077 すべてはこの日のために:11


【すべてはこの日のために 11】

EPISODE 077 「死神は処刑台に舞う ACT:4」



 殺戮のホールが振動し、パラパラと天井の欠片が降り注いだ。

「何だ?」

 異変に気付いたベルゼロスが怪訝な表情を浮かべた。


「お前たちに末端が知らされていない切り札の温存がある事はわかっていた。お前たちが彼女をどうしようとするかもだ。反吐ヘドの出る人間なら山ほど見て来た」

 ファイアストームはベルゼロスを睨み言った。ローズベリーは戦場に転がったノーザンヘイトのヘルメットを発見し、蔓のロープで掴み寄せる。


「罠だと判っていて、俺が本当に二人だけで、無策でここに乗り込んでくるとでも思っていたのか? ――舐めるなよ」

 ローズベリーから受け取ったノーザンヘイトのヘルメットを装着。ヘルメット後部が閉鎖され、密閉。死神のヘルメットの右のカメラアイが黄泉の空の如き金色に輝いた。




 ――☘



「バケットヘルムおよびハニービー1。そろそろ作戦域に侵入するぞ!」

 上空では超能力塗装済の透明化攻撃ヘリ「アパッチ」が戦場となるホテルに急速接近していた。中世の十字軍騎士を彷彿とするようなバケツ形のヘルメットを被り、鎖帷子とその上には騎士用の白いサーコートを身にまとっている男が、攻撃ヘリの下部にぶらさがっていた。



『エージェント:バケットヘルム、戦場内には魔術結界が展開済みです。戦闘行動に悪影響を受けるので注意を』

 バケットヘルムの左肩にはミラ8号のキューブ型ドローンが触手で結びついている。


「それ、このまま入っても大丈夫なのか!?」

『周辺は許容範囲内のエーテル濃度のようですが、侵入前後の武装使用は控えてください。境界線で魔術結界を刺激すると最悪の場合、強制テレポート、からの即時ヘリ墜落も考えられます』


「あー、勘弁しろよ。戦闘はともかく、そういうオカルト対策は得意じゃないんだからさ」

 バケットヘルムが東京の夜空の上で不満の声を漏らした。厳しい冬の風が彼を横から殴りつける。


『それと――』

「まだあるのか!?」

『敵が祈り手を前線に投入中。ホール内では呪歌の詠唱が行われています。有効射程の狭い歌ですが、影響そのものには十分な注意を』

「最悪すぎるだろ!」

『ファイアストームが敵性の祈り手を攻撃中なので、効果は徐々に低下中ですが……』

 と、ミラは慰め程度に付け加えた。


「あーもう、そう願うぞ……! 頼むぞ上司……!」



 バケットヘルムは頭を掻きむしりたい気分だったが、右手にはロングソード、左手はヘリから伸びるワイヤーを掴み、腕には盾を保持。掻くべき頭は彼の魔術名コードネームにも由来するフルフェイスのバケツ型の金属ヘルメットが覆っており……到底その願いは叶わなかった。


 バケットヘルムを抱えた攻撃ヘリが魔術防空圏を破って侵入! ホテル全体を覆う魔術結界がバケットヘルムの身を襲う。数百年漂い続ける魔女の呪いが空に溶ける半透明の女性の姿を取り、バケットヘルムの頬を撫でる。力が抜けるような不快感を彼は覚える。


「うおお……やっぱキツイ」

 だが耐えた。攻撃ヘリとバケットヘルムはホテル上空に辿り着いた。

 真下のヘリポートを見る。対空用の機銃が三門。そして銃を構え、互いに目を凝らしてヘリの方角を伝え合う者たち……超能力由来の透明化塗装とはいえ、超能力者や訓練を積み超常耐性を獲得した者であるならば、見破れないほどの手品だとはいえない。


「チッ、もう気づかれたぞ! 俺はこのまま行く! ヘリは距離を取れ!」

 ヘリポート中央に立つリーダー格の男が指差し合図すると、兵士たちが撃ち始めた。狙いはまだバラバラだが、このままではヘリを堕とされる。ヘリ下部にしがみつくバケットヘルムは振り子状に勢いをつけて……跳んだ!



「ファイアストーム、まだ生きてるか!? 超能力者サイキッカーバケットヘルム、戦闘開始エンゲージ!」


 バケットヘルムが屋上向けて飛ぶと共に、航空戦力への指示をミラ=エイトが行う。

『HQミラ=エイトよりハニービー1へ。攻撃を許可。マイクロミサイル発射後は一時退避せよ』

『ラジャー。ハニービー1、攻撃を開始。その後一時退避する』


 バケットヘルムは宙を舞う、真下には東京の深い闇が奈落のように広がる。着地に失敗すればこのまま真っ逆さまだ。バケットヘルムは弾幕を掻い潜り、ホテル屋上のヘリポートに見事回転着地した。


 攻撃ヘリは一瞬だけ透明化を解くと、挨拶代わりのマイクロミサイルを四発射出!

 機銃の一基と敵集団を吹き飛ばしながらも、ミサイルの一機が空中で迎撃された事を確認すると、制圧をバケットヘルムただ一人に一任して再度透明化。距離を取る。



 バケットヘルムは立ち上がり、左手の盾を構え、前へと突き出した。


「ホーリーサークル、発動!」

 超能力者サイキッカーバケットヘルムの頭部フルフェイスヘルメット正面に刻まれた十字型カメラにピンク色のモノアイの輝きが浮かび上がった! バケットヘルム、能力発動! 彼を中心点とする巨大なオーラの光球が展開しホテルを包む!



 ♦能力名【ホーリーサークル】。能力は強化魔術バフ! 定命モータル超越者オーバーマン超能力者サイキッカーを問わず、彼を中心点とする広域に強化フィールドを展開! 使用者本人も含め、範囲内に存在する味方すべての戦闘能力を押し上げる!



 ――☘


 ローズベリーの飛び足刀、エア・トゥ・エアキック! ブラックキャットの指導によってその技の切れ味はかつてよりも更に鋭くなっている! だがベルゼロスは蹴りを見切り、足を掴んでローズベリーを地に叩きつける!


 ホーミングスラッグ弾が横からベルゼロスの側頭部を狙う! ベルゼロスはブリッジ回避! ファイアストームは雷光の放つ拡散電撃を回避し、後ろに下がる。


 ――マチェット抜刀! 後ろから斬りかかったミートメイカーの刃を背面受け! GREAT! 左のソードオフ・ショットガンでミートメイカーの腹をズタズタに引き裂こうと狙うも、引き金を引くより早くベルゼロスが阻止にかかる! ベルゼロスの蹴りを躱してローリングし、発砲! ベルゼロスは跳んで避ける!


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 人を越えしものたち五人が入り乱れての乱戦! しかし魔術結界と呪歌が及ぼす悪影響によって攻めきれず、ファイアストームたちは若干圧されている。


強化魔術バフのお届け物だ! 気に入ってくれよ!』

 その時屋上で戦闘を開始したバケットヘルムの能力、ホーリーサークルの恩恵がファイアストームら二人に届いた! 弱体化を受けている二人の身体能力と魔力が底上げされ、互いの瞳が輝いた!


『待っていた! ローズベリー!』

『はい!』

 二人が反撃に転じた! ローズベリーの両の肩甲骨から蔓が伸び、雷光の刀を受け止める。雷光が刀から電撃を流し込もうとするが、それより早くファイアストームが彼女の蔓を切断、感電を回避する。


 左手武器をザウエルP226ハンドガンに持ち替えたファイアストームは連射! 弾幕で三人の敵に対して防戦を強いる。

 ローズベリーは蔓のロープでシールド警備兵からシールドを強奪。それを構えて突撃!


 狙いに気付いた三人が阻止に向かうが、ファイアストームが立ち塞がり、三人の行動を阻む! ローズベリーはジェラルミンシールドつきのつるのムチで祈り手を薙ぎ払った――。




 ――☘


 バケットヘルムは能力を発動させると敵戦力の排除に向かった。真っ先に排除すべきは航空戦力によって有害な固定機銃! 警備兵を一人斬り伏せ、対空用の固定機銃の一つに向かうと警備兵を盾で殴り飛ばし、銃身にロングソードを振り下ろした! 二基目を破壊!


 バケットヘルムを戦場に投下した攻撃ヘリは撃墜を避ける為一時距離を取っている。バケットヘルムは最後の機銃の破壊に向かうが……彼の眼前に飛来する炎の刃が迫った。バケットヘルムは火炎を側宙回避!


「あー……上司の言う事は聞いとくもんだわ……」

 バケットヘルムが正面の敵を見据える。その場の警備兵のリーダー格の男が緑の警備服を破り捨て、この寒さと風にも関わらず、上半身裸となった。その男の全身からは熱気が立ち昇り、東京の夜空を白い湯気によって多い尽くすかのようだった。


「あんた、もしかしてヒートウェイブ?」

 バケットヘルムが尋ねる。

「そうだ」

 男は肯定した。どうやらこの男が、アパッチヘリの放ったマイクロミサイルの一発を撃ち落とした張本人のようだった。



 彼こそはベルゼロスの飼いならすタスク警備保障の残すサイキッカーが一人にして、本作戦の屋上守備隊の前線指揮官、超能力者サイキッカーヒートウェイブだった。


「ビンゴ」

 バケットヘルムは不敵に鼻を鳴らした。雑魚は何人もいるが、超能力者サイキッカーとおぼしき敵はこの一人だけ、その上こいつは「対策済み」リストの一人。


 バケットヘルムは負ける気がしなかった。彼は背負った対 発火能力パイロキネシスサイキッカー用 鎮圧用特殊消火剤の入った消火器に思いを馳せた。






EPISODE「死神は処刑台に舞う ACT:5」へ続く。

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