郡山春奈の日常
白状しよう。私は秀樹が好きだ。
自分の気持ちに目覚めたのはいつの頃か覚えていない。ずっと昔だが、その気持ちは今も変わらない。
自分の気持ちを一度告白したことはある。ずっと昔の話だ。
「あ、ないわー。さすがに春奈とはない」
その一言はずっと私の心に突き刺さっている。秀樹がその時のことを覚えているとは思えないが、私はそれ以降秀樹に自分の気持ちを伝えることができないでいた。
だけどこの気持ちは抑えられない。秀樹の事を思うと、どうしようもなく胸が張り裂けそうになる。ましてや秀樹が自分以外の女の人と歩いていたりしているのを見ると、狂いそうになる。
さもしい嫉妬という事はわかっている。だけど、どうしようもなかった。
だから、秀樹に近づく女性はすべて排除してきた。
中谷千春。秀樹の妹だ。
つい先日、秀樹と千春が恋仲だと知った。千春が従兄妹である私に、こっそり教えてくれたのだ。
私は自ら命を絶ち、能力を発動させる。
そして千早が秀樹と恋仲になる前に彼女を殺した。
福沢絵美里。転校生だ。
つい先日、秀樹と絵美里が恋人であるという噂を聞いた。秀樹に確かめたところ、恥ずかし気に頷いた。
私は自ら命を絶ち、能力を発動させる。
そして絵美里が秀樹と恋仲になる前に彼女を殺した。
カチュア・グレドバス・レベストキシア。空から降ってきた王女様。
つい先日、秀樹とカチュアの結婚式の話を聞いた。
私は自ら命を絶ち、能力を発動させる。
そしてカチュアが恋仲になる前に彼女を殺した。
中谷静香。秀樹の腹違いの姉だ。
つい先日、秀樹と静香が新婚旅行に出かけるという話を聞いた。
私は自ら命を絶ち、能力を発動させる。
そして静香が秀樹と恋仲になる前に彼女を殺した。
瑞樹早苗。秀樹の後輩だ。
つい先日、秀樹と枝常が恋仲だと聞いた。
私は自ら命を絶ち、能力を発動させる。
そして早苗が秀樹と恋仲になる前に彼女を殺した。
里山恵。秀樹によく注意する風紀委員だ。
つい先日、秀樹と恵が恋仲だと聞いた。
私は自ら命を絶ち、能力を発動させる。
そして恵が秀樹と恋仲になる前に彼女を殺した。
田代真由美。生徒会長だ。
つい先日、秀樹と真由美が恋仲だと聞いた。
私は自ら命を絶ち、能力を発動させる。
そして恵が秀樹と恋仲になる前に彼女を殺した。
そろそろ説明が必要だろう。
私は時を遡ることができる。
発動条件は自分の死亡が条件だ。死後、全ての記憶を持ったまま生まれた瞬間から人生をやり直すことができるのだ。
秀樹に女性が近づき、恋仲になるたびに私は命を絶って赤子からやり直す。そしてその女性を次は秀樹と仲良くなる前に抹殺していた。
そう。秀樹の妄想は妄想じゃない。前の秀樹が得た消去された過去の話だ。どうも秀樹はそういった事件に巻き込まれやすいらしい。
「ええい、どうしていつもいい所で邪魔をするかな!?」
「邪魔も何もいないから。そんな女居ないから」
「そんな現実は聞きたくない!」
「あー、もう。毎回毎回言ってるけど、」
私は断言できるのだ。ずっと先を知っているから。
「朝起こしてくれる妹も」
二回死体処理でしくじって、三回目の
「ぶつかってくる転校生も」
四回抵抗されて逃げられ、五回目の
「空から降ってくる女の子も」
二十三回王宮の警備に阻まれ、二十四回目の
「腹違いの格闘姉も」
十七回危険回避され、十八回目の
「犬のような後輩も」
四回死体処理でしくじって、五回目の
「クーデレな風紀委員も」
一回死体処理でしくじって、二回目の
「お姉さん風な生徒会長も」
二回死体処理でしくじって、三回目の
「アダルトな先生も」
「病弱な少女も」
「魔法少女も」
「少女探偵も」
「最終兵器な彼女も」
「箱に入った人形も」
「異世界から来た女騎士も」
「有名アイドルも」
「悪魔的な双子小学生も」
「祖父が契約していた悪魔娘も」
「遠い異国のメイドも」
「妖怪と人間のハーフ娘も」
「機械仕掛けの女の子も」
「大学の先輩も」
「ゼミの女教授も」
「会社の女上司も」
「取引先の可哀そうな女営業も」
「行きつけ先の酒屋の親娘も」
「町をさ迷う家出娘も」
「喫茶店のお客さんも」
「雀荘に働く一人娘も」
「旅行先の女将も」
「たまたまであった同級生も」
「偶然出会った幼馴染も」
「臨終に迎えに来た女死神も」
殺した。何度もしくじり、その度に初めからやり直し、その度に同じように秀樹に近づくであろう女を全て殺してきた。
だから言えるのだ。
「そんな女はいないから」
郡山春奈、この世に生を受けて九万七千六百八十六年。
ずっと一人の従兄妹を愛してきた、そんな少女の日常。
中谷秀樹と郡山春奈の平々凡々な従兄妹関係 どくどく @dokudoku
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