第一話 のぞき
高校を卒業すると同時に、親戚のコネにより、労せずついたこの職を、私はダラダラと、もう12年も続けている。ここは私立桜葉女子高等学校、私はこの学校の警備員をやっている。
坂本英樹、今年で30歳、独身。
よく人からは、女子高で警備員をしていると話すと、「なんて羨ましい仕事だ、今度かわいい女子高生を紹介してくれ、女子高生の友達たくさんいるんだろ!」などど言われ、羨望の目で見られるが、実際にはそんな美味しい仕事ではない。
ここ桜葉女子高の警備員は、テレビドラマで見るような、毎日校門の前に立ち、女子生徒に朝の挨拶をされながら、校内の安全を守る頼もしい存在は程遠く、お客さんでもある、女子生徒の保護者に対する、安全面でのアピールのためにだけ存在する建前の役職である。
本当に、何かしらの事件がおきる以外には、出番など毛頭なく、そもそも、日中、生徒が登校している時間帯は、警備室の外に出ることすら、基本的に禁じられている。
なので私は、午前八時に出勤して、夜勤である武田さん(46歳、妻子持ち)と交代し、そこからきっちり12時間後、午後8時にまた出勤して来る武田さんと入れかわるまで、約九畳ほどの警備員室で、ひたすら何もせず待機し続ける。
私が働き始めてからの12年間で、問題が起きたことは、ただの一度もなく、半年に一度くらいの頻度で、ボケた老人や、野良犬が迷い込むことはあるが、それも私が出るまでもなく、男性教員が迅速に対応してしまう。
実質労働は皆無であるが、一日12時間拘束で、週に5日働いているので、給料もそこそこの額を頂いている。
はじめの数年は、退屈とやりがいの無さに、日々転職を考えていたが、今となっては、私はこれ以外の仕事に、今更従事することなど不可能ではないかと、悟りはじめている。
それに最近では、絶対に転職することのできない、新たな楽しみができたのだ。
きっかけは今からちょうど三か月前、校庭の桜が咲き誇る四月の半ば、友人の一人から『双眼鏡』を買い取った。
そいつは今時、趣味でバードウォッチングをしている変わった奴なのだが、どうやら発注のミスで、全く同じ双眼鏡を2つ買ってしまったらしい。ネットオークションで出品できるほど、パソコンに詳しくないため、友人に買い取ってくれる奴がいないかと、方々を探した末、私に辿り着いた。
私はバードウォッチングなどには全く興味が無かったが、かなり高性能な品物を、低価格で買える事と、家庭を持たず、元来無趣味で使う機会が無いので、貯金だけはかなり持ち合わせているため、友人の頼みを受けてやることにしたのだ。
そして、男がそんな物を手にした以上、する事など一つしかない。
無論『のぞき』だ。
私は次の日には、もう職場に持ち込んで双眼鏡を使用した。
するとどうであろう、今までそんな事、考えもしなかったのだが、私が日中、待機し続けるこの警備員室は、どうやらのぞきを行うには、天国のような環境であったのだ。
警備員室は、離れの校舎の、最上階の、一番端に隔離されている。侵入者をすぐ発見できるようにという名目で、最上階にあるのだが、この事が偶然にも功を奏し、警備員室からは、かなり遠くではあるが、生徒達が授業を受けている教室や、部活を行うグラウンド、さらには屋外に設置されているプールさえも見渡せてしまう。
つまり女子高生達の、登校から下校まで、全ての行動を逐一、観察する事ができるのである。
もちろん誰かにバレるようなことがあっては、仕事を失うどころか、下手すれば刑務所行きになってしまう。実行する際には、カーテンの隙間からレンズの部分だけを出し、外から見ても分らぬように、慎重を期す。
ただ一つ残念なことに、期待していた生徒達の着替えシーンなどは見ることができなかった。元々それほど高い土地に建っている学校ではないので、のぞき対策はしっかりとなされているようだ。教室内での着替えは、絶対に行わないようにルール付けされているらしい。
期待は外れてしまったが、それでも女子高生の生活を、双眼鏡でのぞくという行為は、至極堪らないものがあった。
教室で授業を受けている姿、友達同士でわいわい楽しそうにお弁当を食べている姿、グラウンドで体操服になり汗をかきながら運動している姿、女子高生のそういった日常をのぞき見るという行為は、私を言い表せぬほどの興奮に誘い、夢中にさせた。
私は勤務時間中、一時も休むことなく女子高生を見続けた。
次の日も、その次の日も、飽きることのない興奮が私を襲った。
はじめにあったものは、純粋なる〈性的興奮〉であった。
普段、絶対に凝視することの出来ないもの――――女子高生の生肌や、スカートの布先、汗ばんだシャツにうっすら浮かび上がるブラジャー、それらを誰にも制されることなく、時間を忘れて楽しめる。
そこに、してはならないことを行っているという罪悪感と、もし見つかってしまったら人生が終わってしまうという緊張感が加わり、果てしなき快楽を得ることができた。
私は勤務中にも関わらず、枯渇するほど自慰行為に没頭し、毎日を過ごした。
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