第1話:出会い

 どこまでもつづく、真っ白な雪景色。肌を切り裂くような冷たい空気。吐息はふわりと白く残り、踏みしめる靴の底からも冷気が伝わってくる。

 あれから、三ヶ月が経った。

 空はまだどんよりと厚い雲に覆われているものの、吹きすさんでいた吹雪はようやくやんだ。

 私はこの三ヶ月、母さんの研究所で父さんを迎えに行った母さんをジッと待っていた。誰もいない研究所には、硬い扉と、食べ物。水、電気もあった。寒くもなかったし、時間を潰すために持ち込んだカートゥーンのDVDもあった。それでも、たった一人で過ごしているのは、怖いし寂しいし、胸が壊れてしまいそうなほどだった。

 あの日の朝、リビングへ降りた私は、父さんと母さんが食い入るようにして見ていたテレビ報道で、寒さと雪が、ロシアに落ちた大きな隕石によるものだと知っていた。

 気象衛星の画像をコマ送りで表示しながら気象学者のヒゲのおじさんが、この寒冷化は二ヶ月は続くだろう、と警告をしていたのを覚えている。でも、それ以上は続かない。ほどなくして大気は元に戻るし、恐竜が絶滅したような道を人類が歩む可能性は極めて低い、なんてことも言っていた。

 実際は三ヶ月も掛かったけど、とにかく吹雪はやんだ。きっとそのうち、この厚い雲の切れ間から、カリフォルニアのあの暖かい太陽が差し込んでくるだろう。

 でも、私はそれを待ってはいられなかった。

 微生物学者として細菌の研究をしていた父さんは、隕石落下から二週間ほどして、勤めていた研究所に呼び出されて自宅を出て行った。それっきり、父さんはときおり電話はくれるものの、家に帰ってくることはなかった。

 そしてそれからまた二週間した頃、母さんが慌てた様子で私を急かし、荷物をまとめて家を出て、車でやってきたのがここ、母さんが務める研究所だった。

最初は電気もついていなくて少し怖いところだったけど、母さんが何かのパネルを操作すると電気やなんかが一斉に使えるようになった。そして、それを見届けた母さんは、父さんを迎えに行く、と言い残して、車で吹雪の中へと飛び出していった。

 そして、それっきり、母さんはここへは戻って来ることはなかった。

 何かがあったんだろう、っていうことくらい、私には分かる。その何かが何なのかは分かりようもないけど…でも、この研究所でずっとうずくまっているなんて、私にはできなかった。たった一人でこんな場所で生きていたって、寂しいだけ。それなら、もし危険でも、一人でだって父さんや母さんを探しに行く。その方が、ずっとずっとマシだった。もう、ひとりきりでいるのは、イヤだった。

 私は、母さんが残してくれた手帳を開いて、その中に挟んであった写真を見つめた。

 隕石が降ってくる二か月前に、私の十二歳のバースデーをお祝いしてくれたときの写真だ。

 銀髪でメガネをかけた華奢な体の父さんと、ブロンドの短い髪をした母さん、その間に、母さんと同じブロンドの髪の私が、楽しそうな顔をして笑っている。写真の中の父さんと母さんを指先でそっと撫でて、それからページを繰る。そこに書き記してあるのが、父さんの研究所の住所だ。

 私は今、母さんが勤めていたバークレーのカリフォルニア州立大学だった場所にいる。私が隠れていたシェルターは、大学構内にあった。父さんの研究所はベイブリッジを渡った向こう、カリフォルニア州サンフランシスコの郊外にある。

 こんなことになっていなければ、車で一時間も掛からないくらいだ。でも、そもそも私は運転なんて出来ないし、できたとしても、辺りに車なんてものはない。建物も何もかもがうもれてしまっている。

 歩いていくしかないのはわかっていた。そのために、たくさんの食料とお水、それに、発炎筒や固形燃料もリュックサックに詰め込んだ。研究所には銃の類もたくさんあったけど、私にはほとんどが重くって、結局、私でも扱えそうな小さな拳銃を一つ、ホルスターを無理やり短くして体の前に提げておくだけにした。 本当言うと、もしものときが来ても使い方なんて分からないけど…とにかく、スライドを引いて、安全装置を解除して引き金を引けばいいんだ。こんな子どもでも、銃を持っているっていうのが相手に分かれば、そう簡単に変なことをされたりなんてしないだろう。

 でも、そんな危険も、そうあるようには思えない。だって、見渡す限りの雪は、大学の大きな講堂すらすっぽり覆い隠すほどに降り積もっている。このあたりはすぐ近くにあったユニバーシティ・ホールの最上階と、私が隠れていた大学のシェルターのあった建物だけが僅かに覗いているくらい。人の姿もない。ここがカリフォルニアだ、と言っても、誰が信じるだろうか?私だったら、絶対に信じない…信じないけど、これは、現実だ。

 私は大きく深呼吸をした。

 喉を通って、冷たい空気が胸いっぱいに入ってくる。その冷たさは、不安と怖さに染まりそうになっていた私の心をスっと凍らせてくれた。

 待ってて、父さん、母さん…!

 私は、心の中でそう気持ちを決めて、真っ白な雪原に一歩、足を踏み出した。

 ベイブリッジを渡るためには、西へ向かってハイウェイに沿い、南へ進めば良い。今はまだ景色は見えないけれど、近くになればベイブリッジだって望めるはずだ。そうなったら、道に迷うなんてことはない。

 今はとにかく、西へ向かおう。ハイウェイに出るには、ユニバーシティ・アヴェニューをまっすぐ勧めば良いだけ…ユニバーシティ・ホールが目の前にあって、大学が背中側にあるから…たぶん、このまま真っ直ぐ、だ。

 私は、ただただ真っ白になった世界を歩く。

 いろんなものを詰め込みすぎたリュックサックが肩に食い込み、防水のブーツを履いているけれど、雪の感触は冷たい。柔らかに降り積もった雪は、グッと体重を掛けると一気に膝くらいまでは簡単に沈み込んでしまう。そうならないように、小さな歩幅で足元の雪を慎重に固めながら進む。

 時間は掛かっちゃうけど、こうでもしないと歩けない。

 私は、後ろにあるユニバーシティ・ホールと大学の建物との位置関係をときどき振り返って確認しながら、とにかく前へ前へと進む。確かめておかないと、あたりは見渡す限り、なんの特徴もない雪原だから、一度方法を見失ったら遠回りすることになってしまう。

 大学からハイウェイまでは3ブロックだったはず。あの辺りは高架になっているところがあるから、それなら、雪に覆われていてもきっと目に付く。見えてくればもう迷うことはないはずだ。

 不意に、コウコウ、と何かが聞こえてきた。

 見上げるとそこには、ずいぶんと低いところをカラスが飛んでいる。

「カラスさんも、一人?」

私はそんなことを言ってみるけれど、カラスさんは返事なんてくれない。それでも私は

「ねえ、カラスさん。そこからハイウェイ見えるかな?」

なんて聞く。もちろん、カラスさんは私の質問にコウコウコウ、なんて、てんで的外れな返事をしながら真っ直ぐに飛び去って、霧なのか雲なのか分からないモヤの中へと消えていった。

 その姿を見送ってから、私はハッと気が付いた。カラスさんが生きてる、ってことは…他の動物もきっと大丈夫だよね…猫も、犬も…私がそうだったように、きっと、人間も…!

 胸に力が沸いてくるのを感じる。

 リュックサックは重いし、足も冷たいのは変わらないけど、それでも私は、ズンズンととにかく雪原の中を進んだ。

 この雪だ。きっと、父さんも母さんも、研究所に閉じ込められているに違いない。だから、私が行って、雪を掘ってあげなきゃいけないんだ。そのためにも、早く、一刻も早くにベイブリッジを渡ってサンフランシスコに向かわないと!

 そんなことを考えながら前を見て進んでいると、ふと、前方に大きな雪の山が見えた。10フィートはありそうなその山はこんもりと台形のような形をしている。

もしかすると、あれは何か大きな建物に雪が積もった跡かもしれない。もしそうなら、もしかしたら、あの下ではシェルターにこもっていた私のように、人がいたりするかもしれない…

そう思ったら、私の足は自然とその雪山へと向かっていた。

もう三ヶ月も、誰とも話をしていないし、出てくるのは独り言ばかり。やっぱり、一人ぼっちは寂しいんだ。誰でもいい…私を助けてくれなくったって、一緒に歩いてくれる人なら…ううん、少しお話をするだけだっていい。父さんの研究所まではもっとずっと距離がある。寄り道しながらでも…そうやって生きている人に会えたら、嬉しいって思う。

だからもし、そこに誰かがいる可能性があるのだとしたら、私が砂漠で水を欲しがるのとおんなじように、足を向けてみたくなるのも仕方がなかった。

 ふと、カラスがまた頭上を舞った。

 コウ、コウ、としきりに鳴いている。それはとうとう、まるで一人ぼっちの私に話しかけているようにも思えてしまった。

「カラスさん。あの山の下には、誰かいるかな?」

応えてくれるはずもないのは承知の上で、それでも私はそう聞かずはいられなかった。

 カラスは、私の頭上でくるりと一回りすると、ふわっと羽ばたきをして、雪山の向こうへと後下していく。

 もし鳥みたいに飛べたら…あの雪山まではすぐにでも着くのかな…?あぁ、でも、あんまり早く飛んだら寒くて凍えちゃうかな?それとも、あの羽があったら寒くないのかな?アイダーダウンは暖かいから、もしかしたら本当に寒くないのかも…

 そんなことを考えながら歩いていたら、今度は別の方向からさらにカラスが二羽飛んできて、さっきのカラスが飛んでいったのと同じように雪山の向こうに向かって行くのが見えた。

 もしかして、あっちになにかあるのかな…?

 そう思ったらなんだか胸が躍るような心地になって、脚にはさらに力がみなぎってくる。 さらにズンズンと雪山へと向かった私は、ほどなくしてその麓へとたどり着いた。

 私は雪を踏みしめて、こんもりと盛り上がった雪山を登っていく。一歩、二歩と歩みを進めて行くうちに、コウコウ、とカラス達が何羽も飛び交っているのが見えた。

でも、私はそれを見て、なんだか妙な感じを覚える。

 おかしいな…カラス、って、こんなに大きな鳥だったっけ?そりゃ、スズメなんかよりはずっと大きいけど…でも、あのカラス…まるでアメリカンイーグルみたいなサイズだ。それが、何羽もいて、雪山の向こうで飛び交っている。

そのことに気がついて私は、なんだか少し不安になった。だって、カラス達が飛び交うその様子は、ときどきアニマルプラネットなんかでやってるサバンナでハゲワシが死肉を漁っている様を彷彿とさせたからだ。

 それでも私は、足を止めたり引き返したりはしなかった。だってあの向こうには何かがあるかもしれない…もしかしたら、人がいる形跡があるかもしれないんだ。誰かが餌をあげているなんてことは思わないけど、誰かがキャンプをして遺していった食べ残しとか、そういうことに違いない…

そうは思っても、なんだか少し怖い心地は抜けきらない。だから私は、胸に提げておいたホルスターから拳銃を引き抜いた。厚手の手袋で持つことすらやっとだけど、太くなった指をトリガーリングに突っ込んで胸の前に抱える。両手でバランスが取れなくしまったので、一層慎重に雪山を登っていく。

 そして、私の視線が雪山の頂上に到達し、そこから一歩踏み出すと、その向こうが見えた。

 そこでは雪が真っ赤にそまっていた。

 その中心に、なんだかよくわからない、ピンクと赤と黒の塊が転がっていて、飛び交うカラスを追い払いながらその塊に食らいついている猫がいた。

 猫…そう、あれは、猫だ。

 黒いブチ模様のやつ。べっこう模様のと、ストライプのやつ…どう見たって、あの模様は猫だ。

 だけど…だけど。

 猫って、あんなに大きかった…?あんな姿形をしていたっけ…?あれ、あれって…あんなのはまるで…トラみたいな…!

 その姿に私はギュッと心臓を掴まれて、思わず持っていた拳銃をパサリと雪の上に取り落としてしまった。

 雪の上に落ちただけの微かな音だったけれど、猫たちはハッとして私に向けて顔をあげた。

 やっぱり、顔は猫…でも、でも、あんな大きさ、おかしい…おかしすぎるよ…!

 グルルル、と猫達は、まるで本当にトラのように呻くと、ストライプのやつを先頭にして私に一歩、また一歩と近づいてくる。

 私はその縦長の目と鋭い牙に体を縫い止められて、逃げるどころか身動きすることすら出来なかった。

 ギャウ、とべっこう模様のやつが吠える。その声に身がすくみ、膝から力が抜けて尻餅をついてしまう。

 なんなの、あれ…どうしよう、に、に、に、逃げなきゃ…逃げないと…

 そうは思うけれど、体がうまく動かない。立ち上があがろうとしても、脚に力が入らない。

 私がなんとか逃げようと柔らかな雪に腕を突っ張っている間に、猫たちは姿勢を低くして私を取り囲み、私を中心にぐるぐると円を描くように回り始めた。

 食べられちゃう…このままじゃ、私…食べられちゃう…!

 とてもじゃないけど、猫達は私にじゃれているようには見えない。動かないネズミを狙って…狙いを定めているときとおんなじ動きだ。私は、獲物なんだ…!

 不意に、ストライプの猫が回転するのをやめた。そして、低くしていたその身をさらにググッとかがみ込む。そしてつぎの瞬間、大きな体をグンと縮め、雪を舞い上がらせて私に飛びかかってきた。

―――怖いっ!

 そう思って顔を伏せた目も閉じ、雪の上に体を丸めた瞬間だった。

 ドンッ!と言うお腹に響くくらいの低く大きな音が聞こえ、次いでドサリ、と雪の上に何か重いものが倒れる

 立て続けにドン、ドン、ドンッと言う、爆発音。

 私は、とにかく身を守りたい一心で、その場にうずくまって体を丸め、ただただうずくまっているしかなかった。

 サク、サク、っと雪を踏みしめる音が聞こえて、今度はパン、パンッと乾いた音が二度響いた。

 いったい、何があったの…?今の音は…なに?爆発みたいな…銃声みたいな音だったけど…何があったの?

そう思いながら、私はひたすらにギュッと体を丸める。つぎの瞬間には襲われるかもしれない、って、そんなことを思ったら、怖くて力を緩めることなんて出来なかった。

 だけど、そんな私の耳に聞こえてきたのは

「ダイジョウブ?ケガハナイ?」

と言う音だった。

 音…?今の、音…?違う、今のは言葉だ…

 私はそれに気がついて、ようやく閉じていた目を開いた。

 そこにいたのは短く切ったブロンドに碧眼の、私と同じ、白人の女の人だった。灰色の、ダイビングで使うウェットスーツのような物を着込んでいるその女の人は、小銃のようなものを肩に担いで、私のすぐ目の前に悠然と立っていた。その姿からはまるで、何か立派な彫刻のような勇ましさと凛々しさを感じさせる。

「ねえ、大丈夫?ケガ、してないよね?」

彼女は小さいながら、しっかりと通る声でそうに私にそう声を掛けてくる。同時に、私の体に柔らかな何かが触れて、私は思わずビクッと跳ね上がってしまった。でも、それがしゃがみこんで私の様子を伺ってくれている女の人の手だって気がついて、ほっと胸をなでおろす。

 私は、体を起こして自分の体を確認する。血も出ていないし、痛むところもない。

「大丈夫…だよね?」

私は、それでもまだ自分のことがよく分からずに、女の人にそう尋ねていた。すると彼女はクスッと笑って

「うん、見たところ、ケガはなさそう」

と答えてくれる。

 それから彼女は、ウェットスーツの腰に下げていた大きなポーチのような物から短い円筒形の何かを取り出すと、それを担いでいた小銃の機関部に装填し始める。

あれは、ショットガンのシェルだ。あの小銃みたいなのは、ショットガンなんだな…

 私がそんなどうでも良いことに感心していると、女の人は

「わたし、ロイ」

と自己紹介をしてくれた。それを聞いた私も慌てて

「わ、私はレイチェル。レイチェル・オリビア・ヤング…あの、初めまして」

と挨拶をする。

すると彼女は、なんだか可笑しそうに笑って、弾の装填を終えたその手で、私の腕と体をグイっと引っ張って、私を起き上がらせてくれた。

「レイチェルね。良い名前」

なんて言ってくれた。

 だから、私は「ロイだなんて、男の人みたい」とは言わないことにして、その代わりに

「ありがとう」

とお礼を言う。

「問題ないよ」

ロイは、そう短く応えてくれた。

 ロイの手を借りて再び雪の上に立った私は、体にまみれた雪を払いながら、あたりを見回す。

 私の周りにいたあの大きな猫達は、真っ赤な血を撒き散らして雪の上に潰れていた。

 これを、この人がやったの…?

 そう思って、私は彼女、ロイをもう一度見やる。

 ロイはグレーでゴムのような生地のずいぶん体にピッタリとした服を着ている。やっぱりウェットスーツのような感じだけど、よく見ればあれよりももっと厚くて表面は硬そうだ。それに、胴体には同じグレーをしたポケットのいっぱいついたベストを着込んでいて、その首元からは家の電気ソケットに繋げるときに使うような太めのコードが覗いている。そのコードは、マリンスーツの方に繋がっているようだ。

 彼女の両足にはホルスターに入った拳銃が下がっていて、小銃のようなショットガンを前に抱えるようにして提げている。腰にはショットガンの弾を取り出したポーチ以外にも、大きなクッションを丸めたようなカバンが巻きついていた。

 「あ、あの、ありがとう、助けてくれて」

私は、もう一度ロイに、きちんとお礼を言う。すると彼女はなんだか困ったような表情を浮かべてから

「うん、まぁ、お互い様かね」

なんて言ってから、微かに笑った。その意味が分からず首をかしげた私を尻目に、彼女はポケットから小さな手帳を取り出して、ピラピラとページを繰り、何かを確かめて小さく何度も頷く。

 「もう少し行くと、元はアパートだったちょっと背の高い建物が埋まってると思う。そこならなんとか出入りが出来るかもしれないし、そこへ行ってみよう」

ロイはそう言って、手袋をした手を私に差し出してくれる。

 私は、同じく手袋をした手で彼女の手を握り返した。すると、ロイはまた、微かなに微笑む。

「会えて良かった。話をするのは、久しぶりなんだ」

その言葉に、私はポッと、気持ちに暖かなものが湧き出てくるのを感じた。ロイの言葉は、私にしても同じだった。ずっとずっと一人で寂しくて、だから、こうしてまた誰かにあって、話が出来る、なんてことが、とてつもなく嬉しく思える。

「私も、会えて良かった。ずっとずっと、独り言しか喋ってなかったから」

そう言ったら、ロイはクスっと声を漏らせて、ついにちゃんとした笑顔を見せてくれた。

 ロイにも、きっと嬉しいって思ってもらえただろう。

 そんなことを確信した私は、ロイに手を引かれて、ロイが言った背の高いアパートを探すために、雪原の中を再び歩き始めた。

 あの猫がなんなのかは、まだ分からない。でも、ロイと一緒なら、きっと守ってもらえる。そう私は、不安な中にも安心感を覚えて、足取りがまた軽くなって来るのを感じたほどだった。

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