1話 冒険を始めるには 3
異世界に来て二日目。
天気は快晴。 私の心はドキドキワクワク! そんな絶好の冒険日和なお昼過ぎ。 私はお天道様のお膝元で、声高々に叫びます。
「いらっしゃいいらっしゃい! 今日は獲れたてのバナナがお買い得! あ、そこの奥さんどうですか? 今なら1房300エリスのバナナが、2房買うことで500エリスになるので大変お買い得ですよ!」
「ん~、そうねぇ……でもたくさんあっても飽きちゃうしねぇ……」
なるほどなるほど。 確かにそれはわかります。 バナナって腐りやすいもんね。
ですが!
「それなら大丈夫です! 1房はそのまま食べるとして、2房目はリンゴとオレンジと一緒に細かく刻んでミルクに入れて一晩寝かせれば、美味しいフルーツ牛乳ができるんです! そうすれば、飽きる事は無いと思いますし、牛乳とフルーツを一緒に頂けるので、健康にも良いですよ!」
「へぇ~、それは良いわね! じゃ、バナナを2房ちょうだい。 あと、オレンジ2つとリンゴも1つ貰うわ」
「ありがとうございます! じゃあちょっとおまけして……全部で700エリスになります!」
「はいはい……じゃあこれで丁度ね。 ありがとうね~」
「いえいえ! お買い上げありがとうございました! また来てくださ~い!」
私が快くお客さんをお送りしながら大きく手を振っていると、後ろから店長に声をかけられます。
「ツミレちゃんお疲れ様! ちょっと早いけど、もうあがって良いわよ! ツミレちゃん接客上手いし笑顔は可愛いしとっても助かるわぁ。 あ、これ今日の分ね。 ちょっと色つけておいたから♪」
「わぁ~! ありがとうございます! それじゃあ、お疲れ様でした! 失礼します!」
「はぁい、また宜しくね!」
「はい!」
本日のお仕事を終えた私は、制服として着用していたエプロンと引き換えに日当のお給料袋を受け取り、お店を後にします。
ふんふん…………ちょうど5000エリスかぁ。
拘束5時間弱でのバイトとしてはまずまずですね。 ふっふっふ……ゲーム欲しさに親と学校に頭を下げてファーストフード店で働いていた時のスキルが生かされました!
…………え? なんで私がバイトしているのかって?
まぁ、私としても早くクエストとかを受けて冒険したい気持ちは山々なのですが、いくら後衛職とはいえ今のまんまだと丸腰過ぎるので、パーティー募集に応募しても私が募集しても仲間になってくれる人はいないと思うんですよ。
だから軽い装備でも買えるようにするために、こうやってバイトをしているわけです! それにこれはこれで楽しいですしね!
そんなわけで、現在の私の所持金ですが、この世界に来る際にアクア様から頂いたお金が大体1万エリス。 1日目に消費したお金が、登録料とリンゴとお風呂代とご飯代と宿泊費(馬小屋)で計3000弱程度。 そして今のバイト代を入れて今の所持金はだいたい12000エリスちょっとといったところです。
やー、初日で宿屋ではなく馬小屋を選んだのは正解でした。 やはりその二つで金額は雲泥の差だったので。 それに馬小屋に泊まるって憧れあったんですよねぇ~! ホラ、RPGの最初って結構馬小屋で過ごすとか多いと思うんですよ。 それで試しに泊まってみたら、やっぱりお馬さんや藁の匂いがして、あぁ……最初冒険者は皆ここから寝泊りを始めるんだなぁと感激しました。
そういえば他の部屋から「馬小屋なんかで寝られるかー!」とか「仕方ないでしょー!」とか騒がしい声が聞こえたんですけどなんだったのでしょう? なんか聞いたことある声だったような……………………ま、いっか!
さてさてそれよりも、これからの私の予定は決まっています。
まずは武器屋に行くのです! ビーストテイマーは魔物関連のスキルの他に短剣、投剣、鞭のスキルが有って、私はその中でも一番扱いやすそうな短剣を選ぶつもりです。 ナイフとかだったら1万エリスも行かないですし、それに実はもうどのナイフにしようか決めてるんですよね~♪
そんなわけで、レッツゴー!!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
無事武器屋で欲しかったナイフを購入(頑張って値切って6000エリスで買えました!)した私は、次にギルドに来ました。 目的はモチロン、仲間を集めるためです! もう丸腰じゃないので、初心者ではありますが募集くらいはしてもいいでしょう。
そんなわけで私が今いるのはギルド内の掲示板の前です。 ここにはクエストの張り紙だけでなく、仲間募集のための張り紙も貼られています。この中の物を参考にして募集用紙を書こうと思います。
「んー、これが良いかな?」
私はその中の丸文字ながらも達筆な文字で書かれた募集用紙を手に取ってみます。
えーっと、なになに……
【パーティーメンバーを募集してます。 優しい人、詰まらない話でも聞いてくれる人、名前が変わっていても笑わない人。 クエストがない日でも一緒にいてくれる人。 前衛職を求めています。 できれば歳が近い方。 当方――――】
なんでしょうこれは。 彼氏募集か何かでしょうか? 確かにギルドは出会いの場ではありますが、結婚相談所じゃないんですからこういうのは良くないと思います。 他の真剣に仲間を探している人達に失礼ですよまったく! こんなものを書いた犯人を見つけたら説教してあげましょう。
まぁとにかくこれは戻そう。
あ、でも書き方はうまいし纏まってるなぁ。 内容はともかく書き方は参考にさせて貰おう!
私は手のひらを返すようにそう決めると、カウンターに行って受付のお姉さん(昨日と同じ人)に用紙を貰います。
「はいどうぞ! ついに仲間を募集するんですね!」
「はい! といっても、まだナイフしかまともな武器のない初心者なので、仲間になってくれる人がいるかどうか……」
不安な表情を見せる私にしかし、お姉さんは安心させるようににっこりと微笑んで、
「そんなに気にすることはないですよ。 最初は皆誰しもが初心者ですし、むしろ他の初心者の人が初心者の人の募集を見て応募したがる例なんて良くありますしね! あ、そういえば初心者で思い出したんですけど、実は昨日ヒビタさんの後と今日の朝で、ヒビタさんをも上回るルーキーが4人も現れたんですよ!」
ほほう、チート能力を持つこの私を上回る人がそんなに。
興味が湧いたので私はそのままお姉さんの話の続きを聞くことにします。
「どんな人たちなんですか?」
「そうですねぇ……皆かなり個性的でしたよ。内2人は正確には初心者とも微妙に違うんですけど、アークウィザードという上級職魔法使い職で、2人ともヒビタさんより若い女の子でしたね」
なんと、それはスゴい。私より年下で上級職とは。
ちなみにビーストテイマーは、上級職ではないそうです。 残念。
「3人目は、知力と運以外はとんでもない数値を誇る青い髪のアークプリーストですね。 この人は凄いですよ! 知力と運以外は本当に見たことのないくらいの高さでした。 きっと只者ではないと思いますよ! …………色々な意味で」
なんでしょう。 喜ばしい事のはずなのにお姉さんの顔には微妙に憂いが見えます。
さ、3人目についてはあまり長く触れないほうがよさそうですね。
「え、え〜っと……4人目はどんな人だったんですか!?」
「え? ……あ、そうですね、もう1人は…………うーんと…………」
4人目の特徴を言おうとしたところでお姉さんの口が止まりました。
? どうしたのかな? なんか目が泳いでるけど……
「どうかしました?」
「あぁ、いえ、その人の事はあまり意識しないほうがいいかなぁって……正直、なんで冒険者を目指そうとしたのかわからないくらいに…………まぁ、珍しい職業ではあったので、見かけたらすぐにわかるかもしれませんね」
前半で濁した言葉が微妙に気になりますが、珍しい職業とは興味深いですね。
「ちなみにその職業というのは?」
「はい。 その方の職業は――――――」
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