読了『コッパ作家が小説を書いて20年生きて行く作家経営術 』 作:わかつきひかる
小説を書いた。原稿が載った。単行本にもなった。
しかし、原稿料が振り込まれない。
そんな馬鹿な。
相手はきちんとした会社で、組織として成り立っている。
未払いなんてことは、あるはずがない。
いや、この業界では、ままあることなのだ。
小説家は、極端な話、紙とペンさえあればお金にすることができる。
それじゃあ、出版社はというと、紙と印刷機さえがあればお金にすることができるのだ。
つまり、本を出すこと自体は容易だ。
そこから、お金にする、つまり「売れる」ようにするにはそれなりの努力がいるのだけど、うまくいけば、それだけで大金を生み出すことができる。
だからこそ、いわゆる「常識」が通じない、おかしな人間も現れてくる。
さて、作家は、言うなれば個人事業主である。
そして、出版社という会社とのやりとりは、そのまま「契約」に則って行われるものだ。
逆に言えば、きちんとした「契約」が無い場合、それはそのまま「契約にない事」として無視する事ができてしまう。
作者はこうアドバイスする。
『出版業界は、夢にあふれたお花畑ではなく、ごく普通の仕事先です。まともなところもあれば、信じられないぐらい悪辣なところもあります。夢も転がっていますが、絶望もあふれています。』(作中より)
そう、フリーであれ、クリエイターであれそれは「ごく普通の仕事」でもあるのだ。
皆が皆、熱意に溢れた一流の本物。というわけではない。
やる気のない社員だっているし、組織に寄生して美味しい所だけさらっていく虫みたいな社員だっている。
そして、出版社における彼らにとって、作家は同じ会社の同僚などではない。
だから、作品以外に関する、作者の動向などは気にもかけない。
それが当然であり、会社にとっては「利益」を生み出すか否かの取引関係が重要なのだ。
そして、仕事をしていれば、そうした相手に関わる機会はけしてありえない事ではない。
そうした「出版業界」において、本作は生き残るために何をすればいいのかを的確に教示してくれる。
契約書をよく読む。といった基本から、面倒ごとになりそうな仕事先(主に編集者)の回避、選別。
良識ある作家、編集者の「よい横のつながり」を広げて情報を得ていく事。
作家として仕事を獲得するための営業。作者として当然知っておくべき著作権のあれこれ。ある日突然ヒットした時に膨れ上がる税金等へのノウハウ。などなど。
クリエイターとしての作家も、ひとつの事業主であるという事を本作ははっきりと示している。
そして、そうした「事業」の目的は「利益を出す事」が第一義であるということも同時に示している。
曰く、小説の利益は掛け算であるという。
ひとつの小説がヒットすると、そこから映像化、グッズ化と波及することもある。
ひとつのヒットがきっかけで次の仕事につながり、ファンが増え、利益と仕事は加速度的に増えていく。
まさしく、当たると大きい「金の卵」が眠る業界でもあるのだ。
だからこそ、それを狙うごろつきが多い業界でもある。
小説家のみならず、フリーのクリエイターは、個人事業主なのだ。
ただ、よい作品だけを創作すればよい。という職人肌でいることはできない。
素晴らしい小説を書ける才能があっても、事業として成功させる事ができずに筆を折ってきた人間は少なくない。
業界の暗部と、そこで犠牲になってきた多くの才能がある。
20年生き残ってきた、先輩の言葉は重い。
重いからこそ、生き残るために必要なものが揃っている。
小説家の先輩として、同僚として、後々の利益につながるであろうノウハウの引き継ぎは、コッパ作家でありながらも(失礼!)まさしく一流の、プロの仕事にふさわしいものだと、私は思う。
作家志望のハウツーにとどまらず、多くの仕事をしてきた作者が語る、業界の内幕ものとしても十分に面白い。
お見事!
追記:
作者はカクヨムから退会されてしまい、本作品はカクヨムにて現在読むことができません。
しかし、2017年4月27日に別の出版社を通じて、電子書籍として発売されました。
タイトルは『生業としての小説家戦略 専業作家として一生食っていくための「稼げる」マニュアル54』(スマートブックス)
作中にて書かれていた「作家としての営業」が実を結んだ形であり、作者のノウハウが体験に基づいたものであることを実証するものであると思います。
内容に興味を持たれた方はぜひ一読をオススメします。
カクヨムで読み、面白いと感じた、一読者として追記させていただきます。
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