第10話 旅の剣士

何が起きたのかわからず三人が目を丸くしていると、


悠然と彼らの前に歩み出る者があった。


「君たち、怪我はないか」


手に下げた剣を納めながら、


長身の男性が爽やかな声をかけてきた。


整った顔立ちをしている。長い髪を束ねているようだ。


明るい日の光の下なら、もっと美形に見えるかもしれない。


「た…助かりました…」


やっとの思いでそれだけ言うと、


ラァズはその場にへたへたと座り込んでしまった。


キリクも、軽く頭を下げる。


「命拾いしたっス」


そして、デスゾルカは。


「ありがとうございます!


 もしかして、勇者様ですか!正規ではないにしろ」


「勇者?」


きらきらと輝く眼差しを向けた彼の言葉に、男性はふっ、と笑った。


「いや、それほど立派なものじゃない。


 ただの旅の剣士だよ。君たちは?」


「おれたちは、アルトリアに住んでいる者です」


「そうか、しかし少々深く入りすぎたな」


うなずき、旅の剣士はちらと空に目を向ける。


「もうすぐ日が沈む、引き返した方がいい…


 よければ、送ろうか」


「い、いえ、帰るだけなら大丈夫です」


「うむ、万が一を考えればともに行きたいところだが、


 夜になる前に調べたいことがある。気をつけてな」


「はあ…調べたいことって?」


「その魔物がこんな所にいたこともそうだが、


 この森は様子がおかしい。


 私はアラネスの滝まで行ってみようとしたのだが、


 それどころではなさそうなのでな」


男性は、周囲の様子を見ながら言った。


そう言われると、確かにそんな気がしてくる。


今まで経験したことのないような恐怖の後でなおさら、


今いる場所が不気味に思えてきた。


早く帰った方がいいだろう。


「それじゃ、おれたちは帰ります。ありがとうございました…


 あ、そうだ。名前、きいてもいいですか?」


「私か?


 私はスムース・メイヤー、風の吹くまま流れる旅の剣士だ。


 さあ、勇敢なる少年たちよ、ゆくがいい。


 この森の異変の正体は私が突きとめる」


そう言い残し、スムース・メイヤーは


草むらの向こうへと姿を消した。


少年たちが初めて体験した魔物との遭遇、戦い、


そして本物の剣士の一撃。


スムース・メイヤーが去った方向を見ながら、


少年たちは今ここで起こった


恐ろしくも鮮烈なシーンを思い返していた。


「何か名前をきいたところからどんどん気分が乗ってったみたいだな。


 ちょっとしゃべり方が変わったぞ」


「意外とお調子者なのかもな…


 でもおれたちには命の恩人だ、感謝しよう!


 さて、帰るか!」


少年ならば誰もが抱く冒険心から始まった今日の出来事。


思いもよらず命をかけたものになってしまったが、


それは彼らをどこか少しだけ成長させたのかもしれない。


そして、きっと大人になっても忘れぬ記憶となるだろう。

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