読了『ニートじゃない、小説家だ!』作:伊豆 可未名
最初に結論だけ申し上げよう。
「小説家を目指すならば、絶対に、かならず読むべし。」
これはサクセスストーリーではない。
主人公に反感を覚えたならば正解であるし、そのまま読み進めてほしい。
そして、震えるべきだ。
ニートとは本来、職業訓練・および就職活動を行わない、まったくの無生産な状態にある者達を指す言葉である。(と記憶している。定義として間違ってるかもしれないが、本筋とはかかわりないのでご容赦願いたい。)
つまり、小説家を志し、バイトで生活費を稼ぐ本作の主人公は厳密にはニートではない。
小説家志望、無職。が正しいといえる。
問題はそこではない。
「小説家」は職業としてあまりオススメできるものではない。
極端な話、紙とペンさえあれば誰でもなれるし、誰でもなれるからつぶしがきく。そこで食べていけるのはごくごく一握りであるし、その一握りになるには膨大な経験と豊富な知識、そして感性が必要とされる。じつに狭き門なのだ。
とはいえ、小説家に限らない「文章を書く仕事」としての形ならば、職業としての間口もかなり広がる。
しかし、得てして若者は「小説家」を目指すものだ。
本作品の主人公もまた(あえて悪い言い方をすると)大学卒業後、就職することもなく、ライトノベル作家としてひと山当てる事をもくろんで日々執筆にいそしんでいる。
彼は断言する。
「やりたいことを我慢してまで生きている価値など、この世にはない。」
体面上、実家にも帰れず、安アパートの一室で、財布と初春の寒さに耐えながら暮らしていく日々。
成功者になったのならば、人気作家の苦労時代。という見方もできるだろう。
確かに、人生の複雑さ、艱難辛苦を経て醸し出される『味わい』は創作の妙味となるに違いない。
それでは、彼の足取りはどのようなものか。
社会人となった同輩とのズレに悩み、誰とも触れ合わずたった一人で過ごし、履歴書のいろはも知らず、小説を応募するも落選に次ぐ落選で気持ちを沈めていく。
そして、春にサラリーマンを嘲っていたニートは、冬の訪れと共にサラリーマンのヒモとなり、フリーターへと落ち着いてしまう。
人生でやりたい事がある。
そこまではいい。
問題は、彼が「たった一人」であったことだと私は思う。
サラリーマンであれ、小説家であれ、どちらも「社会」に身を置く存在なのだ。
人との繋がりによって、気づきもあり、気づかせもあり、思わぬ話も浮かんで、あれよあれよと話が進むこともある。そうして、やりたい事を実現する事もできるだろう。
どうあっても、人は一人で生きてはいけないのだ。
他人とのかかわりが無くなった時点で、彼の物語は力を失い、停滞して然るべきだったと言わざるをえない。
誰とも関わらない、たった一人の存在で、どうして人生が動いていくと言えるのか。
物語は、絶望にも似た主人公の独白で幕を閉じる。
この物語の執筆動機自体が、作者自身の風刺であるという立ち位置であるためだろうか、一発逆転のストーリー性が無い点は実に味気なく、夢が無く、そしていたし方ない。
読み終えて思うのは、それでも、どうにかして、主人公にも救いがあって欲しかった。
作品となった時点で、それは現実ではなく、物語なのだから。
ただ、この暗澹とした作品が示しているのは一つのバッドエンドであり、
創作の敷居が低くなった現代における、クリエーターを志望する若者への警鐘という点において、意義深いものがある。
その意味で、小説家のみならず、クリエーターを目指す人間は必ず読まなければならない。
クリエーター志望がたどる、明日の我が身になりうる物語なのだから。
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