怒りのステルス・アタック! ACT:2


EPISODE 048 「怒りのステルス・アタック! ACT:2」



 任務中のブロードソード、クランクプラズマを急襲したサイキッカー、ファイアストームはマチェットを背に戻すと、一歩前に踏み出る。威圧的な歩みに敵方二名は思わず一歩後ずさる。


 ファイアストームは闇の中で右の瞳を金色に輝かせながら、威圧的、かつ無慈悲な通告を行った。


「聞きたいことは色々あるがその前に……貴様らは我々の領域を侵している。さしあたってはその代償を血によって払わせる……祈れ」



「クランクプラズマ、気を付けろ、コイツかなりやるぞ」

「判ってる」



 コォォォォ……。屋上の死神のヘルメットの防毒機構から息を吐く音が漏れる。


 ブロードソードは既に左肩を負傷。クランクプラズマもダメージを負った。この敵は只者じゃない。話には聞いていたが、もしかするとコイツが例の、拳骨射手とアイアンハンドを殺ったというサイキッカーか。……だとしたら、かなりの強敵だ。



 二月の夜だというのにブロードソードの額に脂汗が滲む。正直逃げたいが、背中を見せれば一瞬で殺られると、彼の本能が告げている。この局面を乗り切るには殺害勝利、あるいは撃退し撤退、このどちらかにしか道はないだろう。




 死神は多くの思考時間を与えてはくれない。早速、左右のホルスターから二丁のザウエルピストルを引き抜くと、躊躇なく銃撃。それぞれ弾丸の軌道が変化し、死をもたらすために迫って来る。



 一発、二発、ブロードソードは斬撃でこれを防ぐ。三発目、彼のガードをすり抜け脛に命中。防具があるため貫通はしないが、鈍い衝撃が金属を削り、彼の足の動きを止める。


 次にクランクプラズマへと向かう弾丸。側転し弾丸を回避するも、その回避を上回る追尾性能でクランクプラズマに追いつき、弾丸が次々刺さる。


 クランクプラズマは両腕で急所を守り、エーテルフィールドを全開にしてガードを行うが、火力を二丁共クランクプラズマへと集中させ、情け容赦のない射撃を行う。


 四発目、五発目、六発目……七発目にして早くもエーテルフィールドが抜かれ、七発と八発目はクランクプラズマの腹部と左脚を貫通。入りは浅くまだ致命傷ではないものの、全体的な戦局で言えば既に予断を許さない状況へと一瞬にして傾く。



「ぐあああああ! 畜生!」

 追い詰められたクランクプラズマが激しい炎の嵐に晒されながらも、左の掌を屋上の死神へ向けると、左腕のクランクレバーを前方に一回転させた。


 すると彼の掌から緑色に光るプラズマショットが発射される。ファイアストームはこれを回避。


「グウ、畜生……」

 クランクプラズマは左腕クランクを内側に急いで回転させながらも片膝をつく。急所は辛うじて避けているものの、無視できるダメージではない。危うく一瞬で勝負が決まる所だった状況に、二人のサイキッカーは戦慄する。



「お前は後ろに下がれ! 俺が相手をする」

「言われなくても」


 これ以上クランクプラズマが狙われると彼の命がその暴風に吹き消されかねない。ブロードソードは相棒を守るため剣を構え死神へと立ち向かう。



 ファイアストームは素早く敵の能力を分析する。一方はあの腕から緑色に発光するプラズマショットを撃ちだす射撃型、ただし緊急時にもクランクレバーの操作を手放さなかった事から、左腕に取り付けられたクランクを操作する必要があり、片手では射撃不可と思われる。どちらか片腕を斬り落とせば無力化可能。



 もう一人は剣を生成する能力。見た目通りの近接型か。武器にエンチャントされた追加効果等があるかは不明。前衛を前に出し、後衛を下がらせることは成程セオリー通り。




(教育者の顔が浮かぶようだ)

 ファイアストームの脳裏に前回の戦闘で殺したサイキッカー、拳骨射手の姿が一瞬浮かんだ。



 弱った敵は立ち上がれなくなるまできちんと叩くべし。エーテルフィールドを一度割られ弱ったクランクプラズマへ執拗な銃撃、そこへブロードソードの介入。自らの剣を投擲し、銃弾を撃ち落とす。



 味方を守る判断としては良いかもしれないが、結果的には悪手。武器を自ら手放した事でブロードソードは丸腰に。それを死神は見逃してはくれない。今度は丸腰のブロードソードへと複数回の銃撃。



「再起動(リブート)!」


 だがブロードソードは能力を終了させ、道路上に投げ出された剣を消失させると、能力を再起動。新たに生成された幅広の剣が彼の手元に現れ、向かい来る四発の銃弾を次々斬り落としてゆく。



 ファイアストームもさらにこれに対応。再び火砲を二つに分け、二人を同時に攻撃。ブロードソードは高い反射神経と優れた剣捌きで銃弾を二発撃ち落とす。一発を迎撃し損なうも、金属製の胸当で攻撃を受けたため、ダメージは浅い。


 クランクプラズマもプラズマショットで一発を撃ち落とすも、二発目を撃ち落とそうとした所、弾丸がカーブしプラズマショットによる迎撃を避ける。ブロードソードがまたも剣を投擲し、クランクプラズマの被弾を間一髪防ぐ。


 クランクプラズマが応戦し、射撃する。ファイアストームはプラズマショットに連続射撃し、これを相殺。ファイアストームはここでフラググレネードの2.3でも投げ込みたい所だったが、民間人や周辺への被害を考慮し、これを行わない。隣の民家の屋根へと飛び移りながら、自身の能力によってザウエルのマガジン内部への直接給弾を行う。



 クランクプラズマは空中のファイアストームを狙おうとするが、ブロードソードが叫び静止する。

「クランクプラズマ! 撃たなくていい! 今は限界までチャージしろ!」



 クランクプラズマは手前に倒しかけたクランクレバーを後ろに倒し、言われた通りチャージ数を増やすことに専念する。




 クランクプラズマの能力名は【スピニングエナジー】。


 左腕をクランクレバー付きのプラズマエネルギー弾発射砲塔へと変形させる能力。ファイアストームの読み通り、射撃にはクランクレバーの操作を必要とし、エネルギーチャージされた状態でクランクレバーを前方に倒す事によってプラズマ弾の発射が可能。

 また、クランクレバーを後ろに回す事によってエネルギーチャージ。拳骨射手の能力のように出力増加させるいわゆる”溜め撃ち”をする事は不可能だが、クランク回転によって生ずるチャージによって最大三十発分を装弾する事が可能。



 クランクプラズマにチャージの猶予を与える為、ブロードソードが決死の斬り込みを仕掛ける。まずはファイアストームの着地を狙い、屋根向けて剣を投擲。ファイアストームは着地態勢から両膝を畳んで仰向けになり剣を躱す。


 ブロードソードも期待はすれど、この攻撃がこの相手に有効打足り得るとは本気で思っていない。素早く能力を再起動、幅広の剣を持つと塀を蹴り上げ屋根へ! そのまま民家の瓦もろとも引き裂く切り上げ。

 ファイアストームは転がって斬撃を回避。ブロードソードは切り上げた刃を構え直し、今度は振り下ろしの斬撃!


 ファイアストームも応えるようにして抜刀。左手で引き抜いたマチェットを水平に構え、両腕の腕力で斬撃を受け止める。

 斬撃を受け止めた格好のまま、左腕義手【レイジング・ゲアフォウル】の腕部内臓マグナム発射機構がそのくちばしを開く。


「!!」



 ――轟音。



 ブロードソードが間一髪で頭をずらし、最悪の事態を回避する。しかしエーテルフィールドの展開が遅れた結果、彼の頬の一部と右耳が一瞬で吹き飛んでしまった。遅れて血が噴き出て、焼けるような痛みがやってくる。閃光の影響でブロードソードの右の視界が白くかすみ、この危機的状況で視界を悪化させる。


 ファイアストームは左足でブロードソードの右腹を蹴り飛ばす。視界悪化のせいで攻撃を防げず、もろに空中に吹き飛ばされる。


 空中のブロードソードを追ってファイアストームも跳ぶ! そしてマチェットによる振り上げの居合一閃! 狙いは籠手! ブロードソードが狙いに気付き、とっさにエーテルフィールドを展開するも、斬撃がブロードソードの右手首を深く傷つける。同時に斬撃のダメージで自身のコードネームの由来でもある幅広の剣を取り落とし、無防備な状態に。


 ブロードソードが能力を再起動させるよりも速く、ファイアストームは更なる追撃。ブロードソードのアゴを右手で掴み、そのままチョークスラムの要領で地表に叩き落とした。


 戦場で弱った敵はその瞬間から獲物に成り下がり、狩られる運命にある。ファイアストームはローズベリーの前で自らその無慈悲なる戦いぶりを実践する。


 ファイアストームは空中でマチェットを背に戻し、再度二丁のザウエルを引き抜くと、それぞれに二発ずつ銃撃。



 落下しながら能力を再起動させていたブロードソードは地表激突により頭を強打。受け身失敗により肺を圧迫。しかし落下の最中、二丁の拳銃を引き抜く死神の姿を見た時、ブロードソードは自らが為すべき事を見出した。


 あろうことか銃口を向けられた状況で、ブロードソードは呼吸さえままならぬというのに、うつぶせとなって死神にその背を向けた。そして自身に残された渾身の力を振り絞り、左手で剣を投擲、狙いはクランクプラズマの方角へ飛んでいった銃弾。――これもクランクプラズマを守り、勝つ為だ。



 ブロードソードの放った剣がクランクプラズマに向かった二発を撃ち落とすと同時、クランクプラズマは叫んだ。

「フルチャージだ!!!」


「全弾撃ち尽くせ!!!」

 ブロードソードも叫び返す。



 ――直後、死神の放った二発の弾丸が背中を晒し無防備となったブロードソードの身体を貫いた。



「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

 クランクプラズマは咆哮。彼の瞳と頭髪は緑色に発光し、バチバチとプラズマの輝きを身にまとう。



「受けて立つ」

 ファイアストームは能力使用による直接給弾によって金色の細かい粒子を散らしながら路上へと着地。マチェットを引き抜き構え、右の瞳を金色に燃やした。


 ブロードソードが命賭けで稼いだのはクランクプラズマの最大連続発射可能数、三十発分フルチャージという、彼が最高火力を発揮可能な環境を提供する事だった。



 クランクプラズマは左手を突き出し、右手を左腕クランクに添え、そのクランクレバーを前方へとがむしゃらに回した。クランクプラズマ残弾三十発、連続射撃開始!




 クランクプラズマが撃つ! ファイアストームがマチェットで斬り払う! クランクプラズマが撃つ! ファイアストームが斬る! 撃つ! 斬る! 撃つ! 斬る! 撃つ! 斬る! 撃つ! 斬る!

 ファイアストームのマチェットが耐久限界を超え緑色に溶解! クランクプラズマ、残弾二十四発!



 無傷の死神に対しクランクプラズマ、ブロードソード両名共に既に満身創痍、この残弾が尽きれば即ち死!


 撃つ! 溶解したマチェットを投擲し攻撃相殺! 撃つ! ファイアストームは転がって避ける! 撃つ! さらに避ける!

 その時戦場に無知なる侵入者! ファイアストームらの戦闘に気づかぬ一般人の車両が遥か後ろからゆっくりと走って来る。


 クランクプラズマは尚撃ち続ける! これを更に避ける事は出来る。だが、後ろにサイキッカーの戦いに気づかぬ一般人の車両。



 彼が動けば後ろの人々の命は一瞬にして失われる。


 前方と後ろには、彼にしか視えない灰色の女性の影が立ち、口を大きく開き彼をあざ笑う。





 ……ファイアストームは決断!



「SHIT!」

 ファイアストームは回避の足を止め、素早い二連続射撃で前方の幻影ごと飛来するプラズマ弾を打ち抜いた! クランクプラズマ、残弾二十発!


 クランクプラズマが撃つ! ファイアストームが迎撃! 射撃! 迎撃! 射撃! 迎撃! 射撃! 迎撃! 射撃! 迎撃! 射撃! 迎撃!


 金色の光と緑色の光が空中でぶつかり合い、炸裂する。全身全霊でレバーを回し続け、プラズマ弾の雨を降らすクランクプラズマと、それを受けて立つファイアストームとの、命と命、魂と魂のぶつかり合いはあまりにも激しく、この中の誰もその間に割って入る事などできなかった。


 射撃! 右側:装弾数十五発のザウエル最後の一発を放つと、左のザウエルを引き抜き、そちら側の一発を追加し相殺!


 クランクプラズマ、残弾十三発、対するザウエルP226、右残弾ゼロ、左残弾十四発。


 なお撃つ! なお迎撃! 射撃! 迎撃! 射撃! 迎撃! 射撃! 迎撃! 射撃! 迎撃! 射撃! 迎撃! 射撃! 迎撃!


 ファイアストームは左のザウエルで迎撃を行いながら懐からスタンダード・デリンジャーを引き抜き、二発発砲! デリンジャー弾はクランクプラズマへとは向かわず、発射直後クルリと180度反転し彼の真後ろへと飛んでゆく。

 狙いはファイアストームの後方から接近する車両、エーテル複製.22LR弾が車両に備えられた二つのサイドミラーを破壊。これもサイキックを正常に認知できない民間人をこの戦場にこれ以上近づけさせない為の警告射撃だ。

 超常現象を正しく認識できなくとも、サイドミラーを破壊された車が異変に気付いて停止する。



『ファイアストーム、十分です。もう避けてください……!』

「まだいける」



 左ザウエルP226、残弾ゼロ。クランクプラズマ、残り七発を残す。


 ソフィアが回避行動を推奨するが、ファイアストームは車両を背に一歩も退かない。

 彼女と視界感応状態にあるローズベリーが、息を飲んでその戦いを見守る。



 コォォォォォォォォ……! 死神は瞳を金色に輝かせ、頭部の防毒機構から音を立てて息を吐く。



 ファイアストームは右のデリンジャーを投げ捨て、左のザウエルをホルスターに素早く収めると、左腕義手マグナム弾発射機構を展開。


 クランクプラズマが撃つ! 展開した義手から轟音と共に.454カスールが吐き出されプラズマ弾を破壊する。


 レイジング・ゲアフォウルの装弾数は三発。残弾は二。


 クランクプラズマが撃つ! 左腕マグナムによる迎撃!

 クランクプラズマが撃つ! 左腕マグナムによる迎撃! レイジング・ゲアフォウル、残弾ゼロ!



 クランクプラズマ、残すところ四発。 一方ファイアストームは今のマグナムの一発を以て手持ち火器が一巡。すべての弾薬を使い果たしたと思われた。だが


「給弾済だ」


 左のザウエルと左腕義手による砲撃の間に【孤高の戦争遂行者(ワンマンアーミー)】による能力給弾をファイアストームは既に済ませていた。



 ファイアストームの放った二発の光がプラズマショットを迎撃。


 現在ザウエルP226、右:十三発、左:十五発、計二十八発。左腕マグナム、給弾中……彼の持つ圧倒的な火力量がクランクプラズマの前に砦の如く立ち塞がる。



 クランクプラズマは最後の抵抗。クランクレバーの回転と共に残された計三発のプラズマショットが撃ちだされる。……だが死神は非情だった。彼は右のザウエルからエーテル複製9mmパラベラム弾を計六発吐き出すと、彼の刃を無慈悲にし折った。



 クランクプラズマは尚レバーを回すが、ブロードソードが命賭けで稼いだチャージ分を今の射撃分を以て使い果たし、その左腕からカチ、カチと虚しいクリック音を響かせるだけだった……。




EPISODE「怒りのステルス・アタック! ACT:3」へ続く!

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