読了『属』作:杠 志穂

『属することは、本当に幸せなことなのだろうか。』

――本作品のキャッチコピーより。


カクヨムにおいて、本作は骨太な私小説であると断言できる。


現代は『孤独の時代』と言いかえる事ができる。

個人主義の発達。オンリーワンの賛美。そうした風潮の先には『孤立』というもう一つの側面が待っている。

孤高を貫くだけの芯の強さがあれば、それもいい。

しかし、誰もがみなそうした強さを持つとは限らない。


自分だけのものを求めつつも、その一方で、誰かにそれを認めてもらいたい「さびしさ」を持っている。

突き詰めていくと、そうした「さびしさ」の解消は、心の平安をもたらす居場所の構築。に繋がっていくといえるだろう。


さて、本作では述懐の形を借りていくつものエピソードが述べられている。

そこにあらわれる登場人物には、みなどこか孤独の影が漂っている。

そうでありながら、皆それぞれに「人間の形」というものを持っている。


そうして語られるエピソードは一見無関係ながらも、ところどころで繋がっていき、作者である『私』の形を浮かび上がらせていく。


本作はある感傷や、成長を描いたものではない。

一人の人間と、その周辺と、その出会いとを描き出すことで「人間の形」というものを、人間としての在り方を浮き彫りにしていく。

人間存在の根底には「さびしさ」があるということ。

そして「さびしさ」を埋めるものは、同じくどこかに「さびしさ」を抱えているであろう人間との出会いによるものなのだろう。

ノンフィクションである本作には、あらゆる創作を一蹴する迫力と、人間味を持つ。


もしあなたが、今まさに「幸せでない属しかた」をしているならば。

逆に「幸せな属しかた」をしているならば。


自分が持つ「さびしさ」と向き合う一つのきっかけになるかもしれない。

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