第11話 異変

はじめに異常に気づいたのはデスゾルカ。


林を抜けるにはまだ距離がある。


彼は急に立ち止まり、辺りをうかがう様子を見せた。


「…何か聞こえる」


「そりゃ腹くらい鳴るだろ。もう日も暮れちまったんだぜ」


「違うわ!」


茶化すような態度のキリクに、デスゾルカは即座に言い返した。


日は沈み、暗闇を照らすのは三人が持って来た、


魔導の力を蓄えて灯る道具だけ。


道中目印は残してきたものの暗くて見つけづらく、


帰路は余計に時間をくってしまっていた。


全員親からの大目玉を覚悟しながらの家路だったわけだが、


その途中でデスゾルカが何かに気づいたのである。


「耳の穴全開にしてみろ!ほら、聞こえるだろ」


「う~ん…人の声か?」


言われて耳をすませてみると、何の生物のものかわからない


鳴き声に混じって、キリクにもかすかに聞こえた。


大勢の人の声のように思えた。


「お祭だからじゃないの?


 ちょうどクライマックスの頃じゃないかな?」


街の方に耳を向ける二人に、ラァズが横から口を挟んだ。


確かに、祭の最終日の夜は黄色通りを


すさまじい数の人々が踊り歩く山場がある。


林の中にまで聞こえてくるほど賑わっていても、


当然のことではあった。


しかし、デスゾルカは首を振った。


「…違う…これは祭の声じゃない。二人とも、急ぐぞ!」


言って、彼は早足で歩き始めた。


デスゾルカは、耳が良い。


家で勉強をさぼっている時に、


部屋に近づく母親の足音を察知することで鍛えられた。


キリクとラァズは、一度顔を見合わせると


デスゾルカの後を追った。





進むにつれ、彼が聞いたものがだんだんとはっきりしてきた。


キリクとラァズにも、わかってきた。


それが祭を楽しむ人々の声ではないということが。


怒号とか悲鳴とか、そういったものが入り混じったような。


とにかく異様さがあった。


三人に、不安がこみ上げてくる。


何かあったことは間違いないだろう。


だが、どのような状況になればあんな声が聞こえてくるのか。


「か、火事でもあったのかな」


消え入りそうな調子で、ラァズがぽつりとつぶやいた。


他の二人は、答えなかった。


ただの火事のはずはない。


しかし、否定する気にはなれなかった。火事で済めばいい。


できれば犠牲者もなく。


そんな想いとは裏腹に、


少年らの胸には悪い予感が首をもたげ、


進むごとに大きくなっていくようだった。

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