読んだ和訳本とは違い、原作となる海外のものだった。そして、和訳版との決定的な違いは、殺す順番であった。和訳されたものは原作と順番が改変されていたのだ。そのため、今回五人目の被害者になるはずだったのが、強欲となる。

「普通ならそんなこと、あり得ない。物語の辻褄が合わなくなるから。でも、この本は違う。殺された人物の罪を入れ替えても成り立つようになっている」

 和訳をした者が何を思ってこのような順番にしたのかは分からないが、そのせいで随分と遠回しさせられた気分だ。

 起こされた諏訪は笑みを浮かべる。そして、一言

「The color of the distance」

 と私に言った。

「そいつを連れて行ってくれ」

 係長に指示に、アレンと蘇芳さんがパトカーに連行しようとする。

 二人が諏訪を連れて扉に差し掛かった時だ。

「久しぶりだな」

 今回の被害者になるところだった伊集院が諏訪の前に姿を表したのだ。

「後、もう少しでお前を殺して、全財産を奪ってやる所だったよ。」

 諏訪が怒り交じりの声で言った。

 だが、金よりも伊集院を殺すことが最優先だったと奴は述べた。

 伊集院は黙ってその言葉を受け止め、そして、その場で土下座した。

「お前は悪くない。全ては若くして愚かな私達が悪かったのだ。だから、お前は悪くないのだ」

 そう涙ながらに謝る。

 しかし、諏訪は今更謝ったことに関して厳しく咎め、伊集院の頭を蹴る。

 蘇芳がみぞおちに一発打ち込んで気絶させ、落ち着いた所で連れて行った。

 その様子を見ていた私達の元に立ち上がった伊集院が歩いてきた。

「治警の皆さん、本当にありがとうございました。諏訪をあんな風にしてしまったのは、私達の責任です。どうか、お願いします」

 リゼの前に手を出してきた。

「顔を上げてください」

 伊集院は私の顔を見る。

「あなたにこの前言った言葉、覚えていますか」

 彼女が去り際に彼に対して、強欲という言葉が似合うと言ったこと。

「あなた達は諏訪という一人の人間を貶め、彼の人生をめちゃくちゃにした。それを謝罪により、何も失わずに罪を償う権利をもらおうとまでした。そんな考えを持ったあなたは、そのグループの中で最も強欲にふさわしいと思ったのです」

 自らの過ちを謝罪し、過去の許しを請おうなどという。

「いや、あなたは本当に罪を感じているのかもしれない。だとすれば、他の仲間よりも罪を償えるかもしれない。だからといって許される訳ではない。その罪の意識は死ぬまで持つべきものだと私は思います」

 リゼは彼を避けて歩き、部屋から出て行った。それに続くように他の一係の捜査官もその場を後にする。


「事件は解決したようですね。本当にお疲れまでした」

 鵜川が車の近くで待っていた。

「お疲れ様です。私よりも鵜川さんの方がお疲れでしょう。いつも現場に一番に到着し、誰よりも調査が早かった」

 私は煙草に火を点けて言った。

「それが、私達刑事の努めです。どんな人間であろうと殺されるというのは可哀想なものです。それは犯人も同じこと」

 犯人が可哀想。私の言葉に彼は月を見るかのように上を向いて話す。

「誰にも自分の思いを告げることができず、そのような犯行に至ってしまった犯人もまた被害者の一人です。だから、我々が一刻も早く逮捕することで、その犯人の思いを聞き出してやることも救いなのではないかと思うのです」

 彼のような刑事は初めて見た。恐らく、私もこのような考えを求められているのだろう。だが、私は彼のようになれない。それでも、彼の言葉に感心することぐらいは出来る。

「では、失礼します」

 敬礼する鵜川に、私は今まで一番力のこもった敬礼を返す。





 諏訪が捕まったニュースは翌日、大々的に報じられた。最近起こった事件の中でも、最も猟奇的な連続殺人事件として当然だろう。

 それと同時に、伊集院グループが裏で行っていた悪事の全てを公表して、逮捕されたニュースも一緒に報道されていた。


 それをいつものように休憩室で眺めている。

「観てるのか」

 いつものようにコーヒーを渡され、ミルクの有無をアレンに確かめる。

「とりあえずは、お疲れさん」

 コーヒーを啜るアレンに例を述べた私は、紙カップの中に映る自分の顔を見つめる。

「あの本だと、全員助からずに犯人が捕まったんだろう。なら、俺達は三人も救った事になる。素直に喜ぶべきだろう」

 黙っている私に気をかけたのか、そう笑いかける彼の顔を見て、少し疲れが取れた気がした。

「そういえば。最後にあいつが言ってたの、どういう意味なんだ」

 続けて飛んできた彼の質問は、諏訪が連行される際に述べた言葉のことだろうと思った。

「“The color of the distance”。『彩りは彼方へ』という意味よ。あの本のタイトル」

 和訳された方の犯人は最後に捕まった時に日本語で言っていたが、奴が読んでいたのは英語で書かれていたため、それに合わせて言ったのだろう。本と全く同じ終わりにはならなかったが。

 なるほどな、と感心しているアレンと、コーヒーを啜る私の端末に同時に通信が入る。

『二三区で立てこもり事件発生。治警は直ちに急行してください』

 私は残っていたコーヒーを飲み干し、カップをゴミ箱に投入れた。

「おい、昨日の今日なのに無理するなよ」

 その言葉に私は、休憩室の扉を開けて言う。

「大丈夫よ」

 二人は休憩室から車両の止めてある駐車場へと向かう。


 その日の夜、風呂上がりの私の端末に通信が入る。

『リゼ、元気にしている』

「キルアじゃない。私は相変わらずよ」

 彼女から電話があるのは珍しい。

『今、アメリカにいるんだけど、そっちで連続殺人と聞いてね。リゼがどうしているかずっと連絡を取りたかったのだけど、忙しくて中々できなかったわ』

「ありがとう。もう事件は解決したわ」

 そして、あの本の話をする。

『今回の事件って、あの本に似ていたわよね』

 彼女の言う本とは、私が借りたものだろう。

『なるほど、じゃあ最後にはあの台詞も言ったの』

「The color of the distance、英語で言ったわ」

 キルアは電話越しで笑う。今度、ちゃんとした原作も読まなくてはと。

 あの本のタイトルの意味は何なのかという、ふと疑問に思ったことを言うと、彼女は面白そうに話す。

『“彩りは彼方へ”。犯人は殺害現場に様々な色を残していった。そして、最後捕まった彼は、もう何も彩りがない牢屋に入れられるだけ。だから――』

 彩りは彼方へ、と私達は声を揃えて言う。

 後日、彼女が帰ってきた際にあの本を返す約束をして、私は通話を終えた。

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