或る本の虫の独想録

啓生棕

物語をかく語りき(偏見)

 おや、珍しいね図書館こんなところに来客とは。

 ああすまない、別に他の図書館が常時客入りが少ないと言っているわけではないんだよ。いや、正直私も自分の書庫から出ることはあまりしたくないから詳しくはないんだけど。


 ここは個人的に気に入った書物を片っ端から集めているだけの私的空間と何ら変わらないからね。ただ、気まぐれにときどき中を開放しているに過ぎないんだ。

 だからここに来るのは私とその友人くらいなものなんだよ。


 互いに好みのモノしか置いていかないから偏りが激しいが、その中でも興味のある一冊があったらぜひとも手に取って感想を聴かせてほしい。

 作品は直に見て、思いを馳せて、意見を述べ合うことを楽しめてようやくその本懐を遂げるのだから。


 あ、でもこの中の書物は基本貸与禁止だから館内で見て言ってくれたまえ。なに、時間のことは気にしなくていいよ、と言うより無粋だろうそんなものは。

 まぁゆるりと楽しんでいってくれ、何か聞きたいものがあればすぐそこで本を片手に座っているだろうから。


 気になる本が見つかったのかい。え、ちがう?手に取った本の内容がひどすぎて読めるもんじゃないって?

 はは、そういうのも覚悟していたけどなかなか心に刺さるね、だから言ったろうこの書庫は個人的に気に入ったものしか基本的に置いてないって。


 そもそも君と私じゃ感性が違う。ああ、馬鹿にしているんじゃない。私が君より優れているとか劣っているとかそんな話でもないんだ。

 私は『感性』と言うのは、いわゆる今までに影響を受けたすべての集大成だと思っている。

 例えば私はファンタジー小説が好きだ、今までに多くその類の作品を見てきたと自負しているし、今なお好んで読んでいるものでもある。

 こういった作品を見ていると、想像が広がる半面少しの矛盾に鈍感になっているんじゃないかと思うようになった。


 『ファンタジー』は『幻想』『空想』を指している言葉だ。

 この二つは何を意味するのかと言うと、有り体に言えば『有りえない事』『起こりえない事』だと思う。

 つまり曲解して言えば、存在として矛盾していることが大前提と言うことになる。あくまで私的に言うのならね。

 もちろん現実性リアリティを求めて執筆されたファンタジー作品もあるから本当に曲解もいいところなんだけど。


 それでも私個人で言うのならあまりそういった矛盾に頓着しないほうなんだ。

 以前知り合いと一緒にとある漫画を読んでいたことがあってね、その作品は月刊連載作品でかなりの人気を誇ったものなんだ。

 20巻以上出していると言えば大体わかってもらえるかな。

 そんな作品も打ち切りになることなく無事に最終回を迎えて、その時は心なしか寂しいと思ったものだ。

 

 まぁそんなことは置いておこう。

 その作品を読んでいた私と知り合いもそろって最終巻を買って、それぞれ楽しむことになったのだが、私としては文句なしの締め方だったんだ。

 そうなると今度はその気持ちを誰かと共有したくなるのが、ヒトの性と言うもので早速その知り合いとその話題で盛り上がろうということになった。

 その知り合いもおおむね好評だったのだけれど、絶賛することはしなかった。どこが気に入らなかったのかと言うと奴はこういったんだ。


『この作品は死や失ったものを重く取り上げているのに、最後主人公が大切な人を救うところがご都合主義に見えた。』とね。

 これを聴いた私は、ああ確かにと少しだけ共感を覚えた。

 と言っても私にとって小説や漫画には、少なからず『幻想』を期待しているしその期待の中には『救い』があってほしいとも思っている。

 たとえそれが多少荒唐無稽でも受け入れるし、それが創作のいいところだというのが持論だ。


 対して奴は奇跡が起こるのなら自分が納得できる理由が欲しいし、それがないのならせめて何かしら制限があってしかるべきだという考えでね。

 好きなジャンルも私と真反対なわけだから、感じ方も私と違うものだったのだろうけど…いや一寸態度が気に入らなかったからしばらく不仲のままだけだ気にしないでくれ。


 ともかく奴の言い方が癪に触っただけで、その意見は十分にありがたいものだった。世界が広がった気分だった、言い方はともかく。

 何が言いたいのかと言うと、君からその本を読んだ率直な意見を聞きたいんだ。感情に任せた感想ではなく、感情をはさんでもいいからどこがどういう風に気に食わなかったかを、ね。


 一体君は何をみて、どう感じたんい?


 

 

 

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