7. 回想――あの日も人が来て


 獲物を深追いしすぎたせいで森の奥まで踏み込んでしまった、そう言って猟師は少女に助けを求めてきました。動物たちのことを考えると猟師に味方するのは申し訳ありませんでした。ですが弱っている人を見捨てるわけにはいきませんし、死にかけた猟師が最後の力を振り絞って動物たちに危害を加えないとも限りません。

 少女は猟師を家に招き入れ、水と簡単な食事を出しました。連れられていた猟犬にもミルクをあげました。

 最初のうち、彼はとても感謝していました。

 ですが、テーブルについて雑談をしているうちに、すこしずつ様子が変わっていったのです。


「親御さんはどこにいるのかな?」


 少女が「いません」と答えると、猟師はいぶかしげに目を細めました。しかし幼かった少女は、自分が心配されているのだと思ってこう言ったのです。

 動物たちが助けてくれるから平気です、話し相手にもなってくれるのですよ、と。

 それが決定的でした。彼は飛び退くように立ち上がり、壁に立てかけていた猟銃を引っ掴みました。


「魔女か……」


 猟師は苦々しげにつぶやいて、少女に銃口を向けます。

 どうしてそんなことをされるのか、少女には理解ができません。ただ、銃が危険なものだということだけは知っています。

 とっさに猟犬へお願いしました。

 彼を止めてください、と。

 猟師が引き金に指をかける寸前に、猟犬は彼の手元へ体当たりしました。猟師がうめくと同時に銃が部屋の隅に弾き飛ばされます。猟師が状況を飲み込めていない隙に、少女は銃を拾い上げました。


「どうしてわたしを撃とうとしたのですか?」


 少女にとって、それはただの純粋な疑問でした。ですが猟師は冷や汗をかいて顔をこわばらせます。目を剥いて、息を荒げて、ただただ恐れおののくばかりです。不思議に思った少女が猟師へ歩み寄ると、彼は転げるように玄関へ飛び退いて、


「ば、化け物め」


 震える声で吐き捨てて、銃も犬もかえりみず一目散に家から駆け出していきました。

 猟師が森に消えるのを見送ってから、少女は銃を置いて、残された猟犬の頭を撫でました。


「わたしは、化け物なのでしょうか」


 返事を期待しないままつぶやきます。

 少女は、物心ついたときからこの家で暮らしていました。本もそのときにはすでに置いてありました。親の顔は、もちろん見たことがありません。気づいたときには、動物たちと話しながら難しい本を読む生活をしていました。

 それが普通ではないことは、本を読んで気づきました。それに動物たちからも言われるのです。

 小人さん。いつの間にか森にいた、人間のようななにか。

 動物たちに悪意はありません。少女自身も、似合っていると薄々感じてはいます。ですが、それでも不意に嫌になることがあるのです。


「……帰りたいですよね」


 少女は玄関の戸を開けながら、猟犬に語りかけます。


「うさぎや鹿を襲わないようにしてくださいね」


 猟犬はうなずくように一度吠え声を上げて、森の中へと駆け出していきました。

 置き土産の猟銃は、家の裏へ埋めました。

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