カリフォルニアの雪(仮題)
Catapira
プロローグ
Prologue
あの日のことは、今でもよく覚えている。
夏のカリフォルニアに、雪が降った日のことだ。
あの朝、私は、感じたことのない寒さに身を凍えさせて目を覚ました。毛布に包まってリビングに降りると、父さんと母さんが神妙な面持ちでテレビの報道を眺めている。
「おはよう、父さん、母さん」
私が声をかけると、二人はハッとして私をみやり「おはよう」を返してくれる。
それから父さんは私の姿を見て、微かに頬を緩めた。
「寒いよ、父さん」
私が言うと、父さんは私を膝に座らせて、後ろからギュッと抱きしめてくれる。
テレビでは、この異常な寒さの原因らしい報道が繰り返し伝えられていた。
『シベリア西部に隕石落下か』
そんな見出しのすぐ下で、レポーターが気象地図を指し示し、何かが広がっていく様を説明している。
「なにかあったの?」
「うん。ロシアに隕石が落ちたらしい。それに吹き上げられた粉塵がジェット気流に乗って、北半球に広がっているんだ」
父さんはそう説明をしてくれる。
気象のことは、つい最近学校でならったばかりだったので、その言葉の意味は朧げながら理解できた。きっと、それで太陽の光が遮られてしまっているんだ。だから、こんなに寒いんだね…
私は、そんなことを思いながら毛布の中でギュッと自分の体を抱きしめる。そういえば、科学のクラスでは恐竜が滅びたのは隕石の落下で気候変動が起きたからだ、という話も聞いた。もしかして…私達にとって良くないことが起こっているの…?
「ねえ父さん。危険なの?」
すると、父さんは肩をすくめて言った。
「南半球には影響が出ない見込みだ。この辺りも、数ヶ月はこんな気候かもしれないが、一年は続かないだろう」
「知り合いの気象学者は二ヶ月程度じゃないか、って言ってたから心配はいらないわ」
私はその言葉にほっと胸をなでおろす。父さんも母さんも科学者だ。だから、父さんがそう言うからには、きっと大丈夫なんだろう。
それなのに、今度は母さんもそばに来てくれて、そんな母さんを父さんが私ごとギュッと抱きしめる。
「ボイラーの元栓を開けてこよう。こう寒いと、なんでもないことでも恐ろしく感じてしまうからな」
父さんのそんな優しい声だって、私は今も忘れてはいない。
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