第5話 母と妹
「今日も遅かったわね、ゾルカ?
宿題もせずこんな時間まで遊んでいるなんて、
いいご身分だこと」
デスゾルカが帰宅した頃にはすっかり日は暮れていて、
家に入った途端母・ミムナの棘のある声が耳に刺さった。
同時に、彼の好物である
母の作る玉葱スープのやわらかな匂いが鼻をくすぐり、
空腹感を一層大きいものにした。
「何で宿題をやっていないと決め付けて…
そんなに息子を信じられないと…」
そろそろとテーブルへと歩を進めつつ、デスゾルカは一応反論する。
ミムナは台所にいるらしく、足を踏み入れた
ダイニング兼居間となっている部屋からは姿は見えない。
リグルスは不在だ。
無論逐電したわけではなく、依頼遂行のため
今朝早くに出かけてしまい数日は帰って来ないので、
食卓には妹・エリエルの姿だけがあった。
「過去に実績があれば少しは信じられるかもしれないけれどね、」
再び、母の声が聞こえてくる。
「残念ながらあなたが宿題を済ませてから
外出をしたことは一度もなかったわね」
「そんなバカな!
遊びに行く前に宿題をしたことはあった!…はず」
「また変な言い訳してる。
どうせいつもの二人と秘密基地でしょ」
頬杖をつきながらエリエルが呆れたように言った。
兄妹仲はいいのだが、彼女は時々妙に刺々しくなることがある。
それが女の子の難しいところなのかどうかはともかく、
母と妹に組まれると分が悪い。母だけでも分は悪かったのだが。
「今日は遊びじゃなかったんだって、エリエル」
滑り込むようにテーブルにたどり着いたデスゾルカは、
早速サラダの中のトマトを口に放り込んで小声で言った。
エリエルの方は、さして興味なさげにしている。
それでも、とりあえずきいてやった。
「じゃあ、何?」
「男同士の秘密だ!」
「お母さーん、お兄ちゃんがつまみ食いしたー!」
「おい妹よっ!お前には血も涙もないのか!」
「こら、ゾルカ!手は洗ったの!?」
「ただいま洗って参ります、お母様!ええ、今すぐに!
草原を渡る風のように、雪解けの後の…」
「いいから早く行きなさい」
夕食抜きの危険を回避すべく、デスゾルカは洗面所へと急いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます