第8話 冒険
一時間後、冒険は行き詰まっていた。
林の中の秘密基地が出発地点になったのだが、
そうすると元来た道以外は
どちらに進んでも林が広がることになる。
未だに変わらぬ景色が続き、
三人はすっかり飽きてしまっていたのである。
珍しいものに遭遇することもなかった。
「キリク~、お前の弁当のおかず何?」
「焼肉」
「いいなー!おい、そろそろ昼メシにしよう」
「まだ昼じゃないよ…それより大丈夫かな、
だんだん木が多くなってきたね」
周囲をせわしなく見回し、ラァズはやや不安気な声を漏らした。
三人が歩いて来たのは、まだ人の手が入っている範囲だった。
この林はアラネスの滝のある断崖近くまで続いており、
そこに近づくにつれ
深い『森』になってゆく。
この森も、クァドーン台地を目指す者にとっては
難関のひとつになっている。
「目立つ目印もつけてきてるし平気だって。
さあ進もう、男は前しか見ない生き物だ」
「足元くらいは見た方がいいと思うけど…」
「ん?」
その時、デスゾルカは視界の端で何かが動くのを見た。
一瞬のことで、はっきりとは捉えられていない。
影形や動きからすると人のようにも思えたが、
灰色の体毛に覆われた体が見えた気がした。
猿のような動物かもしれない。
何にせよそれは俊敏で、すでに姿はなかった。
「どうしたの?」
「でかい動物が出始めたみたいだぞ!盛り上がってきた!」
どうやら新たな展開を迎えたらしいことに、胸が躍る。
意欲を取り戻した三人は、再び足取りも軽やかに歩き出した。
日が傾き始めた。
木々が深くなってきている林の中では、より暗く感じる。
整備された林道とは違い足元は雑草や木の根に妨げられ、
進行速度は格段に落ちていた。
三人の口数は減り、ラァズなどは
他の二人のどちらかが「もう帰ろう」と言い出すよう
一歩足を踏み出すごとに頭の中で念じていた。
そんな彼の心情をよそに、デスゾルカは疲れ知らずで
歩調をラァズに合わせながらもずんずんと進み、
キリクも一度くらい野宿してみるのもいいかと考えていたので
振り返ることはなかった。
しかし、にわかに二人の足が止まる。
最後尾を行くラァズは願いが通じたかと思ったが、
すぐにそうではないことを悟った。
眼前の草むらが揺れていたのである。
風ではない。
明らかに何かがいる。
揺れ方からすると、かなり大きい。
「い…犬かな、猫かな…」
「…そんなかわいいもんだといいけどな」
上擦った声を出すラァズに、キリクは草むらから目を離さずに答えた。
友人らのやり取りを聞きながら、
デスゾルカはレビブレイドに手を掛ける。
うまく抜けなかった。
腕だけで引っ張って抜こうとしたためだ。
そうしている間に、草むらが開けた。
瞬間、少年らは岩が動いて来たのかと思った。
薄暗い林の中で、錯覚した。
だが、すぐに違うとわかった。
岩は立ち上がったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます