猫のいる坂道

「坂道」

……俺は学校が嫌いだ。

別に友達や勉強に不満があるわけじゃない。ただ、教師全体の雰囲気が吐きそうなくらい嫌いだ。

そのせいか、入学式直後から俺の心身に異変が起きていた。

そして一週間経った今、俺は登校することすらできなくなっていた。学校へ続く坂道の前のベンチに座っている。どうしても、ここから先に踏み出せない。

さっきまで大勢いた他の生徒達はもういなくなっていた。

……ひとりになった途端、不意に涙が流れた。悲しいのか苦しいのか、よく分からない涙だ。

時刻は既に八時半を過ぎていた。今から坂道を登っても遅刻だ。

もう休もう。近くに祖父母の家がある。そっちに行くことにしよう。

「あの、早く行かないと遅刻ですよ」

俺は声のする方へ振り向く。そこには制服を着た同い年くらいの女の子が立っていた。

「早く行っても遅刻だ。ありがとう」

このまま去ろう。

「やってみないとわかりません」

彼女はしつこく話しかけてくる。なんとなく、母親というのはこういう感じなんだろうな。

「そっちこそ、俺に構ってないで早く行けよ。教師共に叱られても知らないぞ。じゃあな」

今度こそ去ろう。

「ダメです。貴方を放っては行けません」

「なんでだよ。俺とお前はなんの関係も無いだろ?いい加減にしてくれ」

俺は咄嗟に責め立ててしまう。少し、申し訳ない気持ちになった。

「……すまん、言い過ぎたな。とにかく俺のことは放っておいてくれ。じゃあな」

去りながら少し後ろを確認する。彼女は下を向いていた。もう呼び止められることはなかった。


その後祖父母の家に行き、事情を説明した。母に連絡してもらい、そして母から担任の先生に連絡してもらった。

先生は、無理してこなくていいと言ってくれたそうだ。

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