読了『蛆の女王』作:梅津裕一

※本作は作者自身のセルフレーティングにより、15歳未満の閲覧を推奨していません。


『緑の地獄が、少女たちの残酷さをむき出しにする。』

――本作品のキャッチコピーより。


タイトルを見て、ああこれはきっと「蠅の王」になぞらえた作品だ!と期待して読み始めた本作品。

「蠅の王」を知ったのは、確か小学生か中学生の頃。

国語の教科書に載っていた小説紹介だったと記憶している。

無人島に流れ着いた少年たちは、協力して生きのびようとするが、やがて不和が生じ――。といった紹介文は、当時の私に妖しい魅力を感じさせてくれた。


不和とその先にある、破綻。

暗く、甘美なそれを、私は子供心に感じ取っていたのかもしれない。

小学生でさえ――いや小学校というごく狭い「秩序」だからこそ、

人間というものが、いかに油断ならないものであるかを思い知らされる事が多かったように思う。

子供の集まりにあって、美しい絆や団結などは理想のまやかしであり、そこにあるのは人がもつ身勝手と理不尽なのだ。


もちろん、悪が唯一であるとは言わない。

だが、一つの側面として真実であるし、どういうわけか人は真実というものに強く惹き付けられる。


理想を踏み進めるには強さが求められるし、そうした道は英雄のみが進みうる、狭く険しいものだ。

ゆえに、真実を帯びた理想の姿を人はヒーローとして求めるし、本物の聖者というものは心から尊ばれる。


そして、誰もがみな、それほどに強い存在でもない。


話がそれた。

結局当時は機会にめぐまれず「蠅の王」を読むことは無かった。

「蠅の王」とは後年、社会人になり、見知らぬ街で時間つぶしにと寄った本屋で再会することとなる。


さて、そんな「蠅の王」と同じく、漂着した無人島を舞台とした本作品。

少年たちにかわるのは、名門女子学校の少女たちだ。

女の園、といえば華やいだ響きだが、実際には水面下におぞましい暗部がある事が広く知られている。

彼女達は、そうした秩序の中で暗闘を日常のものとしている『普通の』人達だ。

そんな彼女たちが、漂着した無人島で生き残ろうとする――。

タイトルとキャッチコピーを見れば、読まずともなんとなく結末が見えてきてしまう。

だが同時に「どうなっていくのだろう」という嗜虐的な好奇心も芽生えてくる。

それはすなわち、ヒトが持つ、真実味を帯びた暗部への期待の裏返しでもあるのだ。

そして、私は読み始めてしまった。


嗜虐性。という一点において、本作品にはぞくぞくとさせてくれる部分が多い。

残酷な描写も多いが、目を背けるような嫌悪感よりも、人の持つ暗部を静かな興奮と共に感じさせてくれる「何か」がある。


主役である佐々木夏姫が、謎めいた存在である北条深雪によって、少しずつ変貌していく過程には違和感がなく、ある事件によって、夏姫が持っていた狂気が開く描写はまさしく圧巻の一言に尽きる。


ただ、読んでいて気になったのは、それ以後の夏姫が、振り切れるでもなく、時折弱気になったり、わずかに残る良心に苛まされる描写。

その部分が、すこしだけもどかしく、狂気の迫力と恐ろしさを足踏みさせてしまったようにも思う。

もっと突き抜けていれば…と個人的にはひっかかったが、しかしながらそれは「もっと残酷にやってほしい」という不満の表れでもあるわけで、読み手である自分自身の残酷さを浮き彫りにする良質な作品であることを証明してもいるのだろう。


さて、読み手が緑の地獄で味わうのは、おぞましさからくる恐怖だろうか。

それとも、狂気のもつ高揚感だろうか。


ぜひ読みながら、自らの本性――真実の姿と語り合ってほしい。

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