第12話 混乱の中

街に近づくにつれ、夜の林が明るくなっていった。


木や枝の隙間から、明かりが漏れてくる。


祭の夜は、街が明るくなる。だが、明るすぎる。


人々の異様な声に、地鳴りのような音も混じって聞こえ始めた。


気がつくと、三人は走っていた。


荷物を背負い歩き詰めで、疲れきり足は棒のようになっていたが、


何度も転びそうになりながらも走り続けた。


秘密基地への隠れた入口の前を通り過ぎ、


やがて林の出口が見えてくる。


そして、ついに外へ出た。





「な…何だ、あれは…!?」


息を切らしながら呆然と立ち尽くし、三人は街の中心部の方を見た。


その空は、赤く照らされている。炎が上がっているのだ。


広範囲に渡っている。


「や、やっぱり火事…?」


「それだけのわけがねえ」


ラァズの言葉を、キリクは今度ははっきりと否定した。


声は冷静な調子だったが、その目は夜空を染める色を


鋭くにらんでいた。


「あんなでかい火があちこちで燃えているなんて変だろ。


 それに、このめちゃくちゃな音は何だ?


 まるで街じゅうで牛が暴れ回ってるみたいだぜ」


「じゃ、じゃあ早く家に…」


「ちょっと待て、ラァズ」


デスゾルカが、再び駆け出そうとするラァズを制した。


「今バラバラになるのは良くない。


 ここからならおれの家が一番近い、


 母さんとエリエルに何が起こっているのか聞こう」


「そ、そうだね」


一刻も早く家族の安否を確かめたい気持ちはあったが、


何かとんでもないことが起こっていることは明らかだ。


できることなら現場に近づく前にわずかでも情報を得たい、


そんな意識が働いてラァズは浅く二回うなずいた。


ひとまず三人は、レビ家を目指す。


その中で、次第に彼らも街を蝕む異様さに巻き込まれていく。





レビ家はアルトリアの端に位置し、


比較的民家の少ない地域にある。


夜になると人を見かけることもそうないが、


走ってゆく人々の姿が見え始めた。


皆一様に表情は恐怖に染まり、


振り返ることは一切せず懸命に駆けている。


街を出ようとしているらしい。


とても何事なのかを尋ねられそうな様子ではないが、


これだけの人が脱出を試みるほどの事態を


一刻も早く知りたかったので、


デスゾルカは小柄な中年男性を引き止めてきいた。


「おじさん、どうしたのよ!?これ一体何事!?」


男性は慌てながらも振り払うことはなく、足を止めてくれた。


しかし、その顔には鬼気迫るものがあった。


「わからない!黄色通りの方が騒がしくなりだして、


 色々な所で火が上がって…


 とにかく、襲われているんだ!


 突然な上に、祭に集まった国内外の人たちが大混乱に陥って、


 黄の騎士団も思うように動けないらしい」


「襲われてるって、何に!?」


「わからないんだよ!


 俺は通りから離れた所にいたから直接見てはいないんだ。


 だが、どんどん騒ぎが広がってきている…


 だからみんな街を離れようとしているんだ!


 君たちも早く逃げろ、アルトリアはもう駄目だ!


 すぐにこの辺りも危なくなるぞ!」


そこまで話すと、男性は走り去ってしまった。


三人は、すぐに事態を飲み込めずにいた。


聞いた話があまりにも現実離れしていたので、


まだ事実として受け止められなかった。


何者かに襲われて、街全体が大混乱に陥る―――


そんなことが、起こりうるのだろうか?


周りの喧騒から取り残されたようにぼんやりとする少年たちの胸に、


槌で打つような衝撃を与えた言葉があった。


『アルトリアはもう駄目だ』――――


その響きが頭の中に染み通ると、


彼らはそれぞれに反応をした。


怒りか。悲しみか。絶望か。


形容しがたい感情の波が嵐となって、心を、身体を突き動かす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る