第4話 秘密基地で

「じゃーん!見ろ、この輝きを!


 これがうちに代々伝わる伝説の剣、レビブレイドだ!」


翌日、デスゾルカは十分な腕も心もなく


レビブレイドを抜いていた。


友人のキリクとラァズに見せびらかすためである。


しかし、当の二人の反応は芳しくなかった。


「代々伝わってるのはともかく、伝説っていうのは嘘だろ。


 ただの鉄の剣じゃないのか、それ」


刀身をひと目見て、いぶかしげにキリクは言った。


彼の実家は武器屋である。剣は見慣れていた。


店に並んでいる、高価というわけでもない商品と


ほぼ変わらない、ように見える。


「こう言っちゃ悪いけど、うちにあった銀の剣の方が


 輝いていたような…」


高く掲げられたレビブレイドの切っ先を見上げながら


つぶやいたのは、ラァズ。


彼の生家は裕福な名門で、由緒ある騎士の家系である。


こちらも、剣は見慣れていた。


しかも、家にあったのは質のいい品ばかり。


目の前で見せつけられている物は、


そのどれと比べても劣る、ように見える。


友人らから満足いく感想が得られなかったので、


デスゾルカは唇を尖らせた。


「何なんだお前たちは!ひねくれ者!」


「どこがひねくれてんだ。


 この上なく素直に感想を述べただろ」


「まあ、年代物っていう感じはするかな…」


そんな三人がいるのは、レビ家の裏手に広がる林にある茂みの中。


彼らの『秘密基地』だ。


数年前、この林で遊んでいた彼らは


濃く生い茂った場所を見つけ、


奥へと入った所にあった緑の世界に感動を覚えた。


周りと頭上を、幾重の葉がぐるりと囲む空間だった。


茂みの上には枝が覆いかぶさるように


重なっておりいくらかの雨を防げ、


それでも緑の隙間からは日光が


漏れ差し込んでくる絶妙な塩梅である。


さらにその奥には大きなうろのある木が立ち、


強い風雨もしのぐことができる。


少年たちには、この上ない大発見だった。


以来彼らはここに手を加えたり


様々な物を持ち込んだりしてさらに居心地を良くし、


毎日のように入り浸っていた。





「とにかく、ようやくおれも自分の剣を手に入れたのだ」


誇らしげに言いながら、


デスゾルカはおぼつかない手つきで


やや手間取りながらレビブレイドを鞘に納めた。


「今こそ、冒険の時だな」


「冒険?」


「そうだよ、ラァズ。お前も行きたいだろ」


唐突な宣言ののちに問われて、ラァズは首を振る。


当然そうだろうという言い方をされても困る、と思った。


「いや、怖いから…」


「魔物を怖がってて勇者になれるかっ!」


「僕は別に勇者になりたいわけじゃないんだけど…


 それに、怖いのは怒った時の父上の方で…」


「そりゃ言えてるな。


 お堅い家柄のお坊っちゃんも楽じゃないんだよ、ゾルカ」


いつの間にか寝転んでいたキリクが笑いながら口を挟んだ。


その言葉を受けて、デスゾルカは標的を変えた。


「お前は行くよね、キリク!


 『ためらう前にやってみろ』だもんな」


「何だその格言みたいなの。どこのお調子者の発言?


 ま、おれは行ってもいいけどな」


「よし、決まりだ。二対一だ。文句のつけようがない。


 拒むこともできない。


 いくぞラァズ!おれたちとともに!」


多数派となり勢いを増した彼の押しの強さに根負けして、


ラァズは渋々承知した。


「…暗くなる前に帰ろうね」


「遠足じゃないんだよこれは!


 暗闇なんかおれたちの勇気で明るく照らせばいいんだ!」


拳を握り締めるゾルカにキリクはくっくっ、と笑い、


ラァズはため息をつくばかりであった。

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