第13話 また後で

「父上、母上…!」


「待て、ラァズ!中心部の方は危険だ!」


「離してくれ、ゾルカ!


 僕は行かなくちゃいけない!」


中年男性の言ったことが本当なら、家族が危ない。


走ろうとして腕をつかまれたラァズは、


デスゾルカを振り返って鋭く言った。


そこに、いつもの気弱さは微塵も感じられない。


彼がこんな顔をするのかと、他の二人は驚いた。


その時、走って来た女性がデスゾルカの肩にぶつかり、


拍子にラァズの腕をつかんでいた手が外れた。


次の瞬間には、ラァズの姿はなかった。


人波に逆らうように、その中へ消えてしまったのである。


「ラァズ!」


「おれが行く」


追おうとするデスゾルカの胸を、キリクが押さえた。


「どうせおれの家もあっちだ、黄色通りまで行けるかはわからねえが


 ラァズは捕まえる。


 お前は自分ちへ行け、ゾルカ。


 お袋さんとエリエルの様子を確かめるんだ」


「キリク、…やばかったらすぐに逃げろよ。


 おじさんとおばさんもきっともう避難してる。無理するなよ」


「バカ野郎、深刻なツラしてんじゃねえ。


 似合わねえってんだよ」


どん、とデスゾルカの肩を叩き、キリクは笑みを浮かべた。


この騒乱にあって、彼はいつもと変わらないように思えた。


異様な状況の中ラァズに続いてキリクとも別れることに、


一人になる心細さと友の身の心配とがあったが、


自分も母と妹のことが気になる。


デスゾルカは、キリクの意見を受け入れた。


「『あそこ』なら誰にも見つからねえ、後でまた会おうぜ。


 ヘマすんじゃねえぞ」


「するわけないだろ、…おれは未来の勇者だぞ!」


「そうだったな」


親指を立てて見せ、キリクは身を翻し駆けて行った。


人波は未だ途切れず、彼の姿はすぐに見えなくなった。


それでも少しの間、デスゾルカはもうそこにはない背中を眺めていた。


後でまた会おう―――――


そうだ。


またすぐに会える。


誰も知らない、自分たちだけのあの場所で。


不安と迷いを振り払うように、デスゾルカは自宅へ向かって走り出した。

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