079 すべてはこの日のために:13



【すべてはこの日のために 13】



 ハンムラビの放った航空部隊が攻撃を開始した。ヘリの一機は屋上を斉射し、敵兵力を排除。もう一機は建物側面まで高度を落とした。ホテル「ブラッド・カップ・イン」の実質20階となる13階側面の磨き上げられた強化ガラスに、東京の夜の光と、アパッチヘリの姿が薄く映し出される。


『ハニービー2、目標高度に差し掛かった。これより攻撃を行う』

『――攻撃を許可。ファイアストームより正面鋼鉄扉の破壊要請が出ている。破壊は可能か』


 アパッチヘリがサーチライトを屋内に照射した。巨大な強化ガラスの壁を阻んだ先に武装警備兵たちが立ち、目を細めながらヘリを指差す。だが強化ガラスが仇となってヘリを迎撃できない。


 一方、アパッチヘリの腹には超強力な30ミリ機関砲が、そしてそれが火を噴いた! 一方的に強化ガラスをぶち破り、殺人チェーンガンの連射する大口径弾が警備兵たちを無残な血煙へと変える!


 横薙ぎに払った殺人チェーンガンが邪魔な強化ガラスを粉々に吹き飛ばす。破片が地上へと雨のように降り注いでゆく。


『鋼鉄扉を確認。これよりマイクロミサイルで吹き飛ばす』



 強化ガラスを一通り破壊し終えると、攻撃ヘリは翼に装備したマイクロミサイルを連続発射! ファイアストームとローズベリーの脱出を阻む鋼鉄扉を左右とも吹き飛ばした!


『ハニービー2、指示のあった扉を破壊、制圧』

『ハニービー1、屋上制圧』

 ヘリからそれぞれ通信。反撃を避けるべくヘリは上昇し、ホテル側面を離れる。


『ハニービー3、突入用意。ファイアストーム、ローズベリー、これよりハニービー3で回収を行う。脱出準備と周辺制圧を願う』

 ミラ=エイトがハニービー3こと脱出用ヘリコプターへの指示を開始。後は二人を回収し撤退あるのみ、長居は無用。




了解ラジャー。ローズベリー、離脱するぞ!』

 鋼鉄扉を吹き飛ばす凄まじい爆発を見聞きし、またテレパス通信を耳にしたファイアストームは、ステージ上のローズベリーへと呼びかけた。


『はい!』

 ローズベリーが撤退を開始する。


「逃がすか!」

 雷光がそれを追う! ファイアストームは銃撃しローズベリーの撤退をアシスト。雷光は刀と電撃でホーミング弾を払う。


 アパッチの襲撃を生き延びた僅かな警備兵がホールに侵入し、死神たちに立ちふさがる。物の数ではない。ファイアストームはベルゼロスへ向けて何発か銃撃するが、雷光が雷光放射によって死に物狂いの迎撃を行い、彼らの王を守る。


 ファイアストームはベルゼロスを一瞥した。彼はミートメイカーの前で両膝を付いていた。ミートメイカーは致命傷、もはや長くないだろう。

 ベルゼロスも、雷光もまとめて殺し、以て完全勝利ジェノサイドとしたいが、欲をかけばここまで手にしたチップを全て失う。彼はコールをしない。手にしたチップを抱えてのゲーム離脱を望む。



「智里くん」

「しゃちょ……う」

 魔術名コードネームミートメイカー、本名:橋本 智里のかすれた瞳が、彼女の王を見上げた。彼女は血を吐き、ヒューヒューと苦し気な息を吐いた。彼女のセックスの価値を高めてくれた豊かな乳房の片方も、喪われてしまった。

 医者は? ――いや、傷が深すぎる、彼女に残された力では間に合わない。橋本 智里の命はもう、長くなかった。



 狂気の王は、指の折れ曲がった智里の手を取り、悲し気な表情を浮かべた。彼の秘書でボディーガードとはいえ、超能力を持たない彼女の戦闘力は雷光や拳骨射手ゲンコツシューターに劣る。彼女を戦場に出し、かの死神と戦わせればこうなってしまう事は、決して想像できない事ではなかった。


 ベルゼロスにその喪失の覚悟はあったが、やはり哀しいものは、哀しかった。


「本当は君もテンタクルランスと共に本社を防衛させるべきだった。済まないと思っている。――だが僕は、最高の馳走を得たかった。友のために宴を開きたかった。そのために、君の力が必要だった」

 ベルゼロスはその想いを智里へと語った。歪んだ想いではあったかもしれないが、そこに薄っぺらな建前や偽りはなかった。



 智里が血を吐いた。胸からは血が噴き出した。不満のない日々だった。刺激に満ち、暴力に満ち、金に満ち、モノに満ち、セックスも満たされ、薬も好きなだけ手に入り――



 ――あの日にはもう、帰れない。



 右の乳房の喪失と、間欠泉のように噴き出て止まらない血しぶきが、彼女の日々が今はもうマッチ売りの少女が見る一瞬の幻にしか過ぎないことと、彼女自身の生命いのちが不可逆な死に向かっていることを、自覚した。


 消えてしまう。暗闇に呑まれてしまう。



(そんなの、イヤ――)


 橋本 智里が口をぱくぱくとさせた。

「た……て……」

 もはや、言葉が言葉にならなかった。


「そうか、わかった」

 ベルゼロスは頷いた。彼は自身に宿る果て無き狂気によって、彼女の「たすけて」という声にならない叫びを「たべて」と理解した。

「僕と一つになろう。大丈夫、君は僕の中で永遠に生き続ける」


「まっ……」

 智里が自らが王を止めようとしたが、言葉を伝えられなかった。血を吐いた。


「君の生まれた意味を忘れない」

 狂気の王にはもう、智里の表情は見えていなかった。彼は彼女のシャツを破り、その腹を露出させた。そして両手を合わせ、食前の祈りを捧げた。


「いただきます――」







 聖餐が行われた。







 グチャ、グチャと、その音を耳にする者すべての正気を奪う咀嚼の音、蚊の啼くような橋本 智里の、最期の断末魔が戦場に響いた。


「余計なものを見るな」

 異常を察知したローズベリーが目線を向けようとするのを、ファイアストームが遮った。代わりにファイアストームは、そのおぞましい光景を見た。


 ファイアストームの正気は蝕まれ、耳鳴りと共にその視界を歪ませた。ファイアストームが雷光の蹴りを受ける。追撃の斬撃で死神を倒そうとする雷光をローズベリーが阻み、蹴り返した。


 手が差し伸べられた。ファイアストームはその手を掴み立ち上がろうとした。



 彼が掴んだのは、無機質なマネキンの手だった。

「わたし、レイくんの事が好き」

 マネキンの頭部に釘で打ち付けられたモノクロコピーの写真が、坂本 レイを見下ろしていた。

「――でもそれって、本当の気持ちだったと思う?」



「やめろ……それでも俺は、お前を愛していた」

 ヘルメットに覆われた彼の表情は、窺い知れなかった。


「あぶない!」

 ローズベリーの伸ばした蔓のロープが、膝立ちで呆然とするファイアストームの手を掴み、引っ張った。彼の身が強引に引き寄せられる。その場所を白紫の雷撃波が通り抜けていった。



「……済まない」

 ファイアストームは正気を取り戻した。幻覚は消えていた。銃撃で警備兵を撃ち殺す。間もなく輸送ヘリが自分達を回収に来てくれる。それに乗り込んで、戦場を離脱する。


 撤退しながら戦う二人は爆破されたホール出入り口にまで到達していた。輸送ヘリとの合流地点まで残り20メートル足らず。雷光は死に物狂いで戦っているが、撤退を阻止できない。それどころか満身創痍で、2対1の状況の中、いつ死神にトドメの一撃を見舞われても不思議はない状況。


 屋上も既に制圧済。ヒートウェイブは何者かと交戦を繰り広げるも、敗れ、死んだ。無線で報告があった。


 ファイアストームらサン・ハンムラビ・ソサエティの勝利が目前に迫っていた。



 だがベルゼロスは立ち上がった。彼の全身も、そしてその顔も、血で真っ赤に染まっていた。ミートメイカーこと橋本 智里は、死んだ。その最期は、介錯と呼ぶにはあまりにもおぞましすぎた。


 それでもベルゼロスは口角を吊り上げ、笑顔を作った。無知蒙昧むちもうまいな下層民を率い、未来へと導き、雲の上に座す絶対王者としての振る舞いを見せた。銃撃の被弾によって裂いた頬に、大きなえくぼを作った。


「死神、君は強すぎる。僕の大切にしていたお人形が喪われてしまった」

 ベルゼロスは死神向けて宣言した。

「君を、本気の本気の力で、殺さなきゃいけない」



 血まみれの顔で、両手で、彼は左腕を突き出し、もう片腕を腰の前で構え、深く霊的な呼吸を行い、全身にエーテルを巡らせながら、左手で弧を描いた。


 そして、その言葉を口にした。

「変――身――――」





 ――――世界が闇に包まれた。


 ファイアストームは、ローズベリーは、狂気の王の中に潜む邪悪な高次元自己存在ハイアーセルフと、それを地の底で支える大いなる怨念の渦が生み出す、恐るべき魂の叫びを聞いた。




 WE WANT YOUR MEMORY.

(お前たちに美しい思い出は必要ない)


 WE WANT YOUR FORTUNE.

(富の全てを寄越せ)

 WE WANT YOUR FAMILY..

(家族を寄越せ)

 WE WANT YOUR FRIEND.

(友人を差し出せ)

 WE WANT YOUR PLACE.

(お前たちに居場所はない)

 WE WANT YOUR LOVE.

(愛する者を犯し尽くしてやる)


 WE WANT YOUR SMILE.

(笑顔を寄越せ)

 WE WANT YOUR DELIGHT.

(喜びの全てを寄越せ)

 WE WANT YOUR TEARS.

(涙の全てを寄越せ)

 WE WANT YOUR ANGRY.

(怒りさえも我々のものだ)

 WE WANT YOUR HATE.

(憎むことさえ許さない)

 WE WANT YOUR FAITH.

(祈りを、信条を、思想を全て否定する)



 WE WANT YOUR LIFE.

(我々はお前の命を奪いたい)

 WE WANT YOUR DIGNITY.

(我々はお前の尊厳を奪いたい)


 WE WANT YOUR PAST.

(過去も)

 WE WANT YOUR FUTURE.

(未来も)

 WE WANT YOUR ALL.

(すべてが我々のものだ)



 WE WANT YOUR S O U L .

(その魂を、黒く塗り潰してみせる)





 ベルゼロスの全身が光に包まれ、光は出口へ向かう二人へと、目にもとまらぬ速さで飛び出した。

 ローズベリーはこの速度に反応できなかった。ファイアストームは反応したが、危うかった。もしこの時に彼の正気が揺らいでいたなら、この突進に反応できなかっただろう。


 ファイアストームは脚部ソードオフ・ショットガンを引き抜き、散弾を二発放った。散弾を受けながらもベルゼロスは突進。ファイアストームはローズベリーを突き飛ばした。


 ベルゼロスが突きを放った。ファイアストームはショットガンで攻撃を受けた。ファイアストームは狂気の王の姿を見た。異形そのものだった。


 胴と首は巨大なはえの如し。四肢は人狼の如く長く、逞しく。両肩からは蠅の頭を持った首が一つずつ、計三つの頭を持ち、背には蠅の巨大な羽根が開いている。


「これが僕の真の姿だ」

 蠅の腹から、大きな蛆が飛び出した。うじは畑 和弘の顔をしていた。


 ベルゼロスの貫手はショットガンを貫き、破壊した。ベルゼロスはファイアストームを掴み、ホール内へと引きずり込んだ。そして蠅の醜き羽根によって空を飛んだ。



 天井まで飛ぶと、天井を蹴って反転。ファイアストームを捕まえたまま真っ逆さまに地面へと向かった。

 これはまさしく、人智を越えし者だけが再現可能な幻の忍術「飯綱イズナ落とし」……!!


 ――地上に激突。ベルゼロスのみが激突の寸前、自らの飛行能力によって空中へと逃れた。




 ファイアストームは受け身こそとったものの、超高速で脳天から落とされる必殺の対空投げを受けた。災厄の暗殺者といえども、無傷では済まなかった。


 専用装備ノーザンヘイト、ヘルメット左ターレットレンズ、破損。装甲亀裂、危険……! ファイアストームは一度立ち上がるも、よろめいて膝をついた。


「……お似合いの姿だ。その姿でフレンチでも食べに行くと良い」

 空中で構える聖餐の蠅の王に向け、ファイアストームは中指を突き立てた。


「「「「君を食い殺してから、ぜひそうさせて貰おう」」」」

 ベルゼロスは急降下爆撃蹴りを放つ! ファイアストームは力を振り絞り、飛んで回避する。ファイアストームは左ザウエルで銃撃! ベルゼロスはそれを弾き、回避しながら迫って来る! ベルゼロスが左の貫手を放つ! ファイアストームは右手でそれを掴み、投げる! 左一本背負い!


 ベルゼロスは宙を舞い、空中で姿勢を整える。その隙を狙ってカスール砲、発射! ベルゼロスを撃墜! しかしエーテルフィールドが分厚く、カスール砲を以てしても傷が浅い!




『ハニービー3、到着。早く乗り込んでくれ!』

 ハンムラビの輸送機到着の報告が入る。窓の外には組織の輸送ヘリの姿。ローズベリーの拳が深く突き刺さる。

「クソッ……こんな……」

 雷光は壁にもたれかかり、崩れ落ちた。



『ファイアストームさん! ヘリが!』

 ローズベリーがエントランスで呼びかける。振り向くと、おぞましい姿をした名状しがたき異形の悪魔と、死神が争っていた。あまりに激しい戦いで、ローズベリーにさえ戦いの全貌が理解できなかった。


『ローズベリー! お前だけでも先に行け!』

 ファイアストームは弾幕を張りながらローズベリーに単独の撤退を指示する。


『でも!』

『俺はリトルデビルと脱出する! リトルデビル、来い!』

 ファイアストームがテレパスで呼びかけると、リトルデビルから

『アイアイサー!』

 と、応答があった。


「行け! ローズベリー、行け!」

 ファイアストームは叫んだ。両の拳銃をホルスターに収め、突進してくるベルゼロスの拳をマチェットで受け止める。ローズベリーは床に転がる死体を見ないようにして、脱出用の輸送ヘリのある方へと駆けた。


「お前の相手は俺だ……!」

 ファイアストームは唸るように言った。彼はパワーでベルゼロスに圧され、ジリジリと後退させられていた。


「それでも良いけど……本当に良いのかい?」

 狼の爪と死神のマチェットとで鍔迫り合いをしながら、ベルゼロスはふいに尋ねた。

「何だと……?」


 するとベルゼロスは、こう言い放った。

「確かに僕にはジョーカーがある。だけどいつ、僕自身がジョーカーだと言った? ……僕の役割は、キングだ」

「まさか……ハニービー3、ローズベリー、下がれ!」

「もう遅い」




――☘



 ヒートウェイブを倒し屋上の制圧を済ませたバケットヘルムは、上空に浮かぶアパッチヘリを見た。戦況優勢。階下で戦うファイアストームとローズベリーも脱出間近。上司は少々てこずっているかもしれないが、リトルデビルが発進した。問題はない。


 バケットヘルム自身も攻撃ヘリにぶら下がり、戦場を離脱しようとしていた。


 ――その時、彼は夜空に輝く星々を見た。それはハンムラビと、それに与する者たちに滅びをもたらす凶星の輝きだった。



――☘




『――超能力者サイキッカーバケットヘルム、戦闘不能ダウン!!』

 ミラ8号からの信じられない急報が、ファイアストームの耳に届いた。


『何だと!?』

 既に屋上は制圧した。敵超能力者もバケットヘルム本人が既に倒したはず、一体何が――。




 ――直後、夜の闇を一筋の光が奔った。その光は、輸送機を貫いた。輸送機が機体から火を噴き、破損したプロペラの部品を飛ばした。


 機体の安定を失って、輸送ヘリは大きく傾いた。高度を更に落とし道路向かいのビルの一つに激突し――大爆発を引き起こした。地獄の炎によって夜が明るく染まった。


 ローズベリーはハイアーセルフの助けで瞬時に逃れるも、その場で唖然とし、血の海の上でへたりこんだ。


 窓の外を、未来的なフォルムの、ゴーカートほどの大きさのミニチュア宇宙戦闘機が二機、駆け抜けて行った――。


『ハニービー3、戦闘不能ダウン

 ミラ8号が告げるのは、無慈悲な脱出用輸送機の被撃墜報告だった。続けて、二つの激しい爆発音が聴こえた。

 報告を聞かなくても、一体何の音かは明らかだった。


『ハニービー1、ハニービー2、戦闘不能ダウン

 予想通りの報告。戦闘ヘリ二機が一瞬で撃墜された。一瞬にして戦力の大半を失った。何故だ。



 答えは、タスク警備保障が残す最強戦力【メテオファイター】が操る超宇宙戦闘機型ドローンがビーストヘッド本社から発進し、到着に至った事。





 ――そしてもう一つ。



(涼子ちゃん、危ない!!!!)

 ローズベリー=ハイアーセルフが涼子に強い警告を発した。


「必ッィィ殺! スパイラル・サイクロン・キイイイイィィィィィィック!!!!!」

 闇を切り裂く一陣の強風が、戦場へと吹いた。


 窓の外からメタリックな緑のアーマーに身を包む乱入者が、恐るべき必殺のアフターバーナー・キックを放った。


(ネット防御! 今すぐ!)

 ローズベリーはハイアーセルフからの指示で、過去のソフィアとの戦いの記憶を辿り、手と手を繋ぐつるのネットを作りだした。もしこの防御技を出せなかったら、



 ――彼女はここで死んでいただろう。




 強烈な蹴りが蔓のネットをブチブチと突き破り、ローズベリーの胸に刺さった。彼女はロビーエリアの壁に飾られた絵に背中から激突した。


「かはっ……!」

 ローズベリーが、血の飛沫しぶきを口から吐いた。




 さらに夜空にもう一つの光

「必殺! スパイラァァッァァル! サイクロン――・キック!!!!!」

 同じくメタリックに輝く緑のアーマーを全身に着込んだ存在が夜空を飛ぶと、同様のアフターバーナー・キックを放った。それはホテルロビーを通過し、ホールで死闘を繰り広げるファイアストームへと向かった。


 ファイアストームがエア・トゥ・エアキックで迎え撃った。死神の黄泉の色に輝くアイカメラが、大きな青い瞳のヘルメットを見た。そして肩の青い腕章と、右胸に刻印された「7」の数字。そして左胸に刻印された、暗黒の太陽を輝かせる六芒星の紋章を見た。


 ファイアストームの全身の血が怒りと憎しみに湧きたった。

「貴様らは……ッッ!」

 たとえ、戦いの中ですべての人間性を失い、大切な思い出のすべてを忘れてしまったとしても、この紋章だけは忘れてなるものか――――。





 ファイアストームが打ち負けた。ファイアストームは吹き飛ばされ、受け身を取りながらステージ正面の壁へと激突した。



 もう一人の乱入者は残心を決めると飛行能力を解除し、床へと着地した。


「到着が遅れてすまなかった――でも私が来たからには、もう大丈夫だ」

 赤い腕章を肩にかけ、メタリックな緑のアーマーとヘルメットに身を包む存在が、穏やかに語りかける。だが、即断で少女に暴力を振るい膝をつかせた存在の、その語りかけはどこか虚しく、そして底知れぬ不気味をたたえていた。


 必殺の蹴りを受けたローズベリーはズルりと、力なく倒れ込んだ。


「私たちはヒーロー、そして私は、陣風戦隊サイクロンがリーダー。レッド・サイクロン」


「俺はブルー・サイクロン。悪の下位人かいじん共、覚悟しろ」



 二人の乱入者はそれぞれ名乗り、彼らが憎む悪を――ファイアストームとローズベリーを睨みつけ、構えた。

「「――ここからは、私達ヒーローが相手だ」」





EP検閲OD検 079 「墨墨墨処刑墨墨墨墨 ACT:6」



…………



……



【すべてはこの日のために 013】

EPISODE 079 「処刑人(ヒーロー)は遅れてやってくる」



次回「墨塗墨塗墨塗墨塗墨塗墨塗墨塗墨塗墨塗」 墨塗 墨塗 墨塗【検閲】



……


…………




新番組:陣風戦隊サイクロン【検閲済】


第一話!

「さらば! 善良なる起業家の成功を妬む憐れな怪人! 惨たらしく死ね!」

【検閲済】



 ――悪の下位人かいじんは、正義の名のもとに滅ぶ。



【制作:国家英雄伝記 制作委員会】

【承認:日本英雄団体連合会】

【映像配給:央宝株式会社】


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