へんたい

@yakozen

プロローグ


 目の前に突然現れた、メタボリックシンドロームの小汚い中年男性が、自らの事を天使だと言い張って憚らない。

 確かに彼の背中、肩甲骨の真ん中あたりには、大きめの鳩と同じくらいのサイズの、真っ白な羽が生えているし、頭上には、丸型蛍光灯の二七型くらいの大きさの輪っかが、フワフワと浮きながら煌々と光を放っている。

 

 しかしながら、「いやあそれにしても暑いねこの部屋、クーラー壊れてんじゃないの?」と文句を言いつつ、我が物顔で冷房のリモコンを拾い上げ、ピッピと勝手にいじくり出したこの中年男性を、天使だと信じる人間が、果たしてこの世に存在するのであろうか。

 とにかく私の仕事柄、こういった不審者への対応マニュアルは、嫌というほど覚えさせられてきた、それがやっと生きる時が来たのだ。

 このような頭のおかしな輩は、決して刺激してはならない、慎重に近づいていき、一撃で仕留める必要がある。

 私は「ああ最近フィルターの掃除してないですからねえ」と、話を合わせながら、男に徐々にすり寄った。なんとか取り押さえられる間合いに入ったところで、腰のポケットに常備携えてある、折り畳み式の警棒に手を伸ばした。すると、どうだろう。確かに今朝確認したはずの警棒が、ポケットから姿を消していた。

 不思議そうな表情をしている私に対し、その男は


「ちょっとー、そんな物騒なもん取り出そうとしないでよ、危ないからこの世から消しておきました。」

 

 と言い、大げさなジャスチャーで不満を表した。


「まあいいや、とりあえず本題に入ろう。ラッキーボーイ」


 そして脂ぎった顔を、私にグイッと寄せて、加齢臭の混じった口臭を浴びせつつ、満面の笑みでこう言い放つ。


「あなたは、第837回、神様気まぐれ人類救済ダーツの一等賞に当りました。つきましてはあなたの願いを一つだけ叶えてあげましょう」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る