プロローグ・2 消滅
「故障中につき、大変申し訳ございませんが階段をご使用ください」
この世って冷たい。
残酷。
非情。
無情。
ぺらーんと風にたなびく貼り紙を半ば呆然、半ば白い目で見つめながら、私はなんとか気力を奮い立たせようとしていた。
無職生活、88日目。
貯金、わずか。(金額は言いたくない!)
就職活動でかけた電話、おそらく三桁……ではオーバーだけど、一日二桁かけまくったのは確実。
送付した履歴書……う。料金とか考えたくないから記憶から無理矢理抹消。
ここまでやって、面接までたどりつけたのは、たった三つ。
あれだけ頑張って、三つよ三つ!!!
就職活動にもあんなにお金と愛想と猫かぶりとマナーと礼儀と…その他諸々、「職場で使う必要あんのそれ???」と全力で突っ込みたくなる内容がたくさんあったけど。
いや、電話対応などのスキルを見極めるためには必要なのよね、うん。
……て、悠長に考えてる場合ではなかった。
あと10分で面接会場にて、三つ目の面接が始まる。
そのために、このビルの八階に行かないといけないんだけど。
エレベーター故障中って。
10階建てのビルなんですから、故障した場合を考えてー。
エスカレーターつけてください頼むから。
「……はぁ」
歩きすぎて痛むふくらはぎを拳でちょっと叩きながら、最後に残っていた気力を奮い立たせる。
これさえクリアできれば、就職活動に終止符が打てる。
無意味な日々が終わる。
自分の価値観がどんどん分からなくなっていく感覚が、きっと消えてくれる。
そうよ、エレベーターがないなら階段よ!!
途中でへばるだろうけど、休憩しつつのぼれば大丈夫!!!
「よし!」
気力満タン!!
さあ行くぞ、
己を叱咤し直し、窮屈なパンプスの中で痛みを訴える指先を宥めて。
ぐっと両手で気合いを込めて、階段に向かって歩き出した。
思えば、これが私の本当の意味での、「始まり」だった。
その数分後に、張り切りすぎて思いっきり足滑らせて階段の最上段から転がり落ちた、その瞬間から。
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