第二節 主人公:ファイアストーム プロローグ
Opening Execution:ACT1
for project 「Developing Psychicer's!!!」
and 「Psychic Butterfly」
作:エイジツ イバラ
暗黒街のヒーロー
- A Tear shines in the Darkness city. -
第一章「ファイアー・イン・ザ・レイン (邦題:雨の中の灯火)」
第二節【Opening Execution 】
主人公:暗殺者 ファイアストーム /坂本 レイ プロローグ。
EPISODE「ヘヴィ・レイン」
「The Light shines in the darkness, and the darkness did not comprehend it. 」
(意訳:光は闇の中に輝いている。闇がこれに打ち勝つ事は無かった。)
――ヨハネ福音書 一章五節 より引用。
強者が弱者を虐げないように、正義が孤児と
――ハンムラビ法典より。
――――元号
高度成長期とバブルが生み出した100万ドルの東京の夜景が、闇を静かに進むヘリコプターの真下に広がる。
ヘリコプターの内部で、一人の男性が腕組し物思いにふける。今回の任務の話を最初に受けたのは、今から一月ほど前、まだ年が明ける前の事だったか……。
☘ ☘
――急な依頼にも関わらず、本部まで直接お越しくださりありがとうございます。エージェント:ファイアストーム。
ファイアストーム。そう呼ばれた紺のスーツを着こんだ白髪交じりの男が、床、壁、天井に至るまで黒一色の会議室に足を踏み入れる。
議室に居るのは彼とファイル類を抱えて立っている女性職員。会議室の座席に置かれたノートPCから、その職員とは別の女性の声がスピーカーを通じて聞こえる。
「ミラ、暗殺依頼と聞いた」
「その通りです」
スピーカー越しに女性が肯定した。
「受注判断は慎重に行いたい。依頼主、処刑対象、処刑事由、すべて教えてくれ」
ファイアストームは通勤カバンを床に置くと、椅子に座る。
「今回の
「頼む」
するとミラは説明を始めた。
「一年ほど前、
その際、喧嘩を止めに入った会社員の男性が全身にやけどを負う重体。植物状態で、未だに意識が戻りません。その方の奥方が、1人目の
「なるほど」
「これがその事件の資料です」
職員女性が、無言でファイルをファイアストームに手渡す。それらをパラパラと軽くめくると、その中の一枚の資料を見てファイアストームが言う。
「警察資料では、誰も刑事起訴されていないことになっているが」
「その通りです」
ミラが即答する。
「……」
「続けます。その後、あなたが言うように誰も刑事起訴されなかった事に不満を持った者が居ました。事件当時に飲食店の店長だった男性です」
「それが2人目か」
「いいえ。その店長は、
ファイアストームがページをめくる。
「――店で起こった火災で職を失った男が、口論の後にパチンコ店の駐車場でわざわざ焼身自殺か?」
「そのようです」
ファイアストームは次のページの写真と資料を見て眉をひそめると、皮肉たっぷりにこう述べる。
「焼身自殺なら普通は全身火ダルマだろう。この被害者の火傷は首から上と両手に集中していて、胴体から下はほとんど焼けてない。こんな自殺をとっさに思いついて実行するとは、被害者は生前からそれほどまでにクリエイティブで独創的な人物だったのか?」
「”事実なら”大変惜しまれる独創性と天性のセンスです。……少なくとも警察は”自殺”と、そう処理しました」
「ふむ、責任者のその上あたりが不可触(アンタッチャブル)な事案と判断した?」
「そのようです。とにかく、その自殺扱いとなった男性のご遺族が、2人目の
「おおよそ事情はわかった。大学生、一人暮らし、家庭環境……普通だな。”ダストシューター”たち2人に任せてやったらどうだ。仕事を必要としているし、こういう相手をスマートに”消す”のなら俺よりずっと綺麗に、静かに仕事をする。後処理も凄い楽だろ」
「そうなのですが……」
ミラが口ごもると、ファイアストームは即座に理由を言い当ててみせた。
「超能力者(サイキッカー)か。能力は発火能力(パイロキネシス)か、それに類する能力」
「ご明察の通りです。可能性はかなり濃厚です」
「一件目はともかく、二件目の自殺が不自然すぎる。口封じあたりで
――それでも”ダストシューター”なら魔術戦も出来る。実力はまあまああるし、ほら、あいつら家族いるし、送金とかのためにも……。
☘ ☘
――数か月前のミッションで追跡・捕獲に失敗したエージェントの尻拭い? 俺が適任?
いや、事前に相談してくれる分には別に構わないよ、そういうのは。
確かに俺なら、そいつが世界のどこに逃げ込んでも、どこに隠れても、そいつがどんな能力を持っていても、どんな武器を持っていても、誰がそいつの味方でも
そいつが死すべき存在なら、殺すべき理由があるのなら、
必ず見つけ出して、追い詰めて、
足を潰し、手を潰し、心臓を潰し、頭を潰し、
必ず抹殺する。
「エージェント:ファイアストーム。そろそろ予定降下地点です」
ヘリコプターの操縦桿を握る若い男性の呼ぶ声で、ファイアストームは現実に引き戻される。
「準備はいつでも出来ている」
黒い帽子を被った男性が、ヘリの後部で応答した。ヘリコプターは高度を下げ、大型スーパーの屋上駐車場の上へと移動する。
「会場はここから2km先、対象の情報と、深夜なのでこれ以上はヘリの音がミッションに影響をきたすかもしれません。このあたりでもよろしいでしょうか」
「ありがとう、十分だ。後は徒歩で接近する」
「了解。どうかご無事で」
操縦士とのやり取りを終えると、ヘリ後部に同乗する中年女性が、大きく揺れる輸送ヘリの扉を開ける。同時に、横から殴りつけるかのような激しい雨と風、そして冷たい風が黒帽を被るファイアストームの身を襲った。
帽子が飛ばされぬよう、彼は左手で軽く帽子を押さえる。
「今日は最悪の天気だ。滑って転ぶなよ!」
中年女性が大きな声で隣の黒帽の肩を叩くが、その大声さえも風の音でかき消されそうだった。
「行ってくる」
ファイアストームは頷くと、ヘリから垂らされたロープを手にし、地上へと降下していった。
「Opening Execution :ACT2」へ続く
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