第19話 Go Straight On./2

    †


「……若頭がいなくなったぁ?」


 缶チューハイを呷りながら、トーヤは相手を眇め見た。

 幅のあるダボついたパンツに派手な柄のシャツ、ドカンと決めたリーゼントに三連ピアス。これぞチンピラというスタイルを極めたような男だ。ソファには座らず、何故かカーペットの上に正座で姿勢よく座っている様は、如何にも下っ端だった。


「長柄谷の若頭って、たしかまだ高校通ってるおぼっちゃんだろ。友達んでも泊まってんじゃないの?」


「いや、それがどうも2,3日前から学校にも顔見せてねぇらしいんです」


 下っ端のチンピラは顎に垂れる冷や汗を手で拭いながら、戸惑った様子で視線をあっちへこっちへうろうろさせている。それはもちろん目の前のトーヤがタンクトップにホットパンツという出で立ちで足を組んで座っているからだが、トーヤはそんなことを気に留めもしない。


「ふぅん……で? その若頭のおぼっちゃんをウチらにも探してもらいたいわけ? そっちだけじゃ手が足りないの? なんで?」


「……先日、豪蘭会の会長が逮捕されたのはご存知ですかい?」


「豪蘭会? ……ああ、なんかニュースでやってたね」


「それで今、ウチの親っさんがその代行で本部に詰めとるんです。でもほら、ウチも代替わりしたばっかでまだ若いもんすから、なかなか纏めるのに苦心してるみたいで」


「はぁ、それで手が足りないと」


「そうなんす……若もそのことは承知されてると思ってたんですが」


「まぁ、高校生なんて遊びたい盛りでしょ。どうせそのうちひょっこり帰って来るんじゃないの?」


「いや、それが……その、これはここだけの話、内密にお願いしたいんすが」


 改めて姿勢を正し、声を低くし前のめりになる男。その表情は真剣で、冷や汗はまだ止まっていなかった。


「……なんだよ? いいよ、ここには今私しかいないんだから。誰も聞いちゃいない、話してみ」


 その並ならぬ雰囲気に、トーヤもソファに座り直して低い声で返す。


「へい。……実はその、若には護身用ってことで、組の拳銃チャカを渡してあったんす」


「ほ~ぉ……おぼっちゃんが持つにはまた物騒なオモチャだこと」


 キナくさくなってきたな――。トーヤは目を眇めてチューハイの缶をテーブルに置いた。


「それで……その、昨夜ゆうべ、その拳銃チャカが見つかったんすけど」


「何処で?」


「線路沿いの路地に、ポツンと落とされてました。……近くに、大量の血痕もあって」


「……おぼっちゃんが襲われたってこと? 長柄谷の若頭だから?」


「いや、それが……銃に詳しい奴によると、どうもみたいなんす……」


「ふぅん……?」


 眇めた目を、更に細くする。口元に手を当て、様々な可能性を思考する。


「おぼっちゃんが撃ったとなると、誰かを襲ったか、或いは誰かに襲われて咄嗟に反撃したか……その銃に詳しい奴、他には何か言ってなかった?」


「撃ったのはで、弾は相手の胸部を貫通、出血量から見ても、と……」


「でも、死体はなかったんだよね?」


「へい……そいつも不思議がってました」


「現場が見たいな……警察ってもう動いてる?」


「いや、どうっすかね……若に関ることなんで、俺らからはまだ何も言ってないんですが。裏の道とはいえ、人目には付きますんで……」


「なら急いだほうがいいか。今からそこ行くよ。案内して」


「へ、へい!」


 男が頭を下げて立ち上がり、どたどたと廊下を駆けていく。トーヤもすぐに立ち上がり、準備のために部屋に戻ろうとして、テーブルの上の缶チューハイに目を向ける。


「ん~……一応、言付を残しておくか」


 臣也やキヨは携帯を持っているので、連絡をしようと思えばできるが、今は急を要するし、もしもギャングの抗争絡みなら、他のメンバーを巻き込むのはできれば避けたいことだった。

 冷蔵庫に貼ってある臣也からの書置きに追記する形で2,3言付を残し、リビングを後にする。

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