忘来花子さん -黒柳蓮太郎の話-
* * * * * * * *
オカルト研究装本 語り手
FILE No.2: 黒柳 蓮太郎(くろやなぎ れんたろう)
忘来小学校 6年生
忘来歴:11年
* * * * * * * *
僕の友だち、即ち黒柳
だから怖い話は何個か知っているはずだと思いこみ、ぼくは彼に怪談を頼んだ。
だが、それを聞いて彼は「頭がおかしくなったか」とぼくの話を一蹴した。
食い下がられないで頼んでいると彼は仕方なしに「自分と同じぐらいこわい話マニア」というを紹介してくれた。
それが彼の弟の蓮太郎くんだった。
木曜日の放課後、約束に指定された橋の下に行くと蓮太郎くんは待っていた。
僕を見るなり肩を竦め、「どーも、実無のにーちゃん」とぶっきらぼうに言って、兄に似た鋭い目付きを寄こしてくれた。
橋の下にいるので、年下なのに影が深く怪しげな雰囲気を醸し出していた。
ボイスレコーダーの準備を終えると、彼は静かに息を吐いた。
「それじゃ、始めさせてもらうぜ。後悔してもしらねーぞ?」
* * * * * * * *
201×年 5月13日(木) PM 16:01
最初に名前とか言う感じか? オーケイ、わかった。
おれは、
忘来小学校の六年生だ……こんなもんでいいかな?
じゃあ、早速、話させてもらうぜ。
そういや、実無の兄ちゃんって、まだ忘来に来てから十年はまだ経ってねえよな?
たしか、実無が引っ越してきたのが、小二の時だったからな……え? ああ、実無ってのはアンタの妹のことな。
多分、おれのアニキにも釘をさされたと思うけどさ。
忘来の怪談は全部が全部あるってワケじゃねえってことは知ってるよな?
交通がいいから。自然がいっぱいあるから。おばあちゃんと同居するから……そんな理由で引っ越してきたヤツらもたくさんいるんだ。
他の地域の怪談とミックスしちゃっている……ってことは、少なくない。必ずしもこの町の人が話す怪談は、全てこの町で起こったことであるっていうわけじゃないんだ。
だから、研究材料にするときは、よく注意したほうがいいぜ?
まっ、おれの話は全部根っからの忘来であったことだから安心してくれよ。
そのことを頭に入れておいて……。
今回おれが話すのは、
忘来花子さん――その名の通り、おれの学校にいる花子さんのことさ。
一度ぐらい聞いたことあるかな?
でも、もしも聞くネタに困ったとき……特に相手も
おんなじ話でも、人によって少しずつビミョーなところとか、語りって違うだろ?
口裂け女の撃退方法が、地域によってちがうのといっしょでさ。
人によって違いがくっきり表れるのが、この「忘来花子さん」の話なんだ。
「花子さん」っていうと、他県のヤツらは「トイレの?」って言われるけど、おれの小学校の花子さんはどこにでも現れるんだ。
夕方の五時過ぎ――大人たちはよく「オウマガドキ」って言ってるけどさ。そのぐらいの時間に現れることが多いんだって。
でも、かなり珍しい存在らしくて噂だけが広まっている状態だ。それも色んな形で現れるパターンの話でさ……トイレだけじゃなくて、誰もいない体育館やプール、職員室にも出たっていう噂もあるぜ。「花子さんは複数人いる」とも言われているぐらいだ。
それでな、おれも忘来花子さんに会ったんだ。
話すヤツによって容姿は違うけどな……あれは確かに忘来花子さんだろうって、おれは言い切れる自信があるものに出くわしたのさ。
たしか、去年の十月頃だったかな。
おれは
一言でいえば、巴はどんくさくてのろまなヤツ。
だけど、お喋りで華があるっていえばいいのかな?
おっとりしてて一部の女子からは『もえちゃん』なんて言われてさ、不思議なオーラがあるんだ。ただ、親友にはなりたくねえタイプ。たらたらしてて女々しくて嫌いじゃねえがちっと苦手だ。
なんとか連続十回までいけたところで、トス練習は終わった。
時間は夕方の五時。小学生は帰っていないと怒られる時間帯だった。
四階の教室に戻って二人でさっさと帰り支度をしていたときだ……嬉々としたおれのクラスメイトが扉を開けて入って来たんだ。
そいつの名前は
体育は好きだけどクラブではそこまで活躍していない。そんでもって勉強はからっきし。声や態度はいっちょまえで、エロいことへの反応も鋭い。時代が変わってもどこのクラスにも一人はいるお調子者ポジションのヤツだ。こういうヤツは、決まった親友がいない。誰とでも仲良くなるタイプだろうな。
そいつは入って来るなり、こう言ったんだ。
「おれ、さっき忘来花子さんに会った!! すげーだろ!!」
……信じたかって? いや、信じられるワケねえだろ。
「はいはいそうですか」って聞き流して、おれはランドセルの蓋を閉めて背負ったよ。おれの態度に水橋も気づいたのか、慌てて大きな声で言い張った。
「本当にいたんだってば! 信じろよ!」
「信じてほしいなら、忘来花子さんに、いつ、どこで会ったかを話せよ」
「今さっき! あそこで!」
そう言って、水橋は指で廊下の方向を指した――おれは、呆れて溜息を吐いた。
全然話が見えてこなかった。
そもそも水橋のヤツは、勉強キャラじゃねえから、説明もあんまりうまくないんだよな。
おれは信用できなくて話を切り上げていたけどな。
……ただ、隣の巴のヤツがうんうん頷いている上に興味津々でやんの。
巴は水橋となぜか仲がよかったんだよ。「すいちゃん」「モエ」って言いあうちょっと気持ち悪い仲だった。
アクが強いもん同士、なんか気が合ったのかもな。
「ほんとぉ、すいちゃん。いいなぁ、いいなぁ」
「だろ? いいだろ? すげーだろ?」
「うん、すごいすごい。ねえ、花子さん、かわいかった?」
「かわいいかは……うーん、おれ、声だけ聞いたんだけどさ」
『声だけ』っていうところに、おれは疑問が湧いた。
気になるキーワード持ち出すなよって思いながら、おれは水橋から話を聞き出すことにしたよ。
「ドヤ顔するより、本当にいたっていうなら、まずは話せよ。忘来花子がどこにいたかとかさ」
「だから、あそこだって」
「チンパンジーのほうがまともに説明できるっつーの。言葉使えよ、アホ」
「っるせえ! だから、階段だってば、あそこの!」
「るっせえのはお前だ。階段ってどっちだ、下りか?」
「屋上に行く階段!」
やっと聞き出せて、おれはどっと疲れてしまった。
……口が悪いって? いや、水橋の言葉の使い方が悪いんだよ。
「ってことは、屋上にあがる階段で忘来花子の声を聞いたってことか?」
「そーだって、言ってんだろ!」
「言ってねえだろ」って吐き捨てたかったけど、堂々巡りだからやめた。
それよりも、おれは声だけ聞こえるっていうことに興味がわいた。
それが忘来花子かどうかは正直わかんねえけどさ。
でも、声が聞こえるっていう現象が面白かった。
「えーとな…………あっ、そーだ! 声、聞かせてやるよ! おまえらに!」
「ええっ、すいちゃん、ほんとに! 花子さんにいまから会えるの! あっ、でも明日にしない? もうおそいし……」
「巴は帰っていいよ。おれは気になるから、今から行く」
「ワルだなあ、クロも! なあ、モエもいこうぜ!」
「ええ……? うーん……どうしよ~。花子さんはみたいけど~……」
悩んでいた巴におれたちはアイツの腕をつかんで、無理矢理、廊下に連れだした。巴は悩む時間が長すぎるから待っていると日が暮れる。
のんびりした悲鳴をあげながら、巴も行かせることにした。なにか見に行くときには仲間が多い方がいいからな。
水橋を先頭に、おれたちは屋上に向かう階段をのぼった。
それでさ、おれたちの間では「屋上まで続く階段は上っている最中も、降りている最中も、振り返ってはいけない」っていうウワサがあるんだ。
だから、おれたちは慎重に階段はのぼったんだ。
たきゅ、たきゅ……っていう上履きの足音だけが階段に響き渡った。
もちろん、踊り場につくまでは誰も振り返らずにのぼりきったよ。
屋上の扉には古い南京錠がかけられているんだ。
南京錠はダイヤル式ってヤツで、五桁の数字を並べ替えて開けるんだ。
番号は先生たちが知っているはずなんだけど、気がつけば変えられてるらしくて、時々先生でも開けられない人がいるんだってさ。
おれは踊り場に辿り着いて、水橋に「で?」とうながした。
「階段で声聞こえたんだよな? どの辺で声がした?」
「しらねーし」
水橋のこの答えに、おれはカチンときた。
階段で神経質になっていた分、なおさらムカついたのさ。
連れてきておいて、なんだよその答え……おれは胸倉をつかみかけたが、巴に「やめて!」って止められた。
でも、腹が立ったのは確かだから、嫌味は言っておいた。
「出た。やっぱり、だましたのかよ? 口先ばっか」
「ちげーし! ほんっとーに、ここにいるんだってば!」
そう言って、とんとんとん、と水橋は屋上の扉をノックしたんだ。
なにしてんだよ――って、どつこうとした……その時だった。
『あーけーて』
扉から声が女の子の声が聞こえた。
低学年ぐらいのあどけない声色だったかな。
おれは思わず扉から離れるように後ずさりしてしまった……階段が後ろにあるってことに気づいて、そこまで後ずさりできなかったけど。
巴のヤツは、顔真っ青で水橋の腕をつかんだ。
「……っ、ね、ねえ、すいちゃん、いまなにか言った? 言ったでしょ!?」
「おれの声じゃねーし! ほ、ほら! だから、言っただろ! この声っ!」
水橋はそう言って、おれを見て勝ち誇ったような引きつった笑顔を見せた。
なんだかんだ粋がってた水橋も怖がってたよ。
でも、無理もないと思うな。おれもちょっとだけ怖気づいたぐらいだから。
おれはここである話を思い出したんだ。
クラスの女子から聞いた話でさ……忘来花子さんは屋上にいるって噂だ。
話によると、なんでも昔、二年生の女子が、苛めっ子の手で南京錠で屋上に一週間、閉じこめられて死んじゃったんだ。
それで……その子が死んじゃってから、屋上での飛び降り自殺が増えたんだ。
「きっと忘来花子さんが遊び相手を探して、生徒を殺しているんだ」
そう言われて、屋上への扉には南京錠がつけられるようになった。
そして、忘来花子さんは屋上を開けてくれる人を待っている……っていう噂さ。
でも、あくまで噂だし創作も入っていると思うけどな。
飛び降り自殺が増えたなんて事実はきっとないだろうから。
……って、おれは思っていたんだ。屋上の扉から声が聞こえてくるまでは。
あの話がマジだったら、どうしよう……って、さすがに思った。
鼻で笑っていたはずの話が、実際あったことだったら笑えない。
おれは額の冷や汗を拭いながら、その声に話しかけてみたんだ。水橋のヤツらは完全にビビッちまってるからな。
「なあ、忘来花子さんか?」
おれはなるべく普段通りの声で呼びかけてみた。
もしかしたら震えていたかもしれない……思い出せないけどさ。
一分ぐらい待ってみたけど、女の子の声は返ってこなかった。
「……なあ、声だけじゃなくて、ちゃんと姿も見たいんだけどな。見せてくれないかな?」
おれはそう言ってみたが、だんまりだった……。
最後の一言は余計だったかなってちょっと思った。
『みたいなら、あーけーて』
「クロ、余計なこと言うなよな」と、今度はおれが水橋にぼやかれた。
仕方なくおれはドアにじりじりと近づいてみたよ。
南京錠に手をかける……前にドアにつけられた小窓をそっと覗くことにしたよ。
多分、なんも映んないのがセオリーだと思うしさ。
だがよ、窓の外で、青白い小さな手がにゅっと出てきて、ひらひらっと揺れたんだ――おれはついに背筋が凍った。
その手はすぐさま引っ込められたけど、おれたちは確かにその「手」を見逃さなかった。後ろで窺っていた水橋も巴もパクパクと口を動かして縮こまってたぐらいだ。
屋上に、なにかいる……おれは酸っぱくなったつばを飲みこんだ。
『あーけーて。あそびましょ』
おれたちが固まっている中、もう一回、女の子の声が聞こえた。
その時、ドアの取っ手につけられた南京錠が揺れた……ように見えた。
もしかしたら、これは、おれの錯覚かもしれない。
他のヤツらに「揺れなかったか?」とは聞く勇気はなかったよ。
「ね、ねえ……先生にあけてもらおうよ?」
「アホか。忘来花子さんがいるのでカギ教えてくださいって言うんか?」
「だっ、だって……閉じこめられてかわいそうだよ……それに、遊びたがってるもん」
「モエ、本気かよ!? 花子さんと遊びたいとかマジで言ってんの!?」
本人がいるのに、よくもまあ好き勝手言えるもんだよな……。
おれは水橋に肘鉄しながら「こえっ」と口パクして注意した。
手の震えを抑えながら、おれは南京錠も手に取ろうとしたが……やめた。
「な、なあ。もう、帰ろうぜ」
水橋はおれたちに耳打ちした……ヤツの言う通りだった。
かたまってしまった足をほぐすように、静かに足踏みをして息を潜める。
巴は扉に小さく手を振っていたが、手は小窓からは見えないような腰の位置にあった。そして、おれたちは扉を背に、階段を踏み出して、二、三段とゆっくりと降り始めた……。
降りる時も、振り返ってはいけない……そう頭の中で言い聞かせながら。
『あけて』
その時、背中から低い声が投げつけられた。
そして。
ごとん、となにか重いものが落ちる音が、確かに聞こえたんだ。
――おれの足は止まった。
隣にいた巴も歩みを止めて慌てて首を動かそうとしたから「ばかっ」って腕を小突いた。
きっと落ちたのは……振り向きたい思いを抑え、おれは振り向かなかった……。
だが、背骨に、ずん……となにかが圧しかかる衝撃を受けたんだ。
なんでかって?
おれも巴も階段から転げ落ちたからだ。
体育ができないアホみたいに、つまずいたワケじゃねえ。
後ろにいた水橋が悲鳴をあげて倒れかかってきたからだ。
おれと巴は後ろを振り向くヒマもなく、二十段近い階段から雪崩れ込むように転がり落とされたのさ。スローモーションで目の前の床がどんどん近づいて、しかも水橋の甲高い悲鳴をBGMにして……おれは勢いよく顎を打った。
あっという間に、四階の踊り場――しかも、おれたちは水橋に背中を押しつぶされていた。
顎を打った拍子で、おれは舌を噛んでいてすぐに悪態をつけなかった。
重い、重いよぉって鼻にかかった声で巴のヤツは泣いてたことに苛立った。
「っち、おい、どけよ、水橋……っ! なんなんだよ、お前は!」
おれは潰されながら、痺れる舌で苛立ちながら水橋を肘でどかした。
抵抗もなく、アイツは、ぐてんと床に潰れるように転がった。
「す、すいちゃん? すいちゃん、どうしたの?」
よく見ると、水橋の体は空気が抜けた水風船みたいにぐったりとしていたんだ。
しかも、白目を剥いて泡も噴いている……まずい状況だった。
がしがしと水橋の体を揺すりながら巴は泣き始めた。
おれは茫然としながら、思わず階段をちらっと見やった。
階段には誰もいなかったよ。
だけど、窓も開いてないのに、冷たい風を吹きかけられたようにおれの髪は揺れて、とても肌寒かったことは今でも覚えてるぜ……。
その後のことは……まあ、簡潔に話すぜ。
巴がわんわん泣いたおかげで、先生たちにおれたちは見つかった。
そんでもって、おれたちはこんな時間までいたことに叱られた。
次に保健室に担ぎこまれて、先生たちはおれたちの手当てをして、目を覚まさない水橋に困っていたよ……電話したり、駆けずり回ってたり、てんてこまい。
怪我の内容は、「階段でふざけていたら転んだ」ってことにしておいたよ……そこまで、まちがってないだろ?
なんせ、おれたちも突き指とか打撲で、顎も打ってたから痣がひどかった。
むしろ、水橋は気絶こそしてたものの、アイツのほうが傷が少なかった。
おれたちがクッション代わりになってたからな。
みんなが緊張している中、水橋は親が来た途端、ぱっちり目を覚ましたよ。
聞きたいことはあったけど、先生に邪魔されてできなかった。
それに、すぐに親に連れられて、水橋のヤツは帰っちまった。
忘来花子については、その日はうやむやに終わった。
巴は一人っ子であの性格だし、両親にケガの心配されたんだろうなあ。
でも、おれんところは、帰って来てケガ見るやいなや母さんは「誰に迷惑かけたの!?」と大目玉だぜ?
むしろ、「迷惑かけられたんだっつーの」ってカンジだけどな。
アニキも、にたにたしながら「血の気ガキ」とか包帯巻いたおれに「小二病」とか馬鹿にしやがって……最悪だったぜ。
なんで実無の兄ちゃん、あんなクソ根暗アニキと友だちになれたんだよ。
それはさておきだ。
結局、おれたちのケガはすぐに治ったし、水橋も元気に登校してきた。
誰かが眠ったままとか……なんてオチにはならず、変わらない日常が戻って来た。
……だがな、一つだけ変わったことがあるんだ。
水橋のヤツが、あれから、忘れっぽくなってしまった。
それがな、聞いたことをすぐに覚えられないぐらいのアホになっちまったのさ。
元々アホだったのに拍車をかけてアホになったんだ。
しかも、アイツは肝心の忘来花子さんのことすら忘れてしまったのさ。
水橋が気絶した翌日、屋上で振り返った時のことを聞いたのに、アイツは「なんのこと?」の一点張り。
しかも「んなことより、今日の給食について話そうぜ!」ってバカ言ったぐらいだ。一緒に行ったはずの巴も給食表のプリントを見せて「今日はわかめごはんだよ~」とか呑気なことで茶々入れやがってさ。
もう……おれもアホらしくなって、忘来花子さんのことをさっさと忘れることにしたよ。
忘れっぽくなったことは笑い事で、みんな済ましている。
実際、クラスでは今まで通り、おバカなお調子者のポジションまんまだ。
水橋の母親も「この子は、いつまで経っても馬鹿で……迷惑かけてごめんなさいねえ」っておれたちに謝っていたぐらいだ。
ただ……時々、ゾッとさせられるところがあるんだよな。
繰り上がりの足し算も首を傾げたり、漢字で書けてたはずの名前も、ノートの表紙を見るとひらがなで全部書かれてたりした時を見た時とかさ。
クラスが替わった今でも、あの一件以降、水橋は自分の家を帰るのにも一苦労。
アイツは自分の家も毎日忘れてしまって、いつも迷子や寄り道ばっかりさ……。
最後に……屋上の扉から声を聞いた一週間後に、例の階段をのぼって屋上の扉を見てみたよ。特に変わったところはなかったぜ。
南京錠が新しくなっていたこと以外はね。
水橋のヤツ、近いうちに、ひょっこり現れた花子さんに連れ去られるかもな。
「一緒に遊ぼ?」なんて言われてさ……なんて、笑えない話だな。
これで、おれの話はおしまい。
そろそろ五時だな……実無の兄ちゃんも怪異に取り憑かれないようにな。
* * * * * * *
【忘来花子さん】 語り部:黒柳 蓮太郎
忘来小学校にいる花子さんに纏わるエピソードの一つ。
屋上に南京錠で閉じ込められた忘来花子さんは、小学生の子供たちを「声」で招くという。
「一緒に遊ぼう」と背中から声をかけられても振り向いてはいけない。
振り向いてしまった人はあまりの恐ろしさで忘れてしまうほどの光景を見てしまうのだから……。
あれから、妹にも忘来花子さんについて聞いてみた。
「ああ、あの図工室で手を釘でうちつけられた花子さん?」と返って来た。
忘来花子さんを見た人に、いつかは会って話を聞いてみたいものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます