4月21日 晴れ

 水が見つかった。

 太陽がかなり傾いてきた時間帯だった。

 それ自体は幸運なことだったが、不幸なことに水場の前には一匹の生物が待ち構えていた。


 四本の足に、長い口、茶色の毛で覆われた生物。

 犬だ。

 奴は私を見ると歯をむき出して唸り声を上げてきた。

 私は死を覚悟した。

 カンカン照りの続くこの砂漠で、長時間水を取らずに活動した私には、もう戦う力が残されていなかったのだ。


 しかし、犬は唸り声を上げるばかりで、一向に襲ってくる気配は無かった。

 水分不足で乾きフラついた私は、犬がなぜ襲ってこないか、その理由にすぐに思い至った。

 彼は飢えていたのだ。

 肋の浮き出た胸に、へこんだ腹。

 もはや、その場で立ち上がることすら出来ないほどに、飢えていたのだ。

 この六角岩の群生地で迷い、水場は見つけたものの食料はなく、さまよい続けたのだろう。 


 私は動けない犬を素通りし、水を確保。

 犬を殺し、食料にしてしまってもよかった。

 だが、今の私には一ヶ月を超える食料を手にしていた。


 気づけば犬に食料を分け与えていた。

 私とよく似た境遇であろうこの犬に、共感してしまったのかもしれない。


 犬は食料を差し出されると、匂いを嗅いで毒かどうかを確かめることすらせず、無防備にも一心不乱に食い始めた。

 そして、私はその脇で無防備に水を飲み、体を潤した。


 現在、私は水場の脇で休んでいる。

 やや遠い位置に、犬が寝そべっている。

 特に威嚇してきたり、襲いかかってくることがないのは、彼もまた私に共感したからかもしれない。


 久しぶりに安堵したせいか、今日は特に眠気が強い。

 本来なら、他の生物の近くで眠ることなどありえないのだが、この犬は大丈夫だろうという確信があった。

 その確信が、気のせいでないことを祈ろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る