1話 冒険を始めるには 4
【パーティーを組んでくれる仲間を募集しています! 当方は最近冒険者登録をしたばかりの「ビーストテイマー」です。 初心者大歓迎! 一緒に頑張って、冒険を楽しみましょう! お昼過ぎから夕暮れまで、酒場の窓際の席で待っています!】
そんな内容の募集の紙を貼り付けた私は、用紙に書いたとおり窓際の席を陣取って誰か来ないかなー? とワクワクしながら待ちます。 とはいえ何も注文しないで居座り続けるのは悪いですし小腹もすいたので、私はウェイトレスさんを捕まえて適当に軽食を注文します。
「は~いかしこまりました! 注文入りましたー! スモークリザードのハンバーグ定食ご飯大盛一丁、セットのエリスコーヒーお願いしま~す! ………はぁ」
ん? どうしたんだろう?
ウェイトレスさんは厨房に向かって注文を伝言するやいなや、小さくため息をつきました。
「お疲れですか?」
「え? あ、あぁごめんなさい! お客さんの前で…………」
「気にしないでください! ここってお昼を過ぎても結構忙しそうですもんね」
「まぁ、ここは駆け出し冒険者の街なんで、冒険者の総人口はやっぱり多いですし、しょうがないっちゃしょうがないんですけどね……お昼時と夜は特に大変ですよ。 なのにお昼の時に来た二人ときたら……」
ウェイトレスさんの表情が段々と曇っていきます。
よく見れば他のウェイトレスさんたちも、お客さんと接していないところでは微妙に疲れた顔をしています。
「何かあったんですか?」
「あぁいえ、大した事じゃないんですけどね。 お昼ごろ丁度忙しい時間に、ヘルプで入った人が二人いたんですけど…………その二人がどうも変な人達で、一人は勝手にお酒を飲んで、お酒が注文されたら変わりにお水を運んだりして……」
それはひどい。 仕事中に何やってるんですか。
ウェイトレスさんは「しかも私は飲んでない~勝手に水になっちゃうの~なんて言い訳するんですよその人」と付け加えて、
「もう一人は、サンマの塩焼き定食が注文で入った際に、店長が『サンマの補充が切れたから裏の畑から2匹獲って来てくれ~って言ったんですよ」
ふんふ…………ん? え、畑?
「そしたらその人なんて言ったと思います? いきなり『なめんな!』ってキレだしたんですよ! …………まぁ、モチロンすぐに店長が叩き出して、大事にはならなかったんですけど……――あの、なんでそんなに目をキラキラさせてるんです?」
「え!? い、いや、なんでもないです!」
畑にサンマがいるの!? え、もしかして生えてるの!? すっごーーーーい! なんて思っていたらどうやらそれが顔に出ていたようです……ウェイトレスのお姉さんがちょっと引いた顔しているのがちょっと寂しいなぁ。
だって、サンマって言ったら普通海で獲れるものじゃないですか。 畑で獲れるって聞いたらちょっと面白そうだから見てみたいって思うじゃないですか! すっごくファンタジーじゃないですか!!
「まぁつまりは、人員が増えて少しは楽になるかなぁなんて思ってた矢先にあんな事になったので、みんなガックシきているんですよ……」
言葉のまんま、肩のガックシと落とすウェイトレスさん。
うーん、なんだかちょっと気の毒だなぁ…………あ、そうだ!
「あの、もし良かったらなんですけど、夜、私ヘルプに入りましょうか?」
「え!? そ、そりゃあ助かりますけど、良いんですか? 受付でのやり取り見てましたけど、パーティーメンバー募集のためにここで待ってるんですよね? ちなみに接客の経験は?」
「構わないですよ。 むしろ雇ってもらえるなら働き口が確保できてラッキーです! ここで待っている時間も、夕暮れまでって書いておきましたし。 あ、ちなみに接客経験はありますよ。 持ち運びはあまりした事無いですけど、注文やお会計ならやっ」
「店長ーーーーーー!! 夜にヘルプ入ってくれる人確保しました!!」
「たことありますよ」と続けようとしたところでウェイトレスさんは私が注文したときよりも大きい声で厨房に伝えます。 厨房からも「よぉし、よくやった!」と勢いの良い返事が帰って来ました。
「それじゃ、今夜の19時から23時辺りまで、宜しくお願いします♪」
「あ、はい」
自分から言ってむしろ希望通りになったとは言え、そのあまりにも早過ぎるテンポに私は引きつった笑みを浮べる他ありませんでした。
「ふわぁ……こっちの世界でも夕日は綺麗だなぁ……」
テーブルに肘を立てて頬杖をつきながら、酒場の窓を眺め、一人ごちました。
私が住んでいた町で見える夕日もこの位綺麗で、下校する時は畑の見える帰り道を歩きながら、よく眺めていました。
なんだろう。 まだこっちに来て二日も経っていないのにもう前の世界のことを懐かしんでる。 ていうか来ないなー…………。 やっぱり初心者冒険者って言うのがダメなのかなぁ?
といっても、実は1,2回程声を掛けられる事自体はありました。 といっても、
『はぁ……はぁ……お、お嬢ちゃん可愛いねぇ……ぼぼぼ、僕が君を守っ「他をあたってください」』
『ぬふふふふ……君、なんだか見ているだけで興奮するなぁ……襲われちゃいけないから僕が「あなたに襲われそうなので警察の人呼びますね」』
と、なんか妙に熱のこもった――――というか危なげな目つきをした中年男性しか寄ってこなかったので、それは全部丁重にお断りしました。
うーん、難しいなぁ……というかやっぱりセーラー服がダメなのかなぁ? ……ま、まさかこの格好は、セーラー服という概念が存在しないはずのこの世界でもちょっとしたフェチズムを感じさせてしまうとか!? だからさっきからちょっと気持ち悪い感じのおじさんしか寄ってこないとか!? そういうことなの!? ううぅ…………となるとやっぱりナイフだけじゃなくって服装もどうにかしてからじゃないとダメなのかなぁ……。
そうなると冒険できるまであとどの位バイトしていなきゃダメなんだろうか、なんてまだここに来て2日目だというのにそんな甘っちょろい事を考えながら頭を抱えていた、そんな時でした。
「……仲間を募集しているビーストテイマーというのは君かい?」
来たああああああああああああああああああああ!! しかも声からしておじさんじゃない! 一体どんな人が……ッ!
私は顔を上げて、その声の主の顔を確認します。
声を掛けてきたのは、顔に嘴のような仮面を付け、黒いローブともマントとも取れる衣類を羽織った黒い髪の剣士でした。 身長はとても低くて、年齢でいえば12、3歳位でしょうか。 右の腰に剣は携えていますが、明らかに子供です。
そしてその子は羽織ったマント(?)をバサァ! と広げ、その仮面の端を帽子のつばの様にクイッとつまんで、
「我が名はきゅーかっぱ! 『魔剣士』を生業とし、『暗黒魔法』を操りし者!!」
そう、名乗りました。
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