言霊の幸ふ国の物語

新名 翠

言挙げし国より、言霊の幸ふ国へ。

プロローグ・1 消滅の始まり

とても、とても遠い昔。

恒河沙ごうがしゃよりも阿僧祇あそうぎよりも那由他なゆたよりも、さらに遠い昔のお話です。


新しく創られた国で二柱の神様が巡り会い、結婚をし、やがて初めての「子ども」が生まれました。

ですが、その「子ども」はあまりにも異形であったため、「子」として認められることなく、そのまま海に流されて捨てられてしまいました。


その際に、たったひとつだけ、親にあたる神様が放った言葉。

それが「子ども」に与えられた、最初で最後の「おくりもの」でした。

海に流され、それきり親にあたる神様も、他の神様も、その「子ども」の事を忘れました。


ですが、「子ども」は生きていました。

海に流されながらなお、生き続けていました。

たゆたいながら、いつしか考えることを覚え、感情を覚え、少しずつですが成長していきました。

たったひとりで。


やがて、恒河沙ごうがしゃよりも阿僧祇あそうぎよりも那由他なゆたよりも、さらに長い時を経て。

親から放たれた言葉を胸に、たったひとりで成長していった「子ども」は、知らずのうちに身についていた力をふるい始めました。

自分が知る唯一の「場所」。

遥かかなたにある、自分が生まれた国に向かって。

そこに住まう、神々に向かって。


それでようやく「子ども」の存在を思い出した神々は慌てて防御しましたが、すでに遅すぎました。


やがて、国全体が傷つき、疲弊し、なす術もないままに滅びようとしていました。


その国でずっと戦い続けていた王も倒れ、今は病の床にありましたが、

最後の最後まで希望を捨てたくなかった彼は、ある決断をしました。


「助けを求める」ことを。




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