4月23日 晴れ

 犬がついてきた。

 当初は、夜に寝込みを襲い、食料を奪おうとしているのかと思った。

 砂漠ブタコウモリは夕方になると標的を尾行し、夜になると標的の食料や獲物を横取りする。

 あるいは塚アリのように夜になると私自身を食料とするのかもしれない、と。


 だが、どうやら違うようだった。

 犬は昼過ぎになると、一旦消え、次に現れた時にはまるまると太った砂ネズミを咥えて戻ってきた。

 そして、それを私に差し出すように置いたのだ。


 友好の印、あるいは服従の印であることは、すぐに分かった。

 この砂漠の生物が食料を差し出す理由など、他にはない。

 服従するような戦いをした覚えはないから、おそらく前者だろう。


 これまで生きていて、始めての経験だった。

 恐らく、昨日の水場での行動が引き起こしたものだろう。


 いつもなら、この手の生物の行動は警戒して相手にしない。

 あるいは、私の持つ食料を狙ってのことかもしれない。

 あるいは、私自身を食料としたいのか……。

 私は犬の持ってきた砂ネズミには手を付けず、警戒を解くことはなかった。


 だが、この六角岩の群生地は少々厄介だ。

 同じような形の岩のせいで、方向感覚を失う。

 その上、生物もそうそう見当たらない。

 今はまだ食料に余裕はあるが、ここから抜け出るまで持つとも限らない。


 ほんの僅かな間、彼と行動を共にすることは、私にとってデメリットにはならないのではなかろうか。。

 群れというものの恐ろしさは、私も知っているつもりだ。

 父と旅をしていた頃も、二人いるということの心強さはあった。


 現在、犬は私が警戒していることを承知しているかのように、

 私がギリギリ警戒しない距離に寝そべり、自分のとってきた食料を食べている。

 敵意はまったく感じられない。

 あるいは私が武器を手に立ち上がれば、犬も牙を剥くだろうが……。


 賭けてみよう。


 明日から、私は彼と行動を共にすることにする。

 最低でも、この六角岩の群生地を抜けるまでは。

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